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2019/10/30

「南光・扇遊 二人会」(2019/10/29)

噺小屋session とざいとーざい「桂南光×入船亭扇遊」
日時:2019年10月29日(火)18時45分
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・入船亭扇ぼう『たらちね』
桂南光「化物使い』
入船亭扇遊『妾馬』
~仲入り~
入船亭扇遊『ねずみ』
桂南光『三枚起請』
(全てネタ出し)

「桂南光・入船亭扇遊」とう東西の脂の乗り切った二人の会へ。この日も雨だったが10月は雨ばかり。これも防衛大臣のせいなのか。

南光「化物使い』
古典と思われているようだが、大正時代に作られた比較的新しいネタらしい。東西で演じられているが筋に差はない。
南光は独自かも知れないが少し変えていた。通常は登場人物は隠居と権助だが、南光の場合は夫婦二人だ。長屋から一軒家に引っ越してきた夫婦、家は広くなったし家賃は安い。処が女房が銭湯に行ってたまたま世間話を耳にしてたら、その家が化け物屋敷だという。女房は怖いからと言ってしばらく親元に帰ってしまい、亭主一人が家に残る。ここからは通常のストーリーとなる。
この演じ方の方が時間が短いが、オリジナルの隠居と権助の会話の面白さが抜けていると薄味になってしまう。

扇遊『妾馬』
前半の省略し、八五郎が大家に呼ばれる場面から入った。全体は志ん生流の軽妙な運びだったが、八が御前で酒を飲むあたりから粗っぽいが母親思い妹思いの八の気性が露わになる。そこもあまり湿っぽくせずサラリと演じて、扇遊らしい高座となった。

扇遊『ねずみ』
先日ぴっかり☆の高座で聴いたばかりのネタで、比較するのも憚れるが甚五郎の描き方が大きく異なる。普通にしゃべっていても自ずから風格が感じられるというのが、この噺の甚五郎像だ。やはり扇遊クラスの演者でないとこの味が出てこない。
卯兵衛の身の上話もあまり感情をこめず、しかも客席を引き込む、扇遊ならではの高座だった。

南光『三枚起請』
東京でもお馴染みのネタだが元は上方で、後半の展開に大きな違いがある。
登場人物が騙され側の男たち、仏壇屋の源兵衛、下駄屋の喜六、指物屋の清八、この3名を手玉に取るのが小山(おやま=女郎)の小輝。
3人の男が難波新地の宇津木見世・小輝こと本名たね、からそれぞれ同じ起請文を貰って怒り、茶屋に乗り込む、3人が小輝を呼び出し恨み辛みを言い立てる所までは東京と同じ。
ここで小輝が、幼い頃に母親を亡くし男手一つで兄と小輝を育てていたが父も亡くなり兄まで事故死。一人残された小輝は苦界に身を沈め生きてきたが、辛い仕事で泣く日が続く。そんな時、亡き父や兄に瓜二つの男たちに出会えてついつい甘えてしまったのだと、涙ながらに語る。これを聞いた男たちも、それなら仕方ないと帰ってゆく。小輝の身の上話を立ち聞きしていた茶屋の女将が貰い泣きしていると、小輝はあれは皆ウソだと白状する。
それから数日後、男3人が別々に茶屋に上がり、それぞれが「俺だけは小輝を信じてる」。
サゲの部分は上方の型とも異なり、南光の独自の工夫と思われる。
騙した女郎が居直る東京版より、さらに男たちを騙し続ける上方版のほうが遥かにしたたかだ。
南光の高座はそれぞれの人物を明確に演じ分けて楽しませてくれた。

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2019/10/29

鈴本10月下席・昼(2019/10/28)

鈴本演芸場10月下席昼の部・8日目

前座・春風亭与いち『手紙無筆』
<  番組  >
林家つる子『やかん』
翁家社中『曲芸』
三遊亭歌橘『紙入れ』
林家正蔵『松山鏡』
林家楽一『紙切り』
桂文雀『鴻池の犬』
三遊亭歌武蔵『漫談』
ニックス『漫才』
桃月庵白酒『短命』
─仲入り─
ダーク広和『奇術』
柳家はん治『妻の旅行』
橘家圓太郎『真田小僧』
江戸家小猫『ものまね』
桂ひな太郎『幾代餅』

八千草薫が10月24日に亡くなった。
もう20年ほど前になるが、大分空港の待合室でご本人を見かけたことがある。直ぐ前の席でおしゃべりしている声に聞き覚えがあったので、そっと顔をうかがうと彼女だった。相手はおそらくマネージャーか付け人だったと思うが、まるで友人同士の様に楽しそうに話し合っていた。
私の兄が彼女の大ファンで、八千草が親子ほど年の離れた谷口千吉と結婚した時は、なんであんな年寄りとと言って怒っていたことを思い出す。

鈴本の10月中席は台風などの影響で4日も休席になったが前代未聞だろう。
天気に恵まれた8日目、会場は8分の入り。

つる子『やかん』
講釈の出来栄えはまあまあだったが、セリフの間が悪い、間に関しては前方に上がった前座の方が上だ。

翁家社中『曲芸』
普段見慣れているので何も思わなかったが、先日の圓楽一門会での下手な曲芸を見ると、普通に演じることの難しさが理解できる。

歌橘『紙入れ』
初見、この人の登場でようやく客席が落ち着いてきた。

正蔵『松山鏡』
浅い出番でもきちんっと演じる点は好感が持てる。

楽一『紙切り』
お題は「月に帰るかぐや姫」「紅葉狩り」「バレリーナ」など。

文雀『鴻池の犬』
寄席には足繁く通っているように思っているのだが、未だ一度も高座に
出会ったことがない人も少なくない。文雀もその一人でこの日のお目当て。上方のネタを東京に移して、内容の一部とサゲを変えて演じた。語りの確かさは実感できたので、機会があったら独演会に行ってみようと思う。

歌武蔵『漫談』
定番だがよく受けていた。

ニックス『漫才』
観客の印象に強く残るような何かインパクトが欲しい。

白酒『短命』
お馴染みのネタだったが、この日の客席の反応はイマイチだったかな。

ダーク広和『奇術』
ますますマニアック、ますます趣味の世界に入ったかな。テクニックは素晴らしいのだが。

はん治『妻の旅行』
桂三枝作のネタで、口うるさくて自分勝手、おまけに料理べたという女房の愚痴が延々と語られる。こういう噺ははん治にはニンで面白い。聴いていて段々身につまされてくる。

圓太郎『真田小僧』
このネタをこれほど面白く聴かせるんだから、大した技量だ。

小猫『ものまね』
相変わらず上手いもんだ。

ひな太郎『幾代餅』
トリの出番の前に前から2,3列目のグループと思われる20名ほどの客がいっせいに退場した。時間の都合もあっるのかも知れないが、ああいうのは避けて欲しい。演者にも他の客にも失礼である。
ひな太郎を見る度に思うのだが、落語に出てくる若旦那ってこういう風貌の人なんだろうなと。
現在の亭号は桂だが、芸は生粋の古今亭。この日も古今亭のお家芸ともいうべきネタを、清蔵の喜怒哀楽に表現してお開き。

改めて落語協会の芝居を観て思ったのは、人材の豊富さだ。10月中席でいえば末広亭、浅草演芸ホール、鈴本と分散しているにも拘わらす、これだけの顔付けが出来るのだから。

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2019/10/26

「五代目圓楽一門会」(2019/10/25)

「五代目圓楽一門会」初日
日時:2019年10月25日(金)13時
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・三遊亭じゃんけん『初天神』
三遊亭ぽん太『紀州』
三遊亭楽大『牛ほめ』
三遊亭好の助『堀の内』
『吉例~隼町でひと踊り~』三遊亭鳳志、三遊亭楽八、三遊亭兼太郎、 他
三遊亭愛楽『親子酒』
三遊亭栄楽『浮世床』
―仲入り―
三遊亭萬橘『洒落番頭』
丸一仙翁社中『曲芸』
三遊亭圓橘『雁風呂』

10月の国立演芸場は特別企画として「五代目圓楽一門会」を3日間開催している。その初日はあいにくの大雨に加え、会場付近は横殴りの突風で傘をさすこともままならぬ。家族からは「寄席の決死隊だね」とからかわれてしまったが、さすが開演時は20名ほどで、それでも最終的には3桁に届いたか。
圓楽一門は普段は定席に出ないので、一部の人を除いては知らない顔が多いので出向いた次第。

じゃんけん『初天神』
前回は酷かったが今回は良かった。

ぽん太『紀州』
愛嬌のある人、地のしゃべりとクスグリのかみ合わせの「間」にはより工夫が要るかな。

楽大『牛ほめ』
名は体を表すで見た目の存在感は一番だった。

好の助『堀の内』
冒頭の「ちょいとお前さん、起きとくれよ」から始まる色々なネタを紹介し、あらすじを最初に喋ってからネタに入るという珍しい演じ方。テンポが良かった。

『吉例~隼町でひと踊り~』
寄席の踊りの良さは、通常は一人芸だがグループで演じることによる一体感があることだ。『深川』から『かっぽれ』までメドレーで楽しませてくれた。

愛楽『親子酒』
両親で唄を歌いながら父親が酒を飲むという変わった演じ方。声の出ない八代亜紀の真似は上手かった。

栄楽『浮世床』
ベテランらしからぬテンポの悪さ。客席を冷やした。

萬橘『洒落番頭』
別名が『庭蟹』。洒落の得意な番頭と、洒落が分からない主とのかみ合わない会話の面白さで聴かせる。売れてる人は違うね。
こういうのは実生活でもある。私の両親がそうで、ある時母がトイレに入ろうとしたら、中にいた父親が出てきて二人がぶつかった。母はとっさに「小便(正面)衝突!」と洒落たが父には通じず、母の顔をにらんでいた。

丸一仙翁社中『曲芸』
この程度の芸で2度も3度もミスするようじゃ、プロの名が泣く。

圓橘『雁風呂』
寄席にかかる機会が少ないが、とても良く出来た噺だ。
大名や代官の誤った行いを糺すため、東海道を西に向かう水戸黄門の一行と、驕奢な生活が町人の分限をこえたものとして闕所 (けっしょ) ,所払 (ところばらい) に処せられた淀屋辰五郎と共の者が、遠州掛川宿の茶店で偶然に出会う。松に雁が描かれている屏風が黄門の目に止まったが、画の意味が意味が分らない。一方、淀屋と共の者二人が、この画は「雁風呂」だと言うのを聞いて、黄門は淀屋を呼んで「雁風呂」の謂れを尋ねる。教えて貰った黄門はこの町人の知識の高さに感心し、名を訊けば淀屋辰五郎だという。これから江戸に行って、柳沢に貸した3千両の返還を求めるという。黄門は恐らく柳沢は金を返す気がないだろうと察し、その場合は水戸藩が立て替えるという書状を淀屋に渡す。つまり黄門は淀屋に対する幕府の処分は不適切だと判断していたということだ。裏を返せば、黄門の名を借りて、庶民が幕府の裁定に異議を挟んだという仕掛けになっている。
こういうネタは圓橘の様な貫禄のある演者でないと無理だ。
「淀屋は3千両、私の出演料は3千2百円」でサゲた。

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2019/10/25

「ぴっかり☆わん丈 二人会」(2019/10/24)

「春風亭ぴっかり☆三遊亭わん丈 二人会」
日時:2019年10月24日(木)19時
会場:なかの芸能小劇場
<  番組  >
三遊亭わん丈『寄合酒』
春風亭ぴっかり『ねずみ』
~仲入り~
『アンケート』ぴっかり・わん丈
三遊亭わん丈『魚の狂句』

この会の会場である「なかの芸能小劇場」は今の住まいからは足便が悪いのだが、私の生家(建物はとっくに無くなっているが)がここから3分ほどの所にあったので懐かしの場所なのだ。この先に行くと新井薬師があり、さらに数分行くと新井小学校があって、そこに7歳まで通っていた。
隣の席の女生徒が前の席の子とおしゃべりをするので身を乗り出した時、スカートの下から真っ白な太ももが見えた。その瞬間、性に目覚めて、以来およそ70年間目覚めっぱなし。
そんな事はどうでもいいけど、先日さん喬が「ぴっかりさんが上手くなった」と言っていたので、聴きに来ることにした。
当ブログを始めた頃にぴっかり(当時は”ぽっぽ”)が前座で寄席に出るようになり、当時からスジが良かったので記事にしたことがある。二ツ目になってからはあまり縁がなく、今回は久々だ。

わん丈『寄合酒』
他の品物は乾物屋から持ってきたが、鯛はどこから持ってきたんだろう?本来は犬が咥えていた鯛を横取りしたので、鯛の調理を始めるとその犬が取り返しにくる。そこから「食らわせてやれ!」の行き違いが起こるという運びになる。その部分が抜けているので、犬の一件が唐突な印象になってしまった。
このネタ、登場人物が多くそれぞれの演じ分けが要るのだが、わん丈の高座はそこが未だ粗い。

ぴっかり『ねずみ』
全体としては良い出来だった。さん喬が褒めるだけのことはある。
ねずみ屋の主・卯兵衛の身の上話を間接話法ではなく直接話法にした点に独自の工夫は見られた。ただ、途中で緩んでしまった所があり、小さなミスを誘っていたのが残念。
後は、甚五郎に風格が出るようになれば、更に良くなるだろう。

『アンケート』は開演前に客が提出したものを二人が回答するという企画。だいたいこういう時の質問というのは大したことがないので時間潰しの感あり。

わん丈『魚の狂句』
終演まで10分しかないと、短いネタを。
元は上方の演目で、わん丈が東京版に書き換えて演じていた。
ある男が色街に誘いにくると、街の名前を魚を織り込んだ狂句(川柳)にして洒落ようということになった。吉原、新宿、池袋・・・といった街について、その後は女性について、即興で狂句を読むという趣向。
一部は上方版のものをそのまま引用していたが、大半はわん丈オリジナルだと思われる。この人の才を活かした高座だった。

二人会というので一人2席ずつと想定していたが、中途半端に終わってしまった。
ちょっと薄味だったかな。

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2019/10/23

終戦後の日本人が愛した歌

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「青春歌年鑑(戦後編)1 昭和21年~23年(1946年~1948年) 」という2枚組のコンピレーションアルバムがある。この時代のヒット曲をレコード会社の枠を超えて年代順にコレクションした内容で、タイトルに青春とあるが世代に関係なくヒット曲が選ばれている。昭和20年のヒット曲も含まれており、終戦からおよそ2年の間に、当時の日本人がどんな曲を好んでいたかを伺い知ることが出来る。
【曲目リスト】
ディスク:1
1. リンゴの唄
2. 愛のスウィング
3. 麗人の歌
4. 東京の花売娘
5. 悲しき竹笛
6. 黒いパイプ
7. 別れても
8. かえり船
9. 青春のパラダイス
10. 啼くな小鳩よ
11. 雨のオランダ坂
12. 夜霧のブルース
13. 長崎エレジー
14. 夜のプラットホーム
15. 三日月娘
16. 港が見える丘
17. 泪の乾杯
18. 夢淡き東京
19. 胸の振子
20. 誰か夢なき
ディスク:2
1. 星の流れに
2. 山小舎の灯
3. 懐しのブルース
4. 君待てども
5. 東京ブギウギ
6. 夢去りぬ
7. 長崎のザボン売り
8. 流れの旅路
9. フランチェスカの鐘
10. 南の薔薇
11. 三百六十五夜
12. 恋の曼珠沙華
13. 男一匹の唄
14. 湯の町エレジー
15. 異国の丘
16. 憧れのハワイ航路
17. 小判鮫の唄
18. 君忘れじのブルース
19. 東京の屋根の下
20. さよならルンバ

アジア・太平洋戦争が敗戦となった昭和20年8月から、戦争の深い爪痕が残る中で人々は必死に生きてきた。親を子を兄弟を亡くした人、家が焼かれてしまった人、大陸から命からがら引き揚げてきた人で国中が溢れていた。人々は今日をどう生きるか必死だった時代。
それでも、というか、それだからこそ娯楽への希求心もまた強かった。
昭和20年の10月には松竹歌劇団(SKD)の戦後第1回公演が開かれ、11月には大相撲と早慶戦、12月にはNHKラジオで「紅白音楽試合」(第1回紅白歌合戦)が放送された。
戦時中は禁止されていた外国の映画やレコードがどっと入ってきて、映画館に人が押し寄せ、戦時歌謡から解放された新しい時代の歌謡曲が続々と作られた。
昭和20年にジャズの「センチメンタル・ジャーニー」「ビギン・ザ・ビギン」がヒット。
昭和21年には、洋画の「カサブランカ」「うたかたの恋」などが上映された。

日本国内でも次々と新しい映画が製作され、その主題歌が出演している歌手によって歌われヒットした作品が生まれる。
映画「そよかぜ」から主題歌「リンゴの唄」:出演と歌唱は並木路子
映画「或る夜の接吻」から主題歌「悲しき竹笛」:出演と歌唱は奈良光枝
映画「懐しのブルース」から主題歌「懐しのブルース」:出演と歌唱は高峰三枝子
などが代表的。
他に、曲がヒットしてから同じタイトルの映画が製作されたものが多数ある。

海外からの曲が紹介されると同時に、それらのリズムが歌謡曲に採り入れられようになる。「00の女王」という呼称が生まれた。
「ブルースの女王」淡谷のり子:「君忘れじのブルース
「スィングの女王」池真理子:「愛のスウィング
「ブギの女王」笠置シズ子:「東京ブギウギ」 
他に、この時期はタンゴの曲が目立つ。「夜のプラットホーム」「誰か夢なき」などで、とりわけ「夢去りぬ」はタンゴそのものだ。

戦後を代表する歌手といえば、やはり「おかっぱる」こと岡春夫だ。
青春のパラダイス」「啼くな小鳩よ」「男一匹の唄」「憧れのハワイ航路」「東京の花売娘」と5曲も入っている。
あの突き抜けるような明るい歌声が、当時の人々の琴線に触れたのだろう。

戦争に関連した曲として次の4曲があげられる。
夜のプラットホーム」歌唱は二葉あき子
当初は1939年公開の映画「東京の女性」(主演:原節子)の挿入歌として吹き込んだ曲で、戦時下の時代情勢にそぐわないと発禁処分を受けたものが、戦後に改めて発売されヒットした。出征兵士を見送るという曲想になっている。
かえり船」歌唱は田端義夫
敗戦時にはまだ多くの日本人が大陸に残されていた。およそ660万人もの人々が引き揚げる船の情景、人々の心情を歌ったもの。当時の国民の多くが身内や親類に引き揚げ者がいたので、強い共感を呼んだ。
異国の丘」歌唱は竹山逸郎中村耕造
昭和18年に満州にいた吉田正が、部隊の士気を上げるため作曲した「大興安嶺突破演習の歌」が原曲で、戦後シベリアに抑留されていた増田幸治が作詞したもの。非常に強い望郷の思いを歌っている。シベリア抑留者の間で広く歌われていたものが、戦後NHK「のど自慢」の番組を通して広まった。
星の流れに」歌唱は菊池章子
戦後間もないころに、東京日日新聞(現在の毎日新聞)に載った女性の手記で、従軍看護婦だった女性が奉天から引き揚げてきたが、家も家族もすべて失われたため、「夜の女」として生きるしかないわが身を嘆いていたというものだった。これを読んだ作詞家の清水みのるは、戦争への怒りや、やるせない気持ち、こみ上げてくる憤りをたたきつけるように作詞した。歌詞の中では明確にされていないが、女性は「パンパン」(米国兵相手の街娼)と見られる。鬼畜米英のスローガンで戦ったのが、戦争が終わるとその米兵相手に身を売らねばならなかったのだ。当初は街娼の間で歌われていたものが、その後広まり大ヒットとなった。
この中で戦争や世相を真正面から告発した曲は「星の流れに」だ。

歌詞のフレーズにある「こんな女に誰がした」は戦争を告発している。又これを歌のタイトルにしようとしていたら、GHQから「日本人の反米感情を煽るおそれがある」とクレームがつき、「星の流れに」に変えた経緯がある
「星の流れに」は、日本政府と占領軍の双方への抗議の意思をこめた曲として、永遠に残るだろう。

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2019/10/22

「その指摘は当たらない」

10月20日付東京新聞の文化娯楽面のコラムで、落語家の笑福亭たまが「その指摘は当たらない」という記事を書いている。
言われてみれば、近ごろやたら耳にする表現だ。会見などで使われるので「その指摘は当たりません」という言い方になるわけだが。
最も多用してえいるにはやはり政治家で、不正な政治献金を受け取っておいて「政治資金規正法違反ではないか」と追及されると、「その指摘は当たりません」。選挙中に有権者に金品を贈っていたことがバレ「公選法違反ではないか」と追及されると、「その指摘は当たりません」、といった具合だ。
彼らはどんな悪事を働いても「その指摘は当たらない」と、なんの根拠も示さずシラを切るのだ。現に、今の安倍政権の閣僚の中で、こうした態度を取り続けている者がいる。そう、あの人もこの人も。
関西電力の役員らが多額の金品を受け取っていた問題で、彼らは「不適切だが、違法ではない」と強弁する。この言い方も同工異曲で、共通しているのは彼らの辞書には「反省」という言葉がないのだ。
「シラを切る」で思い浮かぶのは、菅官房長官の会見だ。ほとんどシラの切り通しで会見が終る。

たまが、もう一つ指摘しているのは、小泉進次郎の一連の発言に対して「ポエムか!」とツッコんで笑う様な風潮だ。どんなニュースでもツッコんで笑いにしてしまう。一億総芸人である。
たまは続ける。
ツッコんで笑いにしてしまっていると、将来や根本的な問題解決を深く真剣に考えなくなり、社会が機能しなくなる。
国民が企業にトップや政治家をおちょくるだけで満足し罰しないと、彼らはどんどん悪さをしてシラを切り通す。こういうシラを切る人たちへの対処法を考えていかないと不正が横行する、と。
まあ、一番の責任はメディアでしょうね。会見でも、もう一歩追及していればと思うことが度々だ。メディアが忖度してどうする。
検察もいっこうに動こうとしない。日産のゴーンの様な小物の捕り物で満足しているようじゃ、特捜部は税金ドロボーと言われても仕方ない。
「その指摘は当たらない」なんて言わせないぜ。

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2019/10/20

「宗助・吉坊 二人会」(2019/10/19)

「桂宗助・桂吉坊 二人会」夜の部 
日時:10月 19日 (土)17時30分
会場:らくごカフェ 
<   番組   >
『オープニングトーク』
桂宗助『ぬの字鼠』『亀左』
桂吉坊『高砂や』
~仲入り~
桂宗助『市川堤』

「桂宗助・桂吉坊 二人会」は昼夜公演で、その夜の部に。昼の部は前売り完売、夜も満席、上方落語もすっかり東京に定着してきた。最近は東京から繁盛亭に行く人もいるとか。

宗助『珍品小品集』
珍品とは文字通り珍しい噺で、言葉が今の時代に通じないとか、面白くないとかいうネタが多い。小品とは小噺より少し長く普通のネタよりは短いものを指す。今回は次の2つが演じられた。
『ぬの字鼠』
大黒さんのお使いが鼠、僧侶の奥さんを大黒と符牒で呼んだ事が知らないと理解できない噺。
昔は、坊さんの肉食妻帯は禁止されていた、そんな時代のこと。
寺の小僧の珍念、自分は和尚の本当の子だと周囲に言いふらしている。困った和尚は懲らしめのために珍念を縄で縛り木にくくりつけた。困った珍念は芝居の『金閣寺』の桜姫を思い出し、足で周囲の落ち葉を使って「ぬ」の字を書いて祈ると、「ぬの字鼠」が抜け出して縄を食いちぎってくれた。喜んだ珍念は、賽銭を懐に遊びに出かけてしまう。
これを知った和尚、「えっ、珍念の描いた鼠が・・・、きっと大黒(珍念の母)が使わせたんじゃろ」でサゲ。
『亀左』
モグサ売りの亀屋佐京、「江州 伊吹山のほとり 柏原本家 亀屋左京 薬モグサよろ~し」と売い歩いていた。
ある時、亀屋佐兵衛という老人が、念仏講中の人たちとお坊さんの説教を聞いているうちに眠気を催してそのまま大いびきで眠ってしまう。周囲が起こそうとするがなかなか起きないので・・・。
冒頭のモグサ売りの売り声が地口オチになる。
こちらはいよいよ難しい。
両方とも滅多に聴ける機会がないネタだった。

桂吉坊『高砂や』
東京でもお馴染みのネタで、筋はあまり変わらないが、主な相違点は次の通り。
・甚兵衛が隠居から「高砂や」を教えて貰うだけでなく、羽織袴から女房の着物まで借りてゆく。
・甚兵衛が両家の間を頭を下げまくって婚礼をまとめた経緯が語られる。
・婚礼の席で甚兵衛が「高砂や」の前半で立ち往生していると、介添人がその後は「月もろともに出で潮の 波の淡路の島影や 遠く鳴尾の沖過ぎて はや住吉に着きにけり」だと教えてくれて、甚兵衛が「助け舟を出してもろた」でサゲ。
上方版は初めて聴いたが、甚兵衛と隠居の掛け合いは東京版より面白い。
吉坊は達者だ。

宗助『市川堤』
先日、桂文我の口演でこの噺の東京版を聴いたので、この日上方版を聴くことにした。
以下に「東京版」を再録する。
下野の国の越後屋治郎兵衛の倅・治郎吉は道楽三昧で、佐野のヤクザ・布袋屋一太郎の娘・小染と深い仲になる。布袋屋は以前に賭場で治郎吉の姿を見ており、度胸の良さをかって二人に所帯を持たせ、江戸で商売するよう元手を渡す。
江戸に出た治郎吉だが博打好きはおさまらない。負け続けで元手もすってすっからかん。そのうち小染のお腹が大きくなってきた。困った治郎吉は、賭場仲間の熊五郎と組んで、博打で大儲けしていた浪人者の門堂平左衛門を殺害し、200両を奪う。
急に大金が入った治郎吉をお染が怪しむと、この噂が父親の布袋屋の耳に入ったらタダでは済まないと思った治郎吉はお染を殺して死体は川に流してしまう。
独り身になった治郎吉は相変わらずの博打ざんまい。ある日急な雨で一軒の家の軒先で雨宿りしていると、奥から声がかかり家の中に入っていいと言う。声の主は元は江戸節お紺と呼ばれていた売れっ子の芸者で、今は犬神軍太夫という一刀流の道場主のお囲い者。それが縁で治郎吉とお紺が出来てしまった。これが犬神の耳に入るが、これが犬神の耳に入るが、意外に物分かりが良く、お前にくれてやると家財、家付きでお紺を治郎吉に渡す。本来なら恩義に感じる所だが、治郎吉は犬神を脅して手切れ金までふんだくる。
金が出来た治郎吉は又もや博打に現を抜かしスッテンテン。そのうち、お紺の右の目の淵に小さなおできポツッとできた。痒いといって掻きむしる間に段々だんだん大きなって、終いに顔の右半面が紫色に大きく腫れあがってしまった。
治郎吉はお紺の治療費を工面するために知り合いを尋ね歩き、ようやく金が手に入ったのが10日後、長屋に戻るとお紺の姿が見えない。近所の者に聞くと、前日に杖にすがりながらお紺が家を出て行ったという。
もうここにはいられないと治郎吉は、佐野の布袋屋の親分の所に戻り、娘の小染が病死したと嘘を言って居候になる。
近くに大きな田畑を持つ百姓がいたが、夫が突然の死で働き手がない。そこで布袋屋の世話で、後家のお小夜の元に治郎吉は入り婿となる。当初は真面目に働き、二人の間には治郎太郎という男の子もできた。そのうち治郎吉の博打の虫が湧いてきて博打ざんまいの生活が始まり、田畑を全て手放す。悲観したお小夜は縊首して自害。母親の遺体にとりすがって泣く幼児を見て、ここで初めて治郎吉は目が覚める。
それからは人が変わった様に夢中で働きだし、まとまった金が出来ると米相場に手を出すが、これが大当たり。今では関東一円に手広く商いを拡げた大店の主になっていた。今では困っている人を助ける寄進者にもなっていた。
歳の暮には各地に掛け取りに行くが、他の地は奉公人たちに任せ、江戸だけは治郎吉が掛け取りに回る。用事が終わって佐野に向かう途中、雪がちらつきだした。戸田の渡しまで来ると川原の小屋から女乞食がはい出して来た。髪の毛は抜け落ち、顔中が腫れ上がっている。情け深い治郎吉は金を恵んでやるが、その乞食が「お前は治郎吉だな」とむしゃぶりついて来た。変わり果てたお紺だったのだ。
苦労したことを聞いて涙ぐむ治郎吉はお紺と佐野に行くことを約束し、取り敢えずこの先に宿を取っているので一緒に泊まろうと誘う。手足があまりに汚れているので、戸田川で洗うよう言う。お紺が川辺で手足を洗っている隙に、治郎吉は背後から襲いお紺を川の中へ突き落す。なお棒杭につかまって必死のお紺を治郎吉は刀で斬り殺す。
この後、治郎吉は蕨の馴染みの宿へ上がると、部屋にお紺の幽霊が現れる。

上方版は地名が関西地方に変わるだけで、ストーリーはほぼ同じ。
大きな違いは、治郎吉が幽霊を追い払った後で、「はて恐ろしき執念やな」で終わる。
東京版では、この後治郎吉は自刃して果て、この物語が歌舞伎『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)』の発端となるで終わる。
宗助の高座は、時折りクスグリを入れ、また地の語りの部分であまり感情を入れず、全体に陰惨さを薄めていた。
数年前に宗助の『たちぎれ線香』を聴いて、その上手さに感心したが、今回も米朝を彷彿とさせる様な期待通りの高座だった。

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2019/10/18

落語でおなじみ『天竺徳兵衛韓噺』(2019/10/17)

10月の国立劇場の歌舞伎公演は、落語『蛙茶番』でおなじみの『天竺徳兵衛韓噺』。
落語では、素人芝居の舞台番(一段高い所に座り客席で騒ぎが起きた時に鎮める役)を頼まれた半公、意気込みは良かったが慌てて褌を着けるのを忘れてしまった。粋がって着物の裾をくるっとまくって胡坐をかき、大はしゃぎ。半公の異様な姿に気付いた客が「ようよう、半公、日本一! 大道具!」と大向う(掛け声)をかけたので、調子に乗った半公は客席の方に乗り出していく。
芝居は『天竺徳兵衛韓噺』の真っ最中、大盗賊の徳兵衛が忍術の極意を伝授されるという見せ場。ここでガマの登場になるはずが、ガマ役の定吉が舞台に上がろうとしない。
番頭が「おいおい、定吉! 早く出なきゃだめだよ」
定吉は「いいえ、ガマは出られません」
「なんでだ?」
「あすこで、青大将が狙ってます」 でサゲ。
さて、芝居の方は。

四世鶴屋南北=作
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言『天竺徳兵衛韓噺(てんじくとくべえいこくばなし)』三幕六場
・序幕 北野天満宮鳥居前の場
同 別当所広間の場
・二幕目 吉岡宗観邸の場
同 裏手水門の場
・大詰 梅津掃部館の場
同 奥座敷庭先の場
<    主な配役    >    
天竺徳兵衛/座頭徳市/斯波左衛門:中村芝翫
梅津掃部:中村又五郎
梅津奥方葛城:市川高麗蔵
山名時五郎/奴鹿蔵:中村歌昇
下部磯平:大谷廣太郎
銀杏の前:中村米吉
佐々木桂之介:中村橋之助
侍女袖垣:中村梅花
石割源吾/笹野才造:中村松江
吉岡宗観/細川政元:坂東彌十郎
宗観妻夕浪:中村東蔵

主人公の天竺徳兵衛は実在した人物で、江戸初期の商人で寛永年間に御朱印船に乗船し、シャム(タイ)と天竺(インド)に渡った人物。
芝居では、異国を漂流して歩いた難破船の船頭である天竺徳兵衛が吉岡宗観の息子であるという設定になっている。その吉岡宗観が実は日本に侵略された恨みを晴らすために密かに来日し、足利幕府転覆を狙う朝鮮国の臣下・木曽官だと天竺徳兵衛に語る。
だが父の吉岡宗観は、宝剣「浪切丸」を紛失した疑いで謀反の罪をきせられ切腹する。天竺徳兵衛は父の遺志を継ぎ、父から授けられた蝦蟇の妖術を使い足利幕府の転覆を狙うという壮大なストーリーとなっている。
そうした物語より、徳兵衛が大蝦蟇に乗って大屋根の上に現れ、屋敷を押しつぶす「屋台崩し」や、座頭の徳市から上使斯波左衛門義照(両者とも徳兵衛の変装)に水中での早替わりといった、ケレンが見せ場の芝居。
舞台は中村芝翫が出てないとダレ気味になり、あまりいい出来とはいえない。
劇中で蛇が悪役として使われるので、落語の『蛙茶番』のサゲは良く考えられている。
余談になるが、現在の歌舞伎界では立女形の人材が不足気味だ。10年ほど前から中村米吉(今回は銀杏の前)という若手の女形に注目している。姿と声が良いので、これからが楽しみだ。

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2019/10/16

「西のかい枝 東の兼好」(2019/10/15)

第30回「西のかい枝 東の兼好」
日時:2019年10月15日(火)19時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
前座・三遊亭じゃんけん『金明竹』
桂かい枝『豊竹屋』
三遊亭兼好『館林』
~仲入り~
三遊亭兼好『粗忽長屋』
桂かい枝『鼠穴』

先日の台風、被害も停電もなかったが、一時期TV、ネット、固定電話が不通となった。ラジオが無いもんだから情報から取り残された状態になった。どうやら共有部分の電源に不具合が生じたようで、エレベーターが停止、廊下や階段は真っ暗。長引けば水道も止まるところだったが、管理会社に連絡して2時間ほどで正常に戻った。
この程度で済んだから良かったが、家が流されたり壊れたり浸水が続いている方はさぞかし大変な思いをされているだろうと胸が痛む。

かい枝『豊竹屋』
東京でも演じられるが、このネタはやはり上方だ。音曲噺とは言えないが、義太夫の素養が演者に求められる。かい枝の高座は語りの上手さが活きていた。
なおタイトルの豊竹屋、主人公の豊竹屋節右衛門は、昔大阪の道頓堀に「竹本座」と「豊竹座」という二つの浄瑠璃の小屋があった事から命名したものだろう。
三味線弾きの名前が花梨胴八となっているのは、三味線の胴が花梨の木から作られているからだと思う。

兼好『館林』
江戸の末期になると町人も剣術を習っていたようだ。
剣術に凝った半さんが道場の先生に武者修業の旅に出たいと言い出す。先生は止めるが半さんは聞かない。仕方なく自分の武者修行時代に話を聞かせる。
上州の館林で賊が土蔵の中に入って刀を振り回していて、周囲が難渋していた。先生は一計を案じ、空き俵を土蔵の中へ放り込んだ。賊が慌てて俵に斬りつけている隙を見て飛び込んで、先生は相手の胸元めがけて首をぬっと出して賊を取り押さえた。
良いこと聞いたと半さんが町内酒屋の前を通りかかると、酔っぱらった浪人が金を払わず蔵の中で刀を振り回して暴れている。そこで半さんが俺が生け捕りにしてやると言い出す。周囲は止めるが、先ず空き俵を放り込んで、相手が俵に斬りかかっている所に飛び込んで生け捕りにすると息巻くが、それを浪人はみな聞いてしまった。半さんが俵を放り込んでも浪人は切ってこない。「おやおや、斬り下ろさないね、中で何してんだろ」と、首をぬっと土蔵の中に入れたとたんに、浪人がエイッと斬り下ろした。半さんの首はゴロゴロッと地面を転がった。
騒動を聞きつけた先生が近づくと、半さんの首が起きて「先生、嘘ばっかり」でサゲ。
このネタ、8代目文治が演じていたがその後しばらく途絶えていたが、近年になって喬太郎が復活させている。
何ともバカバカしいストーリーだが、兼好にはニン。

兼好『粗忽長屋』
いくつか独自の工夫が見られた。
・熊が死んだ気にならないというと、八が婆さんが亡くなった時も3日経ってから実感が湧いてきたと説得する。
・熊が遺体の背中を見て俺じゃないと言うと、八がお前は自分の背中を見たことがない、俺は普段から見てるから間違いないと説得する。
・逡巡していた熊が「煙草入れが俺と同じ」と言って本人だと確信すると、係の役員が証拠が出たんだからと相槌を打つ。
そうした工夫が可笑しさを増幅していた。

かい枝『鼠穴』
東京のネタをほぼそのまま上方に移したという演じ方。
東京の噺家も色々な人が演じていて、それぞれ若干の違いがあるが、ここでは圓生の演じ方を標準として比較する。
かい枝の高座では、弟の竹次郎が兄から3文しか貰えなかったことを、自分も立派に成功した10年後も恨みが消えなかった。だから兄に金を返した後、直ぐに立ち去ろうとする。兄はそれを大声で止めて、弟がもし3文を倍にしていたら元手を10両でも20両でも貸すつもりだったと告白する。それを聞かされた竹次郎も初めて兄の真意を知って感謝する。
後半の夢の部分は東京と同じ。
サゲは、東京では「夢は土蔵(五臓)の疲れだ」としているが、かい枝は兄弟手を取りあって繁盛したで締めた。
全体に人情噺としての色を濃くした演じ方で、かい枝の技量が十分に発揮されていた。

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2019/10/15

【台風19号】もはや「異常気象」とは言えない

台風19号による猛烈な雨の影響で、東北、関東など甚大な被害が出た。
10月14日時点での全国の被害状況は以下の通り。
死者:55名
行方不明者:16名
堤防の決壊:37河川52カ所
床上浸水:1975棟
床下浸水:1729棟
土砂災害:134件
断水:13万5千戸
水の深さで立ち入りが困難な場所もあり、被害の全容は見通せないため、被害はさらに拡がる可能性もある。

こうした大型台風や記録的大雨が発生すると、その度に「異常気象」が原因と言われてきたが、もはや「異常」ではなくこれが「通常」と見るべき段階に来ているのではなかろうか。
中国の西北部は「黄土」と呼ばれる広大な地域があり、不毛の地と言われてきた。春先にはこれが黄砂となって中国から朝鮮半島、日本まで飛んできて毎年被害が出ている。
ところが最近になって黄土の緑化が進んでいて、農作物の栽培まで行われ始めているという。
原因は、この地域の気温が高くなり降水量が増えてきたため、植物が育つようになったのだ。
その一方、同じ中国では東部の沿岸部では海面の上昇が起きており、中でも上海では特に大きく100㎜を超えているという。
地球温暖化は大きなテーマであり、世界をあげて取り組むべき課題であるが、ここまで来てしまったという現実は受け容れるしかあるまい。
その上で、今後の防災対策を講じるべきだろう。
もう「異常気象」という概念は捨て去ろう。

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2019/10/14

エースと4番の不在が最後まで響いた阪神タイガース

昨日、CSファイナルでの敗退が決まり阪神タイガースの今シーズンが終了した。
リーグ戦では最後に滑り込みで3位に入り、CSの1stステージで2位のDeNAを破ったが、最後に力つきた。
シーズン前の予想では今年はAクラスは難しいと思っていたので、よく健闘したと思う。
今年の阪神、一言でいえばとにかく打てない。得点数538は12チーム中で最下位。ホームランは94本でリーグ5位だが首位巨人の183本のおよそ半分だ。
おまけに失策数は3桁に達し、打てず守れずの1年だった。
それでも辛うじて3位に入れたのはリーグトップの防御率の投手陣、特に中継ぎや抑えの奮闘によるものだ。
1年振り返ってタイガースの一番の泣き所は、エースと不動の4番が不在だったこと。
ここ数年、投手の中心だったメッセンジャーが不本意な成績に終わり引退となってしまった。本来はエースの役割を果たすべき藤浪に至っては1軍未勝利で、しかも大半が2軍暮らしという有り様だ。
4番には大山がすわったが成績が振るわず、後半戦はスタメン落ちまであった。替って4番にすわったマルテも中途半端な成績に終わっている。
シーズン途中でメジャーから獲得したソラーテに至っては「あの人はどこ?」状態だ。
そんなこんなで最後まで4番が固定出来なかった。
来季こそ優勝をと言いたいところだが、今のチームの戦力を冷静にみれば夢と終わるだろう。
それは一口にいえば、選手層の薄さだ。
今秋に新たな侍Jが招集されたが、28名の代表選手の中でタイガースからはゼロだ。
つまり今の阪神には、球界を代表する様な選手は一人もいないということだ。
なぜタイガースには選手が育たないのか。素材が悪いのか(スカウトの能力)、育成が間違っているのか。
なぜ他球団のようなホームランを打てる外国人選手が獲得出来ないのか。
監督やコーチの首をすげ替えてみても、球団経営の根本的な問題にメスを入れない限り、タイガースは優勝を争うようなチームにはなり得ないことを肝に銘ずべきだ。

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2019/10/12

「露新軽口噺」(2019/10/11)

「露新軽口噺」
日時:10月 11日 (金)14時
会場:らくごカフェ
<  番組  >
『あいさつ』露の新治・露の新幸
露の新幸『手紙無筆(平の陰)』
露の新治『仔猫』
~仲入り~
露の新治『野ざらし』
露の新幸『狼講釈』

『あいさつ』で「露新軽口噺」は露の新治・露の新幸子弟の研鑽の会として開かれているもので、今回東京で初の開催となる。師匠から、本日は露の新幸の東京デビューで、入門5年目でネタの数も増え腕も上がっているとの紹介。いい師匠を持って幸せだ。
当初は、12日に福島の原発事故避難者へのボランティア公演を予定していたが、台風で中止となったとのこと。
客席は満員の入り。

新幸『手紙無筆(平の陰)』
『手紙無筆』、上方では『平の陰』というタイトルを使っているようだ。
筋は東京のものとほぼ同じだが、手紙を読み兄いが一つ読むごとに、
「早々、ではさようなら、もうおしまい」
「では今度こそ、いよいよ本当にさようなら、グッドバイ、おしまい」
を付け加えるのがアクセントとなっている。
入門5年目というと東京だと二ツ目になって2年目ぐらいに相当するが、二人のセリフのテンポもよく、しっかりと演じていた。

新治『仔猫』
新治が上方らしいネタということで選んだと。
大店におなべという下女がやってくる。器量は悪いが働きもので気が利くので周囲の評判は上々。
処が、店の者が次々とおなべの不審な行動を目撃する。心配になった店の主人と番頭がおなべの留守に持ち物を調べると、中に血まみれの猫の毛皮が。
直ぐに番頭がおなべに店をやめさせようとするが、おなべは身の上話しを始める。父が猟師でその祟りか、ある日看病していた猫の怪我をなめたら、その味が忘れられなくなった。それから猫を取って食べる病になってしまい、村にいられなくなって大阪に出てきたのだという。
それを聞いた番頭は、「おなべは、猫をかぶっていたのか」でサゲ。
滑稽噺から始まって途中で怪談噺風になり、地口のサゲという珍しいネタだ。
おなべの告白の場面では、一瞬寒気が走るような新治の高座だった。

新治『野ざらし』
上方では『骨釣り』のタイトルで演じられている。立川談志から月亭可朝に伝えられたを可朝が上方風にアレンジしたもの。新治は可朝から教わったとのこと。
筋は東京のものとほぼ同じで、後半の骨がお礼に来るのがお婆さん。
新治は楽しそうに演じていたが、出来れば上方の『骨釣り』の方を演じて欲しかったなぁ。

新幸『狼講釈』
師匠の十八番だ。トリは初めての経験とか。
山場の講釈(鉄砲、五目講釈)を淀みなく演じた。
師匠の洒脱な味には遠く及ばないが、これは今後の修行。

12日は別の落語会を予定していたが台風で延期になってしまった。
数十年の一度という大型台風、どうぞ皆様も身の安全にご留意を。

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2019/10/11

「人形町らくだ亭」(2019/10/10)

第86回「人形町らくだ亭」
日時:2019年10月10日(木)18時35分
会場:日本橋劇場
<   番組   >
前座・柳家ふくびき『寄合酒』
柳家さん喬『そば清』
古今亭志ん輔『駒長』
五街道雲助『干物箱』
~仲入り~
春風亭一朝の音曲演奏『助六』(長唄・三味線/桂小すみ)
柳家小満ん『らくだ(通し)』

第86回「人形町らくだ亭」は、月刊誌「サライ」創刊30周年記念公演ということでレギュラー5人が勢揃いという特別企画。
仲入り前はお馴染みのネタが、後半は一朝の笛演奏と小満ん『らくだ』という構成。

さん喬『そば清』
さん喬の鉄板ネタで、寄席の浅い出番でも掛けることが多い。蛇含草の効果を、梅干しは金属を溶かすがご飯は溶かさないという例で説明しているのはとても分かり易い。ネタは多くの演者が手掛けているが、さん喬にとどめを刺す。

志ん輔『駒長』
古今亭のお家芸であり、これまた志ん輔の十八番。
博打好きで借金だらけ、おまけに乱暴者の長兵衛。女房をエサにして借金取りにきた上方の損料屋の丈八を美人局で脅して金を巻き上げる算段をするが、女房は優しくて金持ちの丈八にさっさと鞍替え。置手紙を読んで唖然とする長兵衛の表情が良い。
落語には珍しい、現代感覚の女房だ。

雲助『干物箱』
羽織と5円に釣られて若旦那の身代わりになって2階に上がった貸本屋の善公、今ごろ若旦那は花魁といい思いをしているんだろうと想像し一人ではしゃぐ場面と、父親から色々訊きだされ次第に追い詰められてゆく場面が見所。
父親が2階に上がってきて進退窮まった善公が布団を被っていると、その姿を見た父親が「湯に行ったにしちゃ汚い足の裏だな。あれ、いつの間にかケツにひょっとこの入れ墨なんかしてやがって」というセリフが可笑しい。

一朝の音曲演奏『助六』(長唄・三味線/桂小すみ)
桂小すみ、芸協のお囃子から音曲師となり今年前座修行を終了した。達者な三味線といい喉を聞かせてくれた。一朝よりこちらがメインだったかな。

小満ん『らくだ(通し)』
通しと言うこともあってか、前半の屑屋が月番と八百屋に掛け合いに行く所のヤリトリはカットし結果だけを紹介。大家でのカンカンノウはそのまま演じた。
兄貴分が屑屋に無理強いして酒を飲ませる場面では、3杯目の途中から屑屋の口調が変わり、兄貴分と立場が逆転する。屑屋が元は道具屋の主だったと告白してからは、貫禄と洒脱さを見せる所が小満んらしい。
兄貴分に言いつけて近所から剃刀を借りてこさせ、らくだの頭を剃るが途中から面倒になり髪に火をつけて燃やしてしまう。
らくだの遺体を菜漬けの樽に押し込み落合の焼き場に向かう所で、焼き場に払う金が足りないのに気付く。兄貴分が途中の小石川の質屋の弱みを嗅ぎつけていて、それをネタに強請って2両の金を得る所は上方版に近い。
焼き場に着いて樽の中にラクダの死体が無いことに気付き、途中まで引き返し誤って酔って寝込んでいた願人坊主を樽に詰めてしまう。担ぎ出すと中から「痛い!」の声に兄貴分が「うるせえ!」と叱ると、屑屋が「おいおい、死人と喧嘩するなよ」のセリフが可笑しい。
屑屋がらくだへの恨み辛みを言ったり愚痴を言ったりする所はカットしており、後半で通常は影の薄い兄貴分が存在感を見せるなど、小満ん独自の演出が光った。

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2019/10/10

『どん底』(2019/10/9)

シリーズ「ことぜん」Vol.1『どん底』
日時:2019年10月9日(水)13時
上演時間:3時間(休憩含む)
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:マクシム・ゴーリキー
翻訳:安達紀子
演出:五戸真理枝
<   キャスト   >
山野史人/ミハイル・イワーノヴィッチ・コストゥイリョフ(木賃宿の亭主)
高橋紀恵/ワシリーサ・カールポヴナ(その女房)
瀧内公美/ナターシャ(ワシリーサの妹)
原金太郎/メドヴェージェフ(ワシリーサとナターシャの叔父、巡査)
立川三貴/ルカ(巡礼者)
廣田高志/サーチン
釆澤靖起/ワーシカ・ペーペル(泥棒)
伊原農/アンドレイ・ミートリイチ・クレーシチ(錠前屋)
鈴木亜希子/アンナ(その妻)
クリスタル真希/ナースチャ(売春婦)
泉関奈津子/クワシニャー(肉饅頭売りの女)
小豆畑雅一/ブブノーフ(帽子屋)
堀文明/俳優
谷山知宏/男爵
永田涼/アリョーシカ(靴屋)
長本批呂士/クリヴォイ・ゾーブ(荷かつぎ人足)
福本鴻介/ダッタン人

20世紀初頭のロシア。社会の底辺に暮らす人々が集うサンクトペテルブルクの木賃宿。ペテン師、泥棒、病人、娼婦、彼らは希望の持てないままカードと酒に浸る。
そこへ巡礼のルカが現れ、宿の住人たちに説教を垂れる。虚実判然としないその説教に耳を傾ける者もいれば、冷笑する者もいる。
やがて宿の主人とその妻、妻の妹、妻の情夫で妹との結婚を夢見る泥棒との間で騒動が持ち上がり、泥棒が宿の亭主を殺害する事件が起きる。妻と泥棒は捕まり裁判にかけられ、怪我をした妹は病院に送られるが逃亡する。
誰一人幸福になることがなく、どん底にいる市民たちは、歌と酒だけを娯楽に日々の生活を送っていく。

夜でも昼でも 牢屋は暗い
いつでもオニめが あああ
えいやれ 窓からのぞく

のぞことままよ 塀は越されぬ
自由にこがれても あああ
えいやれ 鎖は切れぬ

ああ この重たい鉄の鎖よ
ああ あのオニめが あああ
えいやれ 休まぬ見張り

 

絶望しかない宿の住人たちだが、過去に殺人を犯し出獄してきたサーチンの言葉、
「人間はよりよき者のために生きてるのさ」
「人間、これこそが真実だ」
が胸に響く。
だから終幕で住人全員が合唱する上記の「どん底の歌」が人間賛歌の様に聞こえてくるのだ。
舞台装置を敢えて工事現場に仕立てた意図は、現在私たちが抱えている「どん底」に対する演出家の問いであろう。

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2019/10/08

「校長室」は廃止したら

多くの学校に「校長室」というのがあるが、あれは必要なんだろうか。生徒が数千人といった規模の学校ならともかく、小中学校に校長室は要らないだろう。
校長の最大の責務は円滑に学校を運営することだろうし、そのためには生徒や教職員の状況を正確に把握せなばなるまい。だから校長は職員室にいるべきだ。
教育現場で問題が起きたとき、しばしば校長が知らなかったという報道に接するが、それは校長室にいて教頭らから報告を受けているから、どうしても実態にバイアスがかかるのだ。
企業でも、ある規模以下では社長が事務室に在席しているケースが多い。大企業でも工場では、工場長が事務室にいる例が少なくない。
かつて私の取引先の企業が色々な問題を抱えていたが、社長交代に合わせて社長室を廃止し、社長が事務室に席を移した途端に社内の風通しが良くなり、業績も改善した。
校長は教育現場の責任者だ。校長室を出て職員室に移り、空いたスペースは応接室や会議室にすれば良い。

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2019/10/07

三田落語会「扇遊・吉坊」(2019/10/5)

第59回三田落語会・昼席「扇遊・吉坊」
日時:2019年10月5日(土)13時30分
会場:文化放送メディアプラスホール
<   番組   >
前座・金原亭乃ゝ香『牛ほめ』
入船亭扇遊『片棒』
桂吉坊『胴乱の幸助』
~仲入り~
桂吉坊『江戸荒物』
入船亭扇遊『小言幸兵衛』

三田落語会が会場を仏教伝道センターから文化放送に移してから、次回の前売りはチケットぴあでの扱いになっていたが、今回から元に戻して会場で購入できるようになった。仲入りで抽選で番号札を引き、終演後に番号に従ってチケット購入するという方式。これだと以前の様に長蛇の列を作る必要がなくなった。
昼席は東京のベテランと上方の若手という組み合わせ。

前座の金原亭乃ゝ香は夜席でも開口一番を務めていたが、昼夜通しのお客も多いなかでは前座は交代させた方が良い。

扇遊『片棒』
10月だっというのに気温が33℃に達したこの日の陽気は芸人泣かせだ。着物の選択に困るらしい。気候変動は落語家にも影響している。
扇遊は1席目は東京落語らしい演目を披露。ネタは聴かせ所の祭囃子の手捌きと口真似で沸かす。木遣りの一節も結構でした。

吉坊『胴乱の幸助』
落語の中には音曲の素養がないと出来ないネタがあるが、『胴乱の幸助』もその一つ。中盤で浄瑠璃『桂川連理柵(通称お半長)』の帯屋の段の冒頭部分を師匠が弟子に語って聞かせる場面があるので、ここは本物らしく義太夫が語れなくてはならない。腕に覚えがある吉坊は、ここを長めに語ってみせ拍手を浴びていた。
前半の男同士の偽喧嘩を幸助が仲裁する場面、中盤の「お半長」をめぐる幸助と義太夫の師匠や弟子とのヤリトリ、後半の京都の帯屋での番頭と幸助の会話、どれをとっても吉坊は完成度の高い高座を見せた。聴いていて幸助の人物像が目の前に浮かんでくる。
周囲で「上手かったね」「上手ねぇ」という声が聞こえたが、吉坊は初めてという人もいたようだ。
一時期、私の上司だった人が5か国語は辞書なしで読めるという才能の持ち主だったが、世間に疎い人だった。ある時TVを一緒の見ていたら、「てんちしんり、って誰?」と訊いてきた。画面には当時大流行りの「天地真理」の姿が。こういう人っているんだよね。

吉坊『江戸荒物』
東京落語に『金明竹』があるが、あれは上方の人には評判が良くないと。上方弁で口上を述べるのだ、東京の噺家だと上方弁とは異質なものと映るらしい。
このネタは『金明竹』をひっくり返した様な運びで、大阪の人間が江戸弁をしゃべるというもの。
東京産の瀬戸物が良く売れるというので、隠居に江戸弁を教えてもらった男が「東京荒物」の看板を掛けて商売を始めるが、教えて貰った江戸弁というのが「おう、阿魔、しばち(火鉢)にし(火)がねえじゃねえか。し(火)をもってきな。」などと怪しいもの。地元の客が来ても江戸弁は通じず、本物の江戸っ子が来ると江戸弁をまくしたてられて男の方が混乱し、タダで品物を売ってしまう始末。そこに田舎言葉丸出しの娘が縄を買いにくるが、店に縄が置いてない。そこで江戸弁で断ろうと、「縄はないます。ないます。」と言うと、娘は「あれ、今から縄のう(綯う)てたら間に合わんがのう。」 でサゲ。
こういう軽いネタを演じても吉坊は達者だ。

扇遊『小言幸兵衛』
珍しくサゲまで演じた。長屋の連中や豆腐屋、仕立て屋に対してあれほど小言を言ってた大家が、最後の鉄砲鍛冶の男には一方的に言われ通しになるというのが面白い。
扇遊らしいキッチリとした高座だったが、大事な所で言い間違えがあったのが残念。
少々お疲れに見えたが、気のせいかな。

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2019/10/06

喬太郎『真景累ヶ淵~宗悦殺し~』・他(2019/10/5)

第59回三田落語会・夜席「扇辰・喬太郎」
日時:2019年10月5日(土)18時
会場:文化放送メディアプラスホール
<   番組   >
前座・金原亭乃ゝ香『十徳』
柳家喬太郎『家見舞い』
入船亭扇辰『阿武松』
~仲入り~
入船亭扇辰『夢の酒』
柳家喬太郎『真景累ヶ淵~宗悦殺し~』

10月5日に行われた第59回三田落語会では昼夜両方の公演を鑑賞したが、夜席の感想を先に書く。
6日に恒例の「扇辰・喬太郎の会」が予定されていて、そちらでは毎回二人がネタ下ろしを口演することになっている。そのプレッシャーで頭が一杯で、二人とも心ここに非ずの心境だという。だからこちらの高座は「やっつけ仕事」だと宣言していた。
処が、過去の経験からいうと喬太郎はこういう日に限って熱演する事が多いので、どう「やっつける」のか楽しみだった。

喬太郎『家見舞い』
市販のCDにもこのネタは収められており、喬太郎の十八番の一つ。本来は二人の男が兄貴分の新築祝いに行き、お祝いに水甕を贈ることになるが金がない。瀬戸物屋で水甕を安く値切ろうとするが店員を怒らせて・・・という前段があるのだが、そこはカットし古道具屋の店先で肥甕を見つける所から噺に入った。
前半の古道具屋と男たちとの頓珍漢なヤリトリや、後半の甕の水を使った料理への男たちに反応を面白く聴かせていた。

扇辰『阿武松』
大相撲はスポーツじゃなくて興行だという扇辰の意見に賛成。ガチンコに拘っているから、今じゃ病人と怪我人だらけになっている。
いかにも扇辰らしい丁寧な高座だった。

扇辰『夢の酒』
こうした軽い洒落たネタというのは、軽く洒落て演じるのが正解だと思う。扇辰の所々に入る裏返ったような奇声はどうも感心しない。客をニヤリとさせる様なネタだと思うのだが。

喬太郎『真景累ヶ淵~宗悦殺し~』
根津七軒町にすむ按摩の皆川宗悦は、金貸し(江戸時代に盲人は金貸しを営むことが認められていた)で貯めた金で二人の娘を養っていた。
ある歳の暮れ、霙まじりの雪の中、小石川小日向服部坂に住む旗本の深見新左衛門宅に借金の取りたてに行く。なかなか返済しない新左衛門に対し、せめて利息分だけでも返してと迫る宗悦に、酒癖の悪い新左衛門は怒り脅すつもりで誤って宗悦を斬殺してしまう。死体は下男の三蔵に金をやり始末させて、そのまま下総の故郷に返してしまう。現場を見た新左衛門の妻は乱心し、按摩を呼んで針を打たせるが傷口が悪化し痛みで苦しむ日々が続く。そんななか総領息子の新五郎は家出する。、
翌歳の暮れの霙まじりの雪の夜、新左衛門は按摩を呼び肩の療治をさせるが、その按摩の顔がいつしか宗悦に。夢中で斬りかかると、相手は妻。乱心した新左衛門はやがて切腹、家は改易となる。

三遊亭圓朝作の「真景累ヶ淵」の発端で、これから宗悦と新左衛門をめぐる因縁話が複雑に絡まって物語が展開してゆく。
金銭の貸借をめぐる殺人事件というのは今も変わらない。そうした普遍性に加え、江戸末期になると武家は没落、商人や金融業者に金が集まり、それがやがては幕藩体制の崩壊へと進む。
この「宗悦殺し」は時代を暗示したものになっていて、物語後半への布石の仕方といい、非常に良くできている。
喬太郎の高座は冒頭から一気に客席を噺の世界に引き込み、終演まで息が詰まるような緊張感を与えていた。
このネタは今回が3度目になるかと思うが、その迫力においてこの日がベストだ。

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2019/10/03

「強盗」ならぬ「強贈」事件

近ごろは「強盗」ならぬ「強贈」事件というのがあるらしい。
犯人が金品を持ってきて、「これを受け取れ、さもないとタダじゃ済まないぞ」と脅して、無理やり置いていくそうだ。
怖いですね。
皆さんもいつ被害にあうかわからないので、十分に注意してください。
そんなバカなとお思いでしょうが、関西電力では実際に起きたそうですよ。
関電の言い分をそのまま信じるとすれば、事件の構図はこうなる。
・容疑者:福井県高浜町の元助役・森山栄治(故人)
・被害者:関西電力役員ら20名
・被害総額:約3億2千万円
なかには1億円もの金品を贈与された人も二人いた。1億円だぜ、そりゃ断わらないわな。
もっとも、無理やり強贈されたと主張しているのは被害者の方の言い分だけで、肝心の容疑者は亡くなっていて死人に口なしだから確かめようもない。
金品を渡すからには、当然見返りがあったと考えるのが自然だ。
何も見返りもなく、1億円もの金を渡すなんて、そんな茶人はいないさ。

原発を作ると立地の自治体に電力会社から交付金が支給される。この際、原発を受け入れに積極的役割を果たした人物はやがてフィクサーとなり、退職後も電力会社の関連会社や原発の工事会社などの役員に就任する。
発注側と受注側の両方に影響を及ぼすのだから、工事金額の水増しなんぞ思いのままだ。その水増し分を、フィクサーを通して電力会社の役員に還流させる。これで電力会社の役員と原発工事会社とはwin-winの関係になり、双方がハッピーになる。原資はどうせ国民から徴収した電力料金だから、気楽なもんだ。
こうした構図は、恐らくは他の電力会社でも起きているだろう。
この際、膿を全て出し切らせて、贈収賄事件として裁くべきだ。
検察よ、しっかりしてくれよ。

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2019/10/02

「志ん陽・正太郎」(2019/10/1)

らくごカフェ火曜会「志ん陽・正太郎」
日時:2019年10月1日(火)19時30分
会場:らくごカフェ
<  番組  >
春風亭正太郎『強情灸』
古今亭志ん陽『錦の袈裟』
~仲入り~
春風亭正太郎『ねずみ』

10月1日といえば、国慶節?都民の日? そうではない、古今亭志ん朝の命日だ。親の命日は忘れても志ん朝の命日は憶えている。あの時はショックで1週間ぐらいボーとしてしまった。一門の噺家は午前中に墓参りを済ませたと志ん陽が言っていた。
らくごカフェでの火曜会というのは毎週の火曜日に、わさび、正太郎、一蔵、市弥、小辰、わん丈、文吾、馬太郎、あお馬、のレギュラーの中から、週替りで2名ずつ出演するという企画。1週目と3週目はレギュラーとOBが一人ずつ出演する。
この日はレギュラーの正太郎とOBの志ん陽の二人会だったが、消費税増税の影響なのか客の入りは「つばなれ」。ちょいと出演者には気の毒だったね。

正太郎『強情灸』
今の二ツ目の中で噺が上手いといえば、この正太郎と小辰の二人だろう。二人とも真打と言って可笑しくない芸の持ち主だ。小辰が師匠に似て楷書の芸風に対して、正太郎は明るく豪快な芸風だ。マクラで、マッサージ師の話を15分ほど喋ったが、これだけもたせられるのも芸の力だ。
ネタでは江戸っ子らしい啖呵の切れを見せていた。通常は兄いが灸を我慢しながら「五右衛門を見ろってんだ、八百屋お七なんざあ・・・」を何度か繰り返すが、正太郎の高座では一度だったのは、何か考えがあったんだろうか。

志ん陽『錦の袈裟』
大きな期待を背負いながら、やや足踏みしている印象だ。いずれ「化けて」くれるだろうと、そう思っている。
袈裟輪について、カミさんが与太郎におしっこをする時にひっかけない様に輪に通してと解説するが、あれは圓生や志ん朝が演じた様に、店の主(又は女将)が与太郎を殿様だと断定する時に使い方を解説する方が説得力がある。事前に言ってしまうと、袈裟輪=殿様という理由付けの効果が薄れるのでは。このネタのポイント部分なので変えない方がいいと思う。

正太郎『ねずみ』
各登場人物の演じ分けが出来ていて、全体としては好演だった。
気になったのは、ねずみ屋の主が甚五郎に身の上話しをする際に、時折り「筆は立つけど腰は立たない、笑っていいですよ」などとクスグリを入れていたが、あれは感心しない。ネタの肝心部分で、客をグッと引き込む場面で無理に笑いを誘う所ではない。却って、観客に水をさすことになる。

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