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2019/03/23

落語『転宅』の「お菊」をどう演じるべきか

落語に『転宅』というネタがあり、しばしば高座に掛かるのでご存知の方も多いだろう。
あらすじは、次の通り。

妾宅から旦那が帰宅しようと、帰りがけに妾のお菊(又は、お梅)に50円を渡す。これを見ていた泥棒が隙を見て家に忍び込み、旦那の残したご馳走を飲み食いしているとお菊が戻ってくる。
驚くお菊に、泥棒は先ほど旦那から預かった金を出せと脅す。処がお菊は、自分も元は泥棒で、旦那とは別れ話が進んでいてあの金も手切れ金の手付だったと明かす。
そうなると私も亭主を持ちたいと思っていたところで、私を女房にしてくれと色仕掛けで泥棒に迫る。
夫婦固めの杯を交わした泥棒はすっかり有頂天になり泊まっていくと言い出すが、お菊は2階に用心棒がいるからと明日出直すようにと泥棒に言う。明日の昼に三味線の音を合図に家に来るようにと泥棒を返すが、その際に男が大金を持ってると浮気するからと泥棒の財布から札を抜く。
翌朝、泥棒が妾宅に行くと雨戸が閉ざされたままで、いつまで経っても三味線の音が聞こえない。不審に思った泥棒が向かいの煙草屋に訊くと「あの家の方は今朝引っ越し(転宅)ました。実は夕べ泥棒が入ったのですが、それがまた間抜けな泥棒で、お菊さんが泥棒に色仕掛けで夫婦約束をしたっていうんです。そのうえ泥棒から金をふんだくったとか。そろそろ、その間抜け野郎が来る頃だから、近所の連中も物陰からのぞいて待っているんです。アンタも見て行きなさい」
驚く泥棒が「あの女は一体何者だったんで?」
「元は娘義太夫のお師匠さんだったとか」
「道理で上手く語りやがった」
「騙る」と「語る」を掛けたサゲ。

古今を通して多くの演者がいるが、極め付けは3代目三遊亭金馬である。
その理由は。

私の両親は戦前に中野でカフェをやっていた。カフェというと喫茶店を想像するかも知れないが、テーブルとボックス型の椅子が置かれ、客の傍で女給が接待してくれるというスタイル。蓄音機からは流行歌が流され、客と女給がダンスすることもある。今でいえばクラブがキャバレーに近い業態だ。
そういう場所だから、客の中にはヤクザもいる。
ある時、ヤクザと店にトラブルがあり、そいつがいきなりドスをテーブルに突き立て「ぶっ殺すぞ!」と大声をあげた。その脅しに驚き、父親や女給たち全員が店から逃げ出した。
一人母親だけがヤクザの前で「殺せるもんなら殺してみろ!」と啖呵を切った。勢いに押されたヤクザは「女を殺してもしょうがねえ」と言って帰って行った。
後から母から聞いたのだが、実は恐ろしくて膝がガクガク震えていたそうだ。ヤクザが去った後もその震えは止まらなかったと言っていた。本当は怖くて仕方なかったのだ。

『転宅』のお菊さんも実は怖くて仕方なかったんだろう。家の中には泥棒と二人きり、身の危険もあるし、旦那から預かった大事な金も守らなくていけない。そういう恐怖心を抱えながら必死に泥棒を退散させたのだ。その証拠に、泥棒が家を出て行った直後に、お菊さんは向かいの煙草屋に駆け込んでいる。

私が3代目金馬を評価するのは、お菊さんが家に戻り泥棒を見つけた時の驚きや恐怖が、きちんと演じられているからだ。
最近の演者に不満なのは、お菊さんがあまり驚きもせず、頭から泥棒を飲んでかかっているように見えるのだ。
落語とはいえ、そうした心持を忘れずに演じて欲しい。

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コメント

私も三升家迂闊でした。
見た高座は誰もがお菊が一枚も二枚も上、泥棒をいとも簡単に騙り、撃退したという感じでした。
その分、後の泥棒の落胆が際立つという感じもありました。

福様
もしお菊が泥棒を頭から飲んでかかって、1枚も2枚も上手なら、泥棒が去った直後に向かいの煙草屋をわざわざ起こして顛末を語る必要性は無かったわけで、やはり恐怖心で一杯だったと解すべきかと思います。

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