能『八島』ほか(2020/1/11)
・解説・能楽あんない 「八島のいくさを語り継ぐ」
佐伯真一(青山学院大学教授)
・狂言/和泉流『酢薑 (すはじかみ)』
シテ/髙澤祐介
アド/前田晃一
・能/宝生流『八島 (やしま)』
前シテ・漁翁 後シテ・源義経/今井泰行
ツレ・男/亀井雄二
ワキ・旅僧/村山弘
アイ・浦人/三宅近成
笛/槻宅聡
小鼓/住駒匡彦
大鼓/大倉正之助
「平家物語」ほど古典芸能の世界で採り上げられたテーマは他にないだろう。過去の2か月を振り返っても人形浄瑠璃『一谷嫩軍記』や京舞『梓』は平家物語を題材にしたものだ。
今回は能『八島』、正確には屋島だが、古典芸能の世界では八島とされるケースが多いらしい。
今回の公演では冒頭に佐伯真一氏の解説があり、これがとても分かり易かった。
平家物語では源平の主な合戦は、一の谷、屋島、壇之浦っとなっているが、この中で源氏が決定的な勝利のきっかけとなったのが屋島の戦だった。
一の谷で追われた平家が屋島に陣を構え反撃の機会をうかがっていたが、守りは北側の瀬戸内海向けに固めていた。処が義経は南側の阿波から上陸し、浅瀬を渡って屋島の南側から騎馬で攻撃してきた。
軍勢にでは圧倒的に勝る平家だったが、安徳天皇やその側近(女性が多かった)の身を守るのが第一と船で海に逃げてしまう。屋島に上がった義経の軍は天皇の御所を焼き払ってしまったたため、平家は屋島に戻れず海上を漂う結果となってしまった。この形勢にみた豪族たちは一斉に平家を離れ源氏についてしまう。
従って屋島の戦では大きな戦闘はなく、平家の有力な公達からの死者はいなかった。源氏方の主な死者は佐藤継信のみ。
こうした大きな戦が無かったためか、いわばサイドストーリー的なエピソードに溢れる結果になった。
馬上の義経が誤って弓を落とし、それを拾おうとして部下に諫められる「弓流し」。これも義経が小柄だったため弓も短かった。もし平家側に弓を拾われれば義経が小柄だったことが分かり、それは武士のプライドに係るから弓に拘った。
平家の武将・悪七兵衛景清と源氏の武将三保谷四郎との「錣引(しころびき)」や、この舞台では披露されなかったが那須与一の「扇の的」もこの屋島の戦の物語だ。
能『八島』は、現世の戦いを描いた「修羅能」の傑作とされ、義経の亡霊が八島の合戦の模様を語り舞う所が最大の見所だった。シテと笛、鼓とが競い合うように激しくぶつかり合う舞は迫力十分。
それも単なる勝者としてではなく、前半の終わりの「春の夜の 潮の満つる暁ならば 修羅の時になるべし」や、終曲の「春の夜の波より明けて 敵と見えしは群れ居る鴎 鬨の声と聞こえしは 浦風なりけり高松の 浦風なりけり高松の 朝嵐とぞなりにける」は胸に迫る。
狂言『酢薑』は、酢売りと薑(生姜)売りが品名を詠み込んでの秀句(しゃれ)合戦を繰り広げるというものだったが、あまり面白いとは思わなかった。
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コメント
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このところ国立の切符をとるのに失敗が多くて、今月は一回しかいけません。
あの空間に身を置きたいという衝動がときどき起きます、中毒かな。
投稿: 佐平次 | 2020/01/12 10:29
佐平次さん
私の場合は毎月というわけには行かないですが、この『八島』の様に特に観たいと思うのを拾っているのが現状です。
投稿: home-9 | 2020/01/12 23:18