「吉坊・一之輔 二人会」(2020/1/16)
第11回「桂吉坊・春風亭一之輔 二人会」
日時:2020年1月16日(木)18時45分
会場:日本橋劇場
< 番組 >
前座・三遊亭かつを『牛ほめ』
春風亭一之輔『短命』
桂吉坊『帯久』
~仲入り~
桂吉坊『七福神』
春風亭一之輔『浜野矩随』
東西の俊英がぶつかる二人会、期待通りの熱演が続いた。
一之輔『短命』
お馴染みのネタだがこの人の手にかかるとグッと面白くなる。
美人の娘の婿になる人がなぜ短命なのか、隠居が色々と謎かけするが男には通じない。
「娘が亭主に飯をよそってやるだろう」
「ああ、そうか、ご飯の中に毒を入れて毒殺?」
「なんで仲のいい亭主を殺さなくちゃいけないんだよ」
「きっと倒錯の愛の果て」
万事がこんな調子だ。
「何よりもそばが毒だと医者が言い」で、蕎麦アレルギーを持ち出す。
炬燵の話をすれば、「一酸化炭素中毒か!」。
この男ときたら鈍いんだか鋭いんだか分からない。隠居が手こずるわけだ。
吉坊『帯久』
同じ町内に商売を営んでいる片や呉服屋泉屋与兵衛は人望が厚く店も繁盛。一方の帯屋久七(帯久)は一癖も二癖もある陰気な人物で店は閑古鳥。そんな帯久が何度か泉屋に金を借りにくるが泉屋は証文なしに貸してあげ帯久も都度返済していた。ある時、帯久が泉屋から100両を借り大晦日に返済にくる。泉屋は百両を受け取るが、急用で呼ばれ百両を置いたまま部屋を出てしまう。帯久はその100両を懐に入れて帰ってしまった。後で気がついた泉屋だが、元は自分の不注意とあきらめてしまう。
帯久はその金を元手にして景品付きの商売を始めるがこれが大当たり。対して泉屋は身内に不幸や不祥事が続き、火事で店が丸焼けとなり。かつての奉公人の武平の家でやっかいなってはや10年。与兵衛はもう一度武平に泉屋の看板を上げさせたくて帯久に会って元手を借りようとするが、断られた挙句眉間を割られて店から追い出されてしまう。あまりに悔しさに与兵衛は帯久宅の裏に火をつけるが直ぐに決し止められてしまう。帯久から放火の訴えで与兵衛は捕まり、奉行所のお白州へ引き出され、大坂西町奉行の松平大隅守のお裁きを受ける。
奉行は配下の者を使って予め今までの経緯を調べさせていたので、帯久に10年前に泉屋宅から持ち帰った100両をここで返金せよと迫る。記憶にないと言い張る帯久に、奉行は人指し指と中指を紙で巻いて張り付け判を押す。「これは物を思い出すまじないで、封印を破る時は家は撤収、所払い申しつけるぞ」と言い渡す。帯久は紙が破れればえらいことになるというので、飯も食えず、風呂にも入れず、眠ることも出来ず音を上げて出頭して、奉行に100両を返すと申し出る。
帯久に100両を返させた奉行は、「10年間の利息としてあと100両を出すよう命じる。帯久は持ちあわせの50両を差し出しお、残りの50両は年賦で与兵衛に返すと約束し、仔細を書類にさせた。
奉行は、泉屋与兵衛に対して放火の罪で火あぶりに処すが、刑は泉屋が残金50両を受け取った暁に行うと宣告する。慌てた帯久は、それなの残金50両をと訴えるが奉行は却下。
奉行「泉屋与兵衛、そちは今何歳になる」
泉屋「61でございます」
奉行「61とは本卦(本家)じゃな」
泉屋「いえ、別家に居候しております」
でサゲ。
数ある奉行の裁きの中でもこれぞ名裁き。何しろ泉屋が放火したことは事実だし、従って死刑は免れぬ。そこで奉行は、50年間という借金の返済期間を設けて実質的に無罪としたのだ。
吉坊は持ち前の丁寧な語りで、フルバージョンの長講を演じきった。絶望的な状況の中でも嘗ての奉公人のために泉屋の暖簾の再興を図る与兵衛の心情や、狡猾な帯久を諫め与兵衛に手を差し伸べる番頭の姿が描かれていた。
吉坊『七福神』
仲入り前が押していたので5分でと。
寝ている亭主を起こした女房、一服している亭主に夢の話をせがむと、七福神が揃った夢を見たという。処が名前を並べると一福足りない。足りないのは亭主が一服(一福)吸ってしまったから。
小噺風にまとめた。
一之輔『浜野矩随』
このネタ、5代目三遊亭圓楽の十八番で、時に涙しながら演じていた。当代の圓楽も人情噺として演じている。
私はどうもこの手のお涙頂戴なネタは苦手なのだ。第一、たった3日間で下手が名人になるというのは絵空事に思えてしまい感情移入ができない。
一之輔は、矩随が精魂込めて観音像を彫り、骨董屋の若狭屋甚兵衛から褒められる場面を過度な思い入れを排し、客観視して演じた様に見えた。それでいて、この噺のツボは押さえている。
随所に浜野矩随が彫った失敗作の「河童狸」の彫刻を登場させ、最後は若狭屋が田舎者に「浜野矩随が製作した初期の問題作」として高値で売り付けてサゲた。
これはもう完全な一之輔版『浜野矩随』である。
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非常に興味深いお話ですね。先行して演じられた古典を「~版」に仕立てあげる。
一之輔の評価はそのへんにあるのでしょう。
正月の浅草でも「初天神」を子供のギャング化という演出でやってのけました。
投稿: 福 | 2020/01/18 07:02
福さん
冒頭に一之輔は「あたしの浜野矩随は少し違います」と言ってましたが、その通りでした。『茶の湯』などは原型をとどめぬ位改変してますし。
>非常に興味深いお話ですね。先行して演じられた古典を「~版」に仕立てあげる。
>一之輔の評価はそのへんにあるのでしょう。
>正月の浅草でも「初天神」を子供のギャング化という演出でやってのけました。
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投稿: home-9 | 2020/01/18 09:41