東京芸術座「終りに見た街」(2019/8/22)
「終りに見た街」
原作/山田太一
脚本/いずみ凜
演出/鈴木龍男
【あらすじ】
時代は現在、東京の荻窪に住む清水の家族、夫の要治はIT企業に勤めるサラリーマン、妻の紀子、娘の彩奈、要治の父親で85歳になる太吉の4人暮らし、部屋には要治が開発したスーポラと呼ばれるロボットが置かれている。
そこに旧友の宮島敏夫とゲーム依存症の息子・新也の親子が訪れ、旧交を温める。
その2日後、清水夫妻がが庭に出ると周囲の景色がガラリと変わっていて戸惑う。外の掲示板には昭和19年と書かれていたのだ。そこへ親子で釣りに出かけていた宮島から電話があり、やはり今が昭和19年になったといって、二人は清水の家に着き、しばらく同居することになる。
空襲警報や防空訓練、竹槍の訓練、配給制度に食料不足といった状況に追い込まれながらも、なんとか切り抜けてゆくが、若い彩奈は郵便配達、新也は軍需工場で働きだす。
清水と宮島は、未来から来た人間の義務として、人々にこれから起こる東京大空襲の危険を知らせようとビラを配るが、人々は非国民と疑われるのを恐れ、結局誰も逃げようとはしなかった。
そして新也が突然帰宅するが、帝国軍に入隊しており、戦地に向かうと宣言する。新也は敏夫、要治の考えている事はおかしいと言い、また彩奈もそれに同調する。
不意に空襲警報が鳴り、要治は自分たちのいる場所は安全で攻撃されない場所だと言うが、起こらない筈の空襲を受けてしまう。閃光が光り、要治が目を覚ますと、そこは見渡す限りの瓦礫と焦げた無数の死体の山。そして廃墟となったビルや東京タワー。そこは2XXX年の死の街・東京であった。
既に2度TVドラマ化されている作品で、それを舞台化したもの。オリジナルが昭和であるのに対しこちらは令和。主人公の清水要治の職業がAI技術者で家には試作のAIロボットが置かれたり、宮島の息子の新也がスマホゲームの依存症であったりという設定の違いはあるが、大筋はTVドラマと同様だ。
現代の人間が戦時中にタイムスリップして、既知の時代を生きる経験を通して、もし将来の人間が今の時代にタイムスリップしたら?を問うことをテーマにしている。昭和19年の人々が清水らの忠告に耳を傾けずに多くの犠牲を出したと同様に、今の私たちが何も考えず何も実行しなければ、やがては破滅するしかないという警鐘を鳴らすものだ。
ただ終幕の演出は、意図が観客にうまく伝わっただろうか。
公演パンフレットに原作者の山田太一が書いた本のあとがきが転載されているが、興味深いことが書かれている。
終戦の年に山田少年は小学5年生だった。理科の時間に教師がいま日本で密かに開発されている「特殊爆弾」について説明があった。それが完成すれば、ワシントンに一発、ニューヨークに一発落として、日本が勝利するというのだ。それを聞いた生徒たちは、その爆弾が一日も早く完成し、アメリカの人々を皆殺しにしてくれることを心から願った。その時の先生の目の輝き、子どもたちの興奮を思い起こすと、原爆についてアメリカを非難する気持ちになれないと、山田は書いている。
こうした体験も本作品に反映されているようだ。
公演は25日まで。
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