民藝「闇にさらわれて」(2019/7/1)
劇団民藝「闇にさらわれて」
日時:2019年7月1日(月)18時30分
会場:紀伊國屋サザンシアター
作=マーク・ヘイハースト
訳・演出=丹野郁弓
< キャスト >
イルムガルト・リッテン=日色ともゑ
ハンス・リッテン=神敏将
カール・フォン・オシエツキー=佐々木梅治
エーリヒ・ミューザム=横島亘
コンラート博士=千葉茂則
フリッツ・リッテン=西川明
グスタフ・ハメルマン=大中耀洋
クリフォード・アレン卿=篠田三郎(客演)
突撃隊員、親衛隊員など=岡山甫 近藤一輝
命の危険にさらされている息子を必死に助けようとする母親を描いたこの戯曲は、1930年代のドイツでヒトラーが政権を奪取し、思想弾圧や民族浄化を強めた時代に実際にあった物語だ。
弁護士のハンス・リッテンは、父フリッツは高名な大学学長、母イルムガルトという良家に育つが、保守的な愛国者の父とは正反対にマルクス主義に傾倒し、反戦平和運動に身を投じる。父が結婚を契機にユダヤ教からキリスト教に改宗したことの反発から、ハンスはユダヤ教徒となる。
ハンス・リッテンを一躍有名にしたのは、1930年にベルリンの酒場エデンパレスに集まっていた共産党の若者に、ナチス突撃隊(SA)が武器を手に襲い掛かり殺傷した「エデンパレス事件」だ。
この裁判でリッテンはヒトラーを証人喚問した。リッテンは証拠を示してヒトラーの非合法・暴力路線の実態を追及する。
処が、1933年にヒトラーのナチ党が政権を握ると「緊急令」(自民党の改憲案にも類似の案がある)を発令し、国民の基本的人権を奪う。続いて「全権委任法」を発動し、立法権がナチ政府の手に渡ってしまう。政治犯やユダヤ人は逮捕され、強制収容所に送られる。リッテンもこうした中で捕らえられ残虐な拷問を受け、強制収容所に送られてしまう。
当時のドイツは、ヒトラーーとナチは国内では熱狂的な支持を受け、国外でも英国や米国ではむしろヒトラーの手腕を評価する向きまであった。そのため、ドイツ国内で行なわれたユダヤ人殺戮などが一部を除き大きく採り上げられ事が稀だった。
ハンスの母イルムガルトは、杳として行方を絶った息子を救出するために、身の危険を顧みず孤独な闘いを始めるのだが……。
民藝の芝居を観るのは久しぶり、というか数十年ぶりだ。
舞台は、リッテンやその仲間に加えられる残酷な行為と、母親が助命のためにゲシュタボの本部まで乗り込んで交渉、嘆願する姿が交互に演じられる。
リッテンたちの困難な中でも明るさを失わず、最期まで公正で清廉な生き方を貫く姿は感動的だ。
母親を演じる日色ともゑの、凛とした姿は舞台を引き締めていた。
ただ、テーマがテーマだけにいかにも重い。
また、命を助けたい一身とはいえ、息子に仲間を売るよう勧める母親の姿はあまり見たくなかった。実話だから仕方ないのだろうが。
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