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2019/02/18

立川ぜん馬、渾身の『ちきり伊勢屋』(2019/2/17)

「ぜん馬・扇遊 二人会」

前座・桂こう治『牛ほめ』
<   番組   >
立川ぜん馬『ちきり伊勢屋』
~仲入り~
入船亭扇遊『付き馬』

水泳の池江選手が白血病だったという事が連日の様にニュースやワイドショーなどでとり上げられていた。
「本人が治療に専念し無事回復できるよう静かに見守りたい」
と揃って言っておいて、大騒ぎしている。
池江さんと医療スタッフ以外の第三者が、今直ぐに出来ることは何もない。だから文字通りじっと静かに見守るしかない。
この件でよけいな事をしゃべって五輪担当相が叩かれていたが、あの人は他人の名前も覚えない、自分の経歴さえも思い出せない、落語でいえば与太郎だ。与太郎に罪はない。「愚者無罪」である。
むしろこの件で分かったことは、志ん生じゃないが五輪担当相なんてもんは「シャツの三つ目のボタン」で「あってもなくてもいい」存在だということ。スポーツなら文科省の所管だし、JOCや五輪組織委員会があり、主催者である東京都がある。こんな大臣を置くこと自体が間違っているのだ。

さて本題の「ぜん馬・扇遊 二人会」。
立川流の中で最も噺が上手い人はと言うと、これは人によって答えが異なるだろう。私は立川ぜん馬が一番だと思う。昨年聴いた『夢金』なんか実に結構でした。本寸法だし芸に艶がある。
何より立川流の一部にある「どうだ、オレはうめえだろう」臭が無いの良い。だいたい、自分は上手いなんて自惚れているのにロクな噺家はいない。そういうのはせいぜいTVのコメンテーターでもやって稼ぐんだね。誰とは言わないけど。
立川ぜん馬の話に戻るが、5つの癌と闘い(本人曰く、罹ってないのは子宮癌と乳癌だけ)、落ち着いてきたら新たに血球貧食症候群という難病を患っている。それでも元気に高座をつとめているが、この日は声の調子が悪いため当初の出番を入れ替えて前方に上がった。

ぜん馬『ちきり伊勢屋』
確かに声の出が悪く、ネタも途中で切り上げる事になるかもしれないというお断りがあった。その場合は後方の扇遊が2席演じる予定で待機しているという。今日がぜん馬の最後の高座になるかも、だから今のうちご祝儀をなどと冗談を言いながら本題に入る。

【あらすじ】
麹町の質屋ちきり伊勢屋の若旦那傳次郎が、占いが当たると評判の易者の白井左近に易を診て貰うと死相が現れているのを見とがめ、およそ半年後の来年二月十五日の正九刻に死ぬという。亡父のむごい商いの祟りが傳次郎自身にふりかかったものでどうすることもできない。残された人生は善行を積んで来世に望みをつなぐことしかない宣言される。
絶望した傳次郎は次の日から江戸を歩きまわり貧しい者を助ける。赤坂の喰違坂で首を括くろうとする哀れな母親と娘に百両与えるなど人助けに励む。それに飽きると今度は茶屋遊びから吉原、柳橋を遊び倒して財産が尽き果てるころ、店の者に手当を渡して暇をやり、左近が予言した自分の命日を待つ。
いよいよ二月十五日の正九刻を向かえると、金にあかした葬儀が始まる。傳次郎は立派な死に装束で棺桶に入り、菩提寺で大和尚にねんごろな読経をあげてもらい、正九刻に墓に埋めようとしてもまだ生きている。 
結局生きたまま全財産を失った傳次郎は、とうとう宿無しとなってしまう。その年の9月になって、傳次郎は高輪の大木戸で白井左近に出くわし、お前の占いが外れたからこんな目に合ったと文句を言う。すると左近はもう一度傳次郎の顔を診て、あなたが首くくりの母娘を助けたことで父親の悪行の呪いが解けたのだ。八十まで長生きするのだと言う。
怒る傳次郎に左近は、品川のほうに幸福があると告げる。そして所持していた金から1分を傳次郎に渡し、傳次郎は言われるままに品川に向かう。
その途中で遊び仲間だった伊之助に出会う。伊之助も道楽が過ぎて勘当され長屋暮らしをしていた。
ぶらぶらしている二人に長屋の大家が駕籠かきになるのを勧める。二人は辻駕籠を始め、かつて傳次郎が贔屓にしていた幇間を客に乗せる。傳次郎はその幇間から、以前にお前にあげたものだからと羽織と着物を返させ、近くの質屋に羽織と着物を質入れに行く。
その質屋の奥から現れた女主人が美しい娘を連れて現れ、「もしや伊勢屋の傳次郎様ではございませんか?」「へい。どなたでいらっしゃいますか。」「私どもは以前赤坂で助けてもらったものでございます。」「ああ、そう云えば」「おかげで命も助かり。今こうしていれるのもみなあなたのおかげでございます。改めてお礼を申し上げます。」「わたくしは全身代失ってこんな有様でございます」「つきましては、うちの娘を嫁にもらって家督を継いでは頂けないでしょうか。もう一度ちきり伊勢屋の暖簾を挙げてもらえればこんなうれしい事はございません」
傳次郎は左近の予言はこれだと思って願いを受け容れ、二人は伊勢屋の店を再興し、ともに長寿を全うしたと言う。

ぜん馬がこの噺をネタ下ろししたのは昨年だそうだが、余命を宣告されながら生き続け天寿を全うした傳次郎に自分の姿を重ねたものと思われる。
最初は調子が悪かった声も次第に出るようになり、中断することもなく1時間超の長講を演じきった。
緊張感の中に笑いを散りばめて客席を引き込んだ、素晴らしい出来だった。
この日の高座に接したお客は幸せである。

扇遊『付き馬』
こちらも良かった。細部に至るまで神経の行き届いた高座はいかにも扇遊らしさが出ていた。
妓夫太郎を騙す男も扇遊が演じると、どこか憎めないのだ。

実力派二人の長講2席、実に結構でした。

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コメント

ぜん馬師の高座は未体験ですが、行間から良い噺家の匂いというか香りというか。扇遊師は言わずもがな。

ちきり伊勢屋や御慶などの易者の先生のその後が知りたいものです。幸せの御裾分けがあったのかしらん。


3月15日を無事過ぎましたら、鈴本の下席に行く予定です。

蚤とり侍様
こういう高座に出会えるのは年に一度あるかないかですので、とても幸せな気分でした。
機会がありましたら是非、ぜん馬の高座をお聴きください。

志らくは談志DNAの継承者だと主張するあまり、敬遠されているんでいょうか。
昔からマスコミ受けのするキャラだと感じてましたが、たしかに良く出ていますね。
前座経験のある高弟たちの一人ぜん馬の評価は高いものがあります。小朝も一目置いているくらい。

福様
ぜん馬、立川の本流とは外れている感もありますが、実力は折り紙つきです。病が早く全快して元気な高座に戻って欲しいです。

ぜん馬を見なくちゃ。
そもそも五輪なるものが不要不急でしょう。

佐平次様
ぜん馬、機会がありましたら是非。
前回の東京五輪に合わせて東京の地名が大きく変えられ、歴史的な由緒ある地名が一気に無くなりました。五輪終了後は不況におそわれ、私の会社では社員の2割が退職させられました。
だから、東京五輪なんてクソクラエ!

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