三遊亭圓生『早桶屋』で分かった「図抜け大一番小判型」の謎
6代目三遊亭圓生に『早桶屋』というネタがある。圓生はこの噺を名人といわれた4代目橘家圓喬の高座を聴いていて、教わったのは初代柳家小せん(通称メクラの小せん)からだ。
この噺は通常『付き馬』という名で演じられていて、中身はほぼ同じだが、圓生の『早桶屋』ではマクラで早桶の解説をしている点が異なる。これは、このネタの後半を理解する上で大事なポイントだ。
早桶は、死者が出た時に間に合わせで急いで作るところから、この名が付けられた。座棺で、死者は座ったまま前で手を組んで棺に葬られる。明治から大正初期まで使われていたそうだから、この噺もその頃の時代のものだろう。
早桶の種類は4つあった。
・並一番:男性用
・並二番:女性用
・大一番:背の高い男性用
・図抜け大一番:相撲取りの様な大男用
噺の中で、付き馬を騙して料金を踏み倒す男が、早桶屋の「おじさん」に注文するのが「図抜け大一番小判型」だ。私は以前から、なんで男がこんな形の注文をしたのか、ずっと不思議に思っていたのだが、圓生の解説を聞いて納得できた。
男が注文する早桶が既に店に有ったので話が成り立たない、つまり特注品であることが必要なのだ。
後半のストーリーでは、男が他の店では断られてたが、「どうしてもコサエテ貰いたい」として「おじさん」に話を持ち掛けるという設定だ。職人が面白そうだからやってみるという事で、「おじさん」もコサエルと請け合ってしまう。つまり、特注品ではあるが、製作は可能という製品を狙ったわけだ。
この男はよほど優秀な詐欺師だったようで、全て計算し尽くしている。
なぜ男の注文が「図抜け大一番小判型」なのか謎が解けた。
圓生の高座では、更に綿密な仕掛けが施されている。
先ず、男が湯屋に行くと言い出すと付き馬が訝る。そこで男は、「田町のおばさんの所へ行けば、50や100(円)の金は直ぐに用立ててくれる」と言って、付き馬を安心させる。当時の田町は、浅草の一部から日本堤周辺の一帯を指すので、吉原からも近いのだ。処が男は仲見世から雷門方向に歩いて行く。つまり田町からどんどん離れてゆくので、付き馬が怒り出す。そこで男は、田原町の「おじさん」を持ち出す。
また、男は付き馬に「おじさん」から40円を受け取ってくれと、金額を明示する。揚げ代の28円50銭に湯屋、小料理屋での飲み食いの立て替えに加えて、数円の付き馬への祝儀が含まれた金額だ。さらに帯を付けてくれると言うのだ。
あまりに美味しそうな餌を仕込んで来るので、すっかり付き馬もご機嫌を直してしまう。
圓生の噺を聴いて、改めてこのネタは良く出来ていると再認識した次第。
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