寄席の唄(下)
今回は座敷唄の中から、寄席の音曲師によって今も高座で披露されている曲を選んでみた。
「梅が枝節」
梅が枝の手水鉢
叩いてお金が出るならば
若しもお金が出た時は
其の時や身請けを ソウレタノム
此の頃の米相場
あたりて儲けになるならば
若しも儲けになるならば
其の時や芸者衆を それ頼む
青柳の風の糸
結んでゑにしになるならば
若しもゑにしになるならば
桜の色香を それ頼む
詞は幕末から明治の作家・仮名垣魯文の作と言われる。節は当時日本で流行していた中国の音楽「九連環」(落語『らくだ』に出て来る「かんかんのう」と同じ)。
第1節は、浄瑠璃『ひらかな盛衰記・第4段』のパロディ。
替え唄も多く、よく知られているのは次のようなものがある。
お互いの胸と胸
合わせて子どもが出た時は
もしもその子がいい子なら
其の時やお役者 ソウレタノム
もしもその子が変な子なら
其の時や噺家 ソウレタノム
「春は嬉しや」
春は嬉しや 二人転んで花見の酒
庭の桜に朧月
それを邪魔する雨風が
チョイと散らして又咲かす
夏は嬉しや 二人転んで涼みの船
風がりんきで簾捲く
恋の瀬川に竿立たず
チョイト浮名が流れ行く
秋は嬉しや 二人転んで月見の窓
色々話しを菊の花
鹿と分からぬ主が胸
チョイト私は気を紅葉
冬は嬉しや 二人転んで雪見の酒
障子明くれば銀世界
話しが積もれば雪もつむ
チョイト解けます炬燵中
春の花見は 小室嵐山祇園の桜
夏は疎水の涼み船
秋の紅葉は永観堂
冬は丸山雪見酒
別題は「四季の唄」。「二人転んで」の部分は、今日では「二人揃って」と唄われる。
「東雲節」
何をくよくよ川端柳
別れが何んとしょ
水の流れを見て
東雲の明烏 さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
潮来出島の真菰の中に
別れが何んとしょ
あやめ咲くとはしほらしい
東雲の明烏 さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
遇いたさ見たさに飛びたつ斗(ばか)り
別れが何んとしょ
かごの鳥かや うらめしい
東雲の明烏 さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
丸い玉子も切り様で四角
こがるる何んとショ
ものも言い様で角が立つ
東雲のストライキ さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
何をくよくよ川端柳
こがるる何んとショ
水の流れを見て暮らす
東雲のストライキ さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
蒸気出てゆく煙が残る
こがるる何んとショ
残る煙がしゃくの種
東雲のストライキ さりとは辛いネ
てなこと仰いましたよ
別名は「ストライキ節」。「てなこと仰いましたよ」の部分は、今日では「仰いましたかね」と唄う。同じく「蒸気」は「汽車は」と唄う。
「芝で生まれて」
芝で生まれて神田で育ち
今じゃめ組の アノ纏持ち
京で生まれて大阪で育ち
今じゃ南で アノ左妻
芝できいたか上野の鐘を
あれは高輪 アノ泉岳寺
三浦三崎でドンとうつ浪は
可愛男の アノ度胸だめし
別名は「め組節」。「左妻」は芸者稼業。
「深川くずし」
丸髷に 結われる身をば持ちながら
意気な島田や
ホントニソウダワネー
チョイト 銀杏返し
とる手も恥ずかし 左妻 デモネ
何時きても 柳に風の吹き流し
遠くなる気か
ホントニソウダワネー
チョイト 切れる気か
惚れたを見込んで 焦らすのか デモネ
お互ひに 思ひを遂げて去年よりの
胸もさらりと
ホントニソウダワネー
チョイト 新玉の
晴れて嬉しや 今朝の雪 デモネ
神長瞭月と山口凌雲の共作。オリジナルでは「デモネ」の後に終了を示す「トン」が付けられていた。
「さのさ」
人は武士 花は桜田御門の前で
時の大老掃部様 アリャ
三月三日のご登城先で
水戸の浪士が真っ赤な雪降らす サノサ
敷島の 大倭心を人問わば
朝日に匂う山桜 アリャ
誘う嵐にネー 散る花も
心ぞ真の大倭武士 サノサ
花ずくし 山茶花 桜か水仙か
寒に咲くのは梅の花
牡丹 芍薬 ネー百合の花
おもとの事なら南天 菊の花 サノサ
丸髷に 結わるる身をば持ちながら
時節を待てとの仰せゆえ
今日の苦労も ネーするわいな
晴れて沿う日は何時の事 サノサ
手をとりて グッドバイよと二足三足
別けれかねてはまた戻り
互いに見交わす ネー顔と顔
何も云わずに目に涙 サノサ
君は今 駒形あたり時鳥
啼いて明せし胸のやみ
月の顔見りゃ ネー思ひ出す
欄干(てすり)にもたれて独りごと サノサ
八重一重 山も朧に薄化粧
娘盛りはよい桜花
嵐に散りて ネー主さんに
逢ふてなま中 跡くやむ サノサ
打ち水に 昼の暑さを忘れてし
雫の山の草の葉に
月も宿りて ネー涼風の
添ふて沢辺に啼くかはず サノサ
惚れて チョイト通えば千里が二千里も
今じゃ電車も汽車もある
アーリア電気も瓦斯灯も 立ててある
こちゃ恋路にや迷わせぬ サノサ
賑やかな 町のさわぎがいやになり
田舎に住めば友もなく
鳥の声にも ネー聞き飽きて
又も都が懐かしい サノサ
第1節は、井伊大老が暗殺された桜田門外の変を詠んだもの。第2節は本居宣長の短歌による。「丸髷」は結婚した女性の髪型。
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 談春の「これからの芝浜」(2023.03.26)
- 「極め付き」の落語と演者(2023.03.05)
- 落語家とバラエティー番組(2023.02.06)
- 噺家の死、そして失われる出囃子(2023.01.29)
- この演者にはこの噺(2023.01.26)
コメント