自国の負の歴史と向きあう映画(3)『軍中楽園』
『軍中楽園』2014年製作 台湾映画
監督・脚本:ニウ・チェンザー
主演:イーサン・ルアン、レジーナ・ワン
1969年、中国と台湾の中間に位置する金門島。両国間が緊迫した状況の中、その島は攻防の最前線として砲撃が降り注いでいた。その島のエリート部隊に配属された台湾青年兵ルオ・バオタイは、カナヅチで泳げないことが判明し、831部隊と呼ばれる小部隊に転属となる。そこはさまざまな事情を抱えた女性たちが働く「軍中楽園」と呼ばれる娼館を管理する部隊だった。
どこか影のある女、ニーニーと出会い、奇妙な友情を育むバオタイ。男たちに愛を囁く小悪魔アジャオとの未来を夢見る一途な大陸出身の老兵ラオジャン。過酷な現実に打ちのめされた若き兵士ホワシンは空虚な愛に逃避する。ある日、バオタイのもとに純潔を誓った婚約者から別れの手紙が届く。その悲しみを受け止めてくれたニーニーにやがて惹かれていくバオタイだったが、彼女が許されぬ「罪」を背負っていると知るが…。
中国の内戦に敗れた蒋介石、国民党は台湾に逃亡し、再び中国への上陸を目指し大陸反抗作戦を展開する。その最前線が金門島で、台湾に徴兵制をしいて若者たちを送り込む。しかし圧倒的な兵力の差がありその企ては失敗する。映画でも戦闘シーンがあるが、いかにもノンビリとしてもので、あまり戦意を感じない。
この作品の特長は戦争映画でありながら、軍の娼館(慰安所)を中心に描いたものだ。軍隊に娼館を設けることは第一次世界大戦以来、各国で行われてきた。しかし公にしたくない事情から、表沙汰にはしてこなかった。
それを敢えて物語の中心に持ってきたことにこの映画の意義がある。徴兵されながら娼館の世話係に配置された兵士の屈折した思いや、自らが犯した罪を軽くして貰うために娼婦になった女性や、この場から何とか逃れたいともがく女性の姿が描かれている。
彼女たちの愛唱歌がモンローの『帰らざる河』だったり、前線の慰問に歌手のテレサ・テンが来たりと、映画の背景が遠い昔の話ではないことが分かる。
エンディングで、台湾軍の娼館が廃止されたのは1990年だと知らされる。つい最近の出来事だったのだ。
韓国のいわゆる従軍慰安婦問題をきっかけに、それぞれの国での調査が行われるようになり、資料や論文が発表されつつある。
例えば、従軍慰安婦問題にかかわったドイツの研究者であるレギーナ・ミュールホイザーは故国ドイツでの資料を調査し『戦場の性』(姫岡とし子監訳、2015年初版、岩波書店)という本を上梓している。この本では戦時の兵士と女性との係りを
①性暴力
②取引としての性
③合意の上での関係
に分類している。ただこの分類は厳密なものではなく、境界線が不明確なケースも多いという。
本書で特筆すべきは、性暴力が従来はナチスの仕業とされてきたが、実際には一般のドイツ兵士によっても起これていて、その損害賠償にドイツ政府は積極的ではないと指摘していることだ。連合軍もまた占領地各地で性暴力を引き起こしていることも記されている。
今後、こうした研究が各国で進むことを期待したい。
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