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2019/08/12

【書評】”ルポ「断絶」の日韓 なぜここまで分かり合えないのか”

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牧野愛博 ”ルポ「断絶」の日韓 なぜここまで分かり合えないのか” (朝日新書–2019/6/13初版)

世の中は「嫌韓」「反韓」一色だ。「韓国とは直ちに断交すべき」といった勇ましい言説が支持を得ている。ネットにはまるで同一人物が書いたような文章がならび、識者らが少しでもこれに異論を唱えると袋叩きにあう始末。きっと戦時中もこんな雰囲気だったのかと思うと背筋が寒くなる。
日韓関係が悪化して、民間人にとって得になることは何もない。得をするのは両国の政権だ。支持率の向上には両政権とも恩恵を受けているようだ。
しかし、ポピュリズムに乗っかった外交がいかに危険かは歴史が証明している。
日韓の関係悪化に伴って、つい最近まであれほど騒がれていた北朝鮮の脅威は、すっかりどこかに飛んでいってしまったようだ。国民に避難訓練まで呼びかけ、これを批判した著名人が「国賊」と非難を受けたのがウソのようだ。
ここのところ連日のように北はミサイルを発射しているが、最初の発射に際して安部首相が「我が国の安全保障には影響しない」と語っていたのには驚いた。
先日の北朝鮮のミサイルは”KN-23”型と呼ばれるものだが、低軌道を飛び、しかも降下中に微妙に水平方向への滑空を繰り返す機能を有しているので、ミサイル防衛での迎撃がきわめて難しい。短距離だが射程800キロメートル以上は可能なので、韓国全土と日本の中国地方や九州北部を攻撃できる代物だ。
トランプはアメリカには届かないからと悠然としているが、こっちはそうはいかない。
安全保障の面でも日韓は協力しなくてはいけない。「嫌韓」を叫ぶ人々は、それが誰の利益になるのかをよく考えたほうが良い。

本書の著者は朝日新聞のソウル支局長を務め、現在は論説委員。通算して約10年韓国にいたので、内情にはかなり詳しい。加えて、国交のなかった時代から長く韓国の領事などを務めてきた町田貢と親しく、彼の知見も多く引用されている。
余談だが、アマゾンで自分の気に入らない著者の本だと片っ端から★一つを付けている者がいる。本書もその被害にあっているようだが、まったく「あの連中」にも困ったもんだ。

その町田貢の見解として、次のように記されている。
”「過去の取り決めも、現在の判断で覆して構わないという韓国の国情も大きい」。
韓国は5年間の大統領の任期が変わるたびに、政策が大きく変わる。外交分野では遠慮があるが、日本はその例外にあたる。「民族を抹殺し統治した日本への遠慮はいらないという感情が根底にある」”
このたびの日韓関係の悪化の原因となった文在寅政権の政策を端的に表したものだ。
朴槿恵政権を打倒して生まれた文在寅政権は、朴の決めた事を全て覆そうとしている。その典型が慰安婦問題であり、徴用工問題だ。
韓国では歴代大統領はいずれも暗殺、あるいは自殺、それでなければ刑務所だ。
朴前大統領は懲役24年の判決が確定し収監されている。朴政権の高官のうち60名が刑務所に入れられ、その他の人もいつ逮捕されるかビクビクしながら暮らしているとか。
ここまで来ると、司法権を使った報復にしか見えない。

文政権の中枢は、韓国の軍事政権の時代に民主化運動を進めた人たちが中心だ。彼らは日韓賠償協定を、日本政府が軍事政権を支援したものと捉えている。だから余計に日本政府に対して厳しい態度を取る。
日章旗を戦犯旗と決めつけたり、レーダー照射問題に対する感情的な対応もそこから来ている。
韓国の外交は対米、対日本が中心だったので、優秀な外交官はアメリカや日本の部門に集まっていた。処が、文は彼らを嫌い一斉に閑職に追いやってしまった。その結果、正確な情報が大統領府に伝わらなくなった。外交部長官(外務大臣に相当)の康京和は英語は堪能だが、外交は素人に近い。この点は、日本の河野も同様だが。
そうした事も外交が停滞している一因となっている。

悪化した日韓関係を修復するには、首脳同士が良好な関係を結ぶしかない。かつて今の様な状況に陥った際に見せた中曽根康弘や橋本龍太郎のような腹芸を、安倍晋三には期待できそうもない。
それどころか、文が安部に悪い印象を持ったのは、著者によれば次の出来事が発端のようだ。
2015年の日韓首脳会談で、安部が文に「米韓合同演習をこれ以上遅らせないで実施すべきだ」と発言した。この一言で文は顔色を変え、「この問題は我々主権の問題だ。内政問題を、安部首相がとり上げて貰っては困る」と反論した。
文が、元々は弁護士で外交的でないのに対し、安部は自分の主張をまくしたてる癖がある。そのため、二人の間で会話のキャッチボールが出来ない。
さらに困ったことに、両首脳とも関係改善の意欲を持たない。
かつて、後藤田正晴元官房長官が、「この地上に、戦争の記憶を持った中国や韓国の人が一人でも残っているうちは、我々は憲法改正の話を持ち出してはいかんのだ」と語っていた。そういう政治家が与党に誰もいないということも、問題の解決を難しくしている。

なお、著者がソウル支局長をしている際には、当局から電話の盗聴、メールのハッキング、外出すれば尾行がついていたそうだ。携帯電話が常にモニタリングされていて、人と会うのも気を遣う。
本社への大事な連絡は近くの公衆電話を使っていたが、それでも危ないと思う時もあったという。
監視は日本の記者だけが対象とされていて、他の外国の記者に対しては行われていないという。どうやら、日本の記者は防諜の対象になっているようだ。
著者が文政権に厳しい目を向けるのも、こうした事情があるからかな。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

それにしても日本政府とネトウヨは「国益」をそこなうなあ。

佐平次様
日韓が離反して誰が喜ぶのか、彼らはそこを全く考えていない。困ったもんです。

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