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2020/12/10

ビデオ「地の群れ」

映画フアンというほどではないが、かつては映画をよく観にいった。中年に差し掛かった頃から映画館から足が遠のいてしまった。このご時世、外出もままならず、仕方なく amazon prime などで好きな作品をビデオで観る日が続いている。お陰で戦前の名画や、戦後の話題の作品で見逃したものを観ることができる。その中の1本を紹介する。
 
「地の群れ」(制作1970年)
原作:井上光晴
脚本:井上光晴 熊井啓
監督:熊井啓
【あらすじ】
昭和16年、長崎の炭鉱で働いていた宇南親雄(鈴木瑞穂)は、同じ炭鉱で安全灯婦をしていた朝鮮人の朱宝子を妊娠させてしまう。宇南は宝子の姉に妊娠の責任を追及されると炭鉱を抜けだし、宝子はお腹の子を流産させようとして坑木置場から飛び降り、あやまって自分も死んでしまう。
戦後、宇南は医師になり共産党に参加するが、親友が活動中に死亡したことで党を抜ける。
佐世保で診療所を開いた宇南の患者に、明らかに原爆病と思われる少女がいた。しかしその娘の母光子(奈良岡朋子)は、自分は長崎に原爆が投下された日には他県にいて絶対に被爆していないと言い張る。被爆者の集落の仲間と思われるのを恐れていたのだ。
宇南も原爆で死んだ父を捜し求めて爆心地を何日もさ迷い歩いたことから自分も被爆者ではないかと思っていた。宇南は自分が被差別部落出身者であることも加わり、結婚しても子供をつくるまいと決心していた。子供が欲しい妻の英子(松本典子)はそんな夫の秘密を知らず夫を責め続け、宇南は耐え切れずに酒に溺れる。
ある日、被差別部落の徳子(紀比呂子)が、強姦された証明書を書いてくれとやってきた。字南は断るが、戦前の自身の過去を思い出し苦しむ。
強姦の容疑は、徳子と顔見知りの被爆者信夫(寺田誠)にかけられ警察に留置されるが無罪と分かり釈放される。信夫の話で犯人が信夫の住む被爆者の集落の青年であることが分かり、徳子は部落に行き青年を問い詰めるがシラを切られ、青年の父宮地に(宇野重吉)に罵倒される。怒った徳子の母松子が部落に乗り込み青年と父親に談判するが、却って殺されてしまう。
この事件をきっかけに被爆者の集落と被差別部落との間の対立は決定的になり、その渦中になってしまった信夫は逃げだす・・・どこまでも、地の果てまでも。

監督が熊井啓で、出演者の大半が民藝と前進座というバリバリの社会派映画だ。しかも制作時は70年安保闘争の真っ最中。随所に佐世保の米軍基地の様子が映され、警察が信夫を犯人にでっち上げようとするシーンもある。
今では信じ難いだろうが、戦後しばらくは被爆者に対する差別が存在した。私の知り合いにも広島で被爆したことをずっと隠していた人がいる。この映画では被差別部落や朝鮮人に対する差別も描かれている。
そうした社会矛盾を一身に集約されたのが医師宇南親雄の姿だ。一見、救いのない映画に見えるが、宇南の医師として生きてゆく姿がこの作品の救いだろう。
今日の映画界では作れそうもない貴重な作品だ。

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