自国の負の歴史と向きあう映画(2)『誰でもない女』
『誰でもない女』2012年制作 ドイツ映画
監督・脚本:ゲオルク・マース
主演:ユリアーネ・ケーラー
ドイツ占領下のノルウェーでドイツ兵とノルウェー人女性の間に生まれたカトリーネは、出生後に母親から引き離されて旧東ドイツの施設で育つ。成人後に命がけで亡命し、母親との再会を果たした彼女は、現在はノルウェーで母親と夫、娘や孫に囲まれて平穏な日々を送っていた。
ベルリンの壁が崩壊した1990年、カトリーネと母親の元に弁護士が訪ねてくる。かつてドイツ兵の子を産んだ女性を強制収容所送りにしたノルウェー政府と、産まれた子供を母親から引き離してドイツに送り施設に収容したドイツ政府に対して訴訟を起こすため、カトリーヌと母親2人の証言が欲しいという。しかしカトリーネは証言を拒否してドイツへと旅立ち、自分の過去の足跡を消すような不審な行動に出る。弁護士がさらに調査を進めると、本物のカトリーヌは死亡していて、生き残った少女がカトリーヌに成りすましてノルウェーの家族として暮らしていたことが分かる。彼女は生き残ることと引き換えに東独のスパイにさせられノルウェーの情報を東独に送る任務についていたのだ。苦しみの末、彼女は全ての事実を証言する決意を固めるが・・・。
第2次世界大戦時のナチスドイツは欧州各国を侵略するが、占領下でドイツ兵と現地女性の間に産まれた子どものうち、金髪碧眼の子どもだけドイツに送ったドイツ民族の人口増加計画「レーベンスボルン(生命の泉)」が、この映画の背景だ。しかし送られた子どもの多くは死亡してしまい、生き残った子どももスパイなどに仕立てられていた。
これだけでも非人道的なことだが、加えてノルウェー政府はそうした母親たちを2年間強制収容所に送っていたのだ。恐らくはドイツ人の子どもを産んだ事への懲罰だったのだろう。
戦争というのは侵略したドイツのみならず、侵略されたノルウェーまでも狂気に追いやっていたことになる。
映画ではドイツ・ノルウェー両政府に対する訴訟は不備に終わることを示唆しているが、戦争の傷跡は現在も癒えていないことをこの作品は示している。
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