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2020/04/04

書評「ノモンハン 責任なき戦い」

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田中雄一「ノモンハン 責任なき戦い」

「殺してくれー、殺してくれー、言うのをね。ほんと、あれだったですわね。家族の者はね、遺族の者はね、あっという間に小銃で一発で死んだだろうって思いじゃろうが、人間死ぬという段なら一発で死なんですよ。むこうがええ具合に心臓をパッと撃ち抜いてくれりゃええけど、あんた、大腿部あたりでね、元気なもんもみんな死んだんですよ。出血が多いいうて、衛生兵が来るじゃなしね。軍医はおるじゃなしね。ほんとに惨めな戦争であったですよ。」
「塹壕の前じゃ殺せー、殺せーっていうような。自分で死のうと思っても、銃剣を胸に突き当てとっても突き刺すことができんのですよ。そういうものが沢山おったですわ。殺してくれー殺してくれー言うてね。」
(歩兵第七一連隊 曽根辻清一の回想)

会社の上司だった人が、父親がノモンハンで戦死していた。その人はノモンハン事件のことを調べて、あんな無謀な戦争で死んだのかと怒りがこみ上げてきて、同時にこの戦闘を主導した参謀の辻政信への恨みが募ったと語っていた。
その「ノモンハン事件」とは、どんな事件だったのか。「事件」という名前だが実際は局地的な戦闘で、日本の傀儡国家だった満州国と、旧ソ連の影響下にあったモンゴルとの国境紛争。
1939年5月11日に起きた小競り合いがエスカレートした。ソ連側が8月20日に大攻勢を開始し、日本側の退却で9月16日に停戦が成立した。死傷者は日本側2万人、ソ連側2万6千人とされ、対米開戦に至る日本の「南進政策」の一因にもなった。歴史家の中には第二次世界大戦の引き金になったと指摘している人もいる。
紛争を拡大させた関東軍参謀の責任は事実上問われず、中心にいた参謀たちは、太平洋戦争では大本営作戦課の課長や参謀としてガダルカナル作戦やインパール作戦を指導した。
「ノモンハン事件」については多くの著書が出版されているが、本書は戦闘地域のでの現地調査、ロシア側などで新しく発掘された資料や、生き残った人や遺族の証言を得て、「NHKスペシャル」で放映されたものをまとまている。

「ノモンハン事件」から得られた教訓はいくつもあるが、いずれもその後のアジア太平洋戦争にその教訓が生かされず、今の日本の政治にも影響は及んでいる。
1、曖昧な責任の所在
当時は日中戦争の真っ最中で、天皇を始め陸軍省や参謀本部もソ連との戦闘は「不拡大」の方針だった。満州に駐留していた関東軍が事件を企図していたと知った参謀本部はこれを止めようとしたが、その指示は不明瞭なものだった。事件が失敗に終わった後に、本部と関東軍の間に責任のなすり合いが起きる。
2、情勢分析の甘さ
関東軍は当初、相手はモンゴル軍だけでソ連の参戦は無いとみていた。これは完全な希望的観測だった。外交官からはソ連軍が続々と現地に集結しているという情報が上がっていたが、関東軍はこれを黙殺してしまう。
3、極端な精神主義
兵員ではソ連軍5万7千人に対し、日本軍は2万5千人。戦車及び装甲車がソ連軍823両に対し、日本軍はゼロ。参謀だった辻政信が「ノモンハン秘史」で「三対一の実力とはいえ、『寄らば斬るぞ』の侵すべからざる威厳を備えることが、結果において北辺の静謐を保持し得るもの」と書いている。こうした精神主義が持て囃されていた。
4、上層部は責任を取らず部下に押し付ける
圧倒的な劣勢の中で勇敢に戦った部隊があった。フイ高地を守っていた井置隊である。戦車150台に取り囲まれ809名の兵隊が129名にまで減少し水も食料もつき、司令部と無線もつながらぬまま退却した。しかしこの事が後に問題となり、井置中佐は責任を取って自決させられる。他にも自決させられたり、軍法会費で重営倉(監獄)送りに処された下士官も数多くいた。
その一方、作戦を主導した服部卓四郎や辻政信らは左遷されるが、1年ほどして参謀本部の、しかも作戦課という重要な地位に就く。
5、日米開戦でも同じ理屈が通る
日米開戦については参謀本部内でも反対意見があった。これに対して辻政信は反対者にこう言っていた。「日本軍が必勝の信念を抱いて作戦すれば、必ずや勝利は我が手に帰する。吾輩は貴様に忠告する。勝算の有無を問題とする前に、先ず必勝の信念を抱けとな。」
辻は、ノモンハンから何も学ばなかったばかりでなく、日米開戦からその後のインパール作戦やガダルカナル島玉砕でも同じ過ちを繰り返す。

「ノモンハン事件」の教訓は、今も日本の組織の有り様に問題を投げかけている。

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コメント

実は先日コメントした際に長文になるので割愛したことがあります。
それは財務省や厚労省に石原莞爾のような人物がいやしないか、ということです。
私たちには理解できないような理屈や信念をもっていて、それが人命最優先を疎かにしているのではないか。 それともただの無能なのか。
結果として経済的に財政的に損失が少なかったにしても人命を軽視する国に未来はありません。

nansemiさん
石原莞爾の思想や太平洋戦争全体に対した役割には理解し難いことが多い。今の時世に彼ならどの様な信念を持ったのかは想像がつかないのです。

コロナ戦線にもっと小型の辻たちが所を得ていばっています。

佐平次さん
首相官邸はいかに責任を免れるか汲々としていますね。だからマスク2枚なんてセコな発想になるんです。

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