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2019/02/08

面白うてやがて哀しき・・「Le Père 父」(2019/2/7)

「Le Père 父」
日時:2019年2月7日(木)19時
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
脚本:フロリアン・ゼレール
翻訳:齋藤敦子
演出:ラディスラス・ショラー
<   キャスト   >
橋爪功:アンドレ
若村麻由美:娘アンヌ
壮一帆:女
太田緑ロランス:ローラ
吉見一豊:男
今井朋彦:ピエール

この戯曲は、ある父を巡る悲しいコメディであり、誰にとっても身近な物語だ。
若い看護師が泣きながらアンヌに電話をしてきたため、父に何らかの異変を感じ、行くはずだった旅行を急きょ取りやめてやって来た。父は看護師を自分の腕時計を盗んだと悪党呼ばわりし、自分は1人でやっていけるから看護師の助けなど必要ないと言いはる。しかし、アンヌに指摘されると、その腕時計はいつもの秘密の場所に隠してあった。なぜアンヌは誰も知らないはずの自分の隠し場所を知っているのか、と父は訝る。そして今自分が居るのは、長年住んだ自分のアパートなのか? ここは何処なんだ? 部屋の出入りする男や女は何者なのか? いや、娘の顔さえ思い出せないこともある。何が真実で何が幻想なのか? 
自分自身の信じる記憶と現実との乖離に困惑する父と、父の変化に戸惑う娘。
最終的にアンヌはある決断をするが・・・。

テーマは、ずばり「認知症」だ。
私の母は91歳でが、最後の数年間は私の顔さえ覚えていなかった。
母の妹、つまり叔母は死の直前まで意識がしっかりしていたが、連れ合いの死、息子の経済的破綻により自宅を売られ施設に入所した現実を嘆き悲しんで亡くなっていった。
どちらが人間として幸せだろうか。叔母も認知症であれば、あれほどの悲惨な思いをせずに済んだかも知れないと。
そんな思いを巡らせながら、この芝居を観ていた。

そうした現実をユーモラスに描いているので、父アンドレ(実は自分の名前さえ忘れてしまっているのだが)のチグハグな言動は観ていてしばしば笑いを誘う。
面白うてやがて哀しき物語なのだ。
この戯曲は2012年の初演以来、欧米諸国や南米、アフリカ、アジアなど多くの国で上演が繰り返されてきた。
日本では今回が初演なのは不思議なくらいだ。

主役のアンドレを演じた橋爪功は正に「はまり役」。残酷な現実をこれほどユーモラスに演じることが出来る人はそうはいない。
娘のアンヌを演じた若村麻由美のひたすら純粋な姿は心が打たれる。いつも思うのだが、彼女は舞台映えする女優だ。
他の演技人もそれぞれ良かった。
アンドレも美女たちに囲まれ幸せそうだったのが救いか。

決して観て損のない芝居なのでお薦めできる。
公演は24日まで。

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演劇」カテゴリの記事

コメント

身に積まされますな。
昭和ひとケタ(7年)の母を持つ身とは・・・
とは・・は千早の本名だ

閑話休題

元気な時と気弱の時のスイッチの落差に振り回されている今日この頃です。

蚤とり侍様
母が私の顔も名前も全く覚えていないのには凄いショックを受けました。でも、接しているうちに何か見覚えがある人らしいという反応があった時はちょっと嬉しかったです。

橋爪も若村もTVドラマじゃ彼らの真価はわからない、やはり役者は舞台にあがってこそと思いました。劇から受ける想いは観客の人生経験を反映しますが、某評論家(分野は伏せる)も今回の舞台について書いていて、読んだら“浅さ”に本業への信頼がちょっと薄れたのは思わぬことでした。市から認知症シニアの行方不明メールを着信するたび切ない昨今です。

Yackle様
私の母も何度もパトカーのお世話になりました。最終盤で施設に入った主人公が「ママ、迎えに来てくれ!」と泣き叫ぶ姿には胸が打たれます。

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