自国の負の歴史と向きあう映画(1)『ブラックブック』
巣ごもり状態なので、しばらく遠ざかっていた映画(ビデオ)をせっせと観ている。昨年の12月から100本ほど観ただろうか。戦前の名画から最近になって公開されたものまで、それぞれ面白かった(駄作もあったが)。知らなかった事も多く、例えば日本の植民地下にあった台湾で反日同盟という組織があったことや、平穏な暮らしをしていたアフリカの国でダイヤが産出したことが知れた途端に内戦が起きるといった過程がよく分かった。
その中で、自国の負の歴史と向きあうような映画作品が何本かあり印象に残ったので紹介する。
『ブラックブック』2006年制作
ポール・バーホーベン監督が母国オランダに戻って製作した作品で、出演はカリス・ファン・ハウテンとセバスチャン・コッホなど。
1944年、ナチス・ドイツ占領下のオランダ。ユダヤ人の女性歌手ラヘルは、オランダ南部への逃亡中に、何者かの裏切りによって家族をドイツ兵に殺されてしまう。復讐を胸に誓った彼女は、名前をエリスと変えてレジスタンスに身を投じる。彼女はスパイとしてドイツ将校ムンツェに近づき、彼の愛人になりナチスの動きやスパイが誰かといった情報を仲間に伝える。ムンツェとレジスタンスの間でお互い殺し合いをやめようと合意しかけるが、別の将校の思惑でとん挫しエリスも捕らえられてしまう。連合国軍がオランダに入りナチスが敗退するが、エリスはナチスの協力者としてオランダ市民から糾弾されるが、やがて誤解も解けてイスラエルに渡り余生をすごす。
欧州各国を占領したナチスドイツは、現地でのユダヤ人狩りとレジスタンスの動きを封じ込めるためにスパイを作る。この作品ではナチスとレジスタンスと、その間の協力者、スパイの物語だ。スパイはユダヤ人やレジスタンスの同志とみせかけて潜入しているので、なかなか見抜けない。
一方、ナチスの側も支配地の犠牲者をできるだけ抑えようとする幹部もいれば、私腹を肥やすために金持ちのユダヤ人を狙って金品を強奪する者もいる。
この作品では、ナチス=悪、オランダ人=善、という構図にしていない。
オランダ人に寛容だったナチスの将校も最後は殺されてしまい、単純な勧善懲悪のストーリーにしていない。
ナチスの協力者でも連合国軍が入ってきた途端に転身してしまう者もいれば、エリスの様に市民から糾弾される者もいる。
この映画で描かれている光景は、恐らく欧州各国でも展開されていただろう。
米軍占領下の日本でも事情は同じで、米軍の協力者となって活動した日本人も少なからずいた。その中から総理大臣まで昇りつめた者も(ついでに孫も総理)出たのはご存知の通りだ。残念ながら日本の映画界では、この問題をテーマにした作品は皆無だろう。
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