さだまさし・らくごカフェ・武道館
歌手のさだまさしが落語ファンで、学生時代に「オチ研」に入っていたとは、以前耳にしたことがあるが、神保町にある「らくごカフェ」との意外な関係について、月刊誌「図書」7月号に本人が書いている。
さだは國學院高校の時に落語研究会に所属していた。先輩に橘家二三蔵(7代目橘家圓蔵門下)がおり、さだが在学中に鈴本演芸場で落語会を開いたほどの由緒ある落研とのことだ。OBたちが集まって「語院居の会」を作っているが、さだが会長で、後輩の青木伸広が世話人代表。その青木が「らくごカフェ」のオーナーだ。
10年前に青木が突然「寄席の席亭になります」と言い出した。周囲はどうせ長続きしないからと止めたが、青木は「多分だめでしょうが、もし10年続いたら何かご褒美をください」というので、さだは「ああ、何でもやるよ」と答えていた。それが今年で10年もっちゃたのだ。
ご存じの通り、東京の落語家には階級制度があるが、最も難しいのは「二つ目」の時と言われている。師匠の身の回りの世話が無くなるが、生活は全て自分でしなければいけない。焦りや悩みで自分を見失い、脱落してゆく人も少なくない。
そうした二つ目の噺家に勉強会や独演会の場を与えるのが小さな寄席の存在だ。
「らくごカフェ」は座席数が50席ほどで、席料は2万円。入場料1000円として20人入れば赤字にならなくてすむ。30人入れば1万円の収入となり、貧しい落語家にとっては大きな励みになる。そうした若手に愛され支えられて10年続いたのだ。
その青木が突然、10周年記念の落語会を、それも武道館でやりたいと言い出した。「先輩、約束通りご褒美をください」とさだに出演を依頼してきた。青木が予て知り合いの志の輔と談春にさだを加えての侃々諤々の議論の末、今年の2月25日に武道館の落語会が開催された。
プログラムは、第1部が若手が集まって盛り上げ、最後は一之輔が『堀の内』を演じた。
第2部は、さだまさしのライブ。
第3部は、談春が『紺屋高尾』を演じた後に、さだが『いのちの理由』を歌った。
第4部は、志の輔が『八五郎出世』を演じた後に、さだが『親父の一番長い日』を歌って、お開き。
当日は、平日の午後4時開演にもかかわらず、8000席が完売という盛況。5時間の長丁場は熱気に溢れていた由。
落語通と呼ばれている人にも好評で、出演者一同も「武道館で落語って、ありですね」とすっかり気を良くしていた。
「僕は自信ありましたけどね」と言った青木、実はこのプログラムにある仕掛けが施してあった。
それは、談春と志の輔のそれぞれの1席の後のさだまさしの歌が、ネタへの「返歌」になっているのだ。その理由は、落語とさだまさしの歌に詳しい人には分かる。
そう聞かされたさだは、そっと涙ぐんだ。
最近のコメント