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2021/01/12

国家に翻弄された女優「原節子」

Hara

月刊誌「選択」1月号に「婚姻の自由なき国家的女優」として原節子が紹介されている。原については当ブログでも以前に記事にしたことがあるが、95歳で世を去ってもなお注目され続けている。
原節子の特長は上の写真にあるように日本人離れした容貌に気品が備わっていることだ。この特徴が彼女の女優としての運命を決定づけた。
当初はその高貴な美貌が大衆受けせず、人気が上がらなかった。その彼女に対する世間の評価が一変したのは、戦前に日独合作映画の主演に抜擢されたからだ。
当時、両国は「日独防共協定」の締結を目指し水面下で交渉中だった。その障害になる要素の一つに、日本と組むことに対するドイツ国民感情があった。日本の知名度が低く、もともと黄色人種への蔑視が根強かったのだ。
そうしたイメージを変えさせるために、ゲッペレス宣伝相が映画を利用しようとした。最も重視したのは、日本のイメージを好転させるような女優選びだった。ドイツから派遣されたアーノルド・ファンク監督が見い出したのが原節子で、無名の新人女優だった原の抜擢に反対する映画関係者に対してファンク監督は「彼女しか美しく見えない」と言って押し切った。
かくして「日独防共協定」の補完の役割を負った映画『新しき土』が製作され、原は知性と気品に溢れる娘で結婚して満州に渡り開墾に励むヒロインを演じた。
映画は日独両国で大ヒットし、原はドイツ各地で大歓迎を受けた。このニュースが伝わると日本国民も歓喜した。
この映画での原のヒロイン像は、その後の役を決定づけた。戦時中は戦意高揚映画で軍人の娘や銃後をを守る夫人を演じた。
そして敗戦。
戦後は一転して映画界はGHQの管理下に置かれ、民主主義を啓蒙する映画を作る。日本の封建的な家制度を解体し、恋愛結婚を賛美するような作品が奨励される。
その線に沿って、原節子も新時代に相応しいヒロインを演じ続けた。いつの時代にあっても原節子は日本の正しさを示す役割を負い、「清く正しく美しい」ヒロインを演じた。
原自身はこうした作品にしか出して貰えなかったことと、自分が演じたい作品とのギャップに悩み不満を持っていた。
ある時期、無名の助監督との恋におち女優をやめて結婚しようかと思ったが、映画会社がその助監督を追放してしまい、原は自分には恋をする自由がないのだ悟って、生涯を独身で通した。
実際の原節子はスモーカーでビール好き、得たギャラで不動産投資に励み、それで引退後も不自由なく暮らしていけた。
下世話な余談だが、戦後に原がマッカーサーのお相手をさせられたという噂が流れた。根も葉もないフェイクだが、ここでも原が日本という国を象徴する存在だったことが窺われる。

 

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コメント

小津映画で拝見、独特の気品を感じました。
「東京物語」を確認したら、いやまあ豪華な顔ぶれ!
ビール好きとは・・・ワインをゆっくりと飲み干すような感じです。

投稿: 福 | 2021/01/15 06:46

福さん
原節子自身は小津映画に満足していなかったようで、黒澤監督の作品への出演を希望していました。

投稿: home-9 | 2021/01/15 09:14

原節子の死去の報道が出たとき、新聞の結構大きなスペースで原節子のことが特集されていて、母親が新聞の記事を熱心に読んでいました。おそらく学生時代に原節子の映画をよく観ていたんだなと思いました。因みに母親は、ほめく様より一世代上です。

投稿: ぱたぱた | 2021/01/16 21:29

ぱたぱたさん
黒澤明監督の『羅生門』の主演女優は京マチ子ですが、黒澤は初め原節子を希望していましたが映画会社との調整が上手くいかず断念しました。もし実現していたら、原の転機になったと思われ残念です。

投稿: home-9 | 2021/01/17 08:16

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