これって分かります?「ヒネルシャー」「鉄管ビール」
月刊誌「図書」に思想連鎖史が専門の山室信一氏が「モダン語」について書いている。
モダン語の定義としては「現代社会における新鮮な常識となり、溌剌たる生活要素となりつつある新語、外来語、術語、隠語」とされている。
ただ言葉の性質上、出所や流通する空間も流動的であり、同じ言葉も別の意味に使われたりするので捉えにくい。
「モダン語辞典」なるものも過去にいくつも発行されていたようだが、編纂時に採用したものの刊行時には既に廃れていたということもあり、使用に適さない例が多いようだ。
また、モダン語について「概ね外来語、もしくはその変形語にすぎない」という指摘もある。確かにアパート、コンクリート、スクリーン、ジャズ、イデオロギー、インテリなども、かつてはモダン語だった。
戦後、英語が解禁されたことから、英語をもじったモダン語がいくつも生まれた。その多くは死語と化しているが、中には現在も使用されている場合もある。
ヒネルシャー:水道。戦後それまでの井戸水から水道に切り替わる所が増えたため、水栓をひねるとシャーっと水が出ることを示す。当時の住宅売り出しには「水道完備」なんて表示がなされていた。
鉄管ビール:水道水。ビールなどとても口に入らなかったので、せめて鉄管ビールでも。
ゴーストップ:道路の信号。Goとstopを組み合わせたもの。圓生の古い録音でも使われている。
私たちも子ども時代に英語風に表現する言葉遊びが流行った。
スカート:スワルトバ(場)-トル
饅頭:オストアン(餡)デル
今では普通に使われている「大正デモクラシー」も戦後のモダン語だった。
民主主義を表す「デモクラシー」を「でも暮らしいい」と語呂合わせしたり、「貴族政治」を意味する「アリストクラシー」をもじって「アルトクラシイイ」で「お金」「裕福」を指していた。いずれも原義を活かした上手い語呂合わせと言える。
外来語ではないが、これも一般名詞になった「漫談」もモダン語だった。
無声映画の活弁士だった大辻司郎と徳川夢声が相談して造った新語で、決められた筋も結論もない話術を指す。落語家のマクラなども漫談と言えよう。
この漫談という言葉が流行ったことから、1932年に大阪の吉本興業が従来の「万才」を「漫才」と表記を改めた。
モダン語で最も多いのは名詞を動詞化したもので、これを更に短縮化したものもある。
洒落⇒しゃれる
駄弁⇒だべる
野次⇒やじる
アジテーション⇒アジる
サボタージュ⇒さぼる
時に政治風刺をこめたモダン語もあった。
初代朝鮮総督で軍人政治家である寺内正毅首相に「ピリケン」という綽名が付けられていた。これは頭が尖っていて眉が吊り上がっていたのが「ピリケン人形」に似ていたのと、「非立憲」の政治思想を掛けたものだった。
そうすると今の安倍首相も「非立憲(ピリケン)」だね。
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