自国の負の歴史と向きあう映画(6)『真実の瞬間』
『真実の瞬間(とき)』1991年 アメリカ映画
監督、脚本:アーウィン・ウィンクラー
主演:ロバート・デ・ニーロ
映画のタイトルとしては原題の『Guilty by Suspicion』(疑わしきは有罪)の方が内容にピッタリだ。
1950年代、マッカーシズムに揺れるハリウッドで共産主義者の疑いをかけられた映画監督を主人公にしたもの。
1951年、フランスから帰国した新進気鋭の映画監督デヴィッド・メリルは20世紀フォックスの社長から呼び出され、連邦議会下院の下院非米活動委員会が彼を召喚しようとしていると告げられる。メリルは疑いを晴らすために誰かを売るように弁護士から助言されたが断った。するとメリル自身が疑いの標的にされ、撮影中の監督を降ろされ、ハリウッドから事実上追放されてしまう。メリルは家族とも離れて一人各地を転々とするが、どこにいてもFBIの尾行がついてきて、メリルの就職まで妨害する。無職となったメリルはロスアンゼルスに戻り、妻は教師に復職し家計を支える。
メリルは弁護士を伴って公開聴聞会に出席するが、議長や下院議員から激しい追及にあい、仲間の名前を言うように強制されるが、彼は最後まで口を割らなかった。聴聞は終わり、メリルは共産党員と見なされる。
かくして多くの映画人が赤狩りでハリウッドを追われ、彼らが名誉を回復するのは1970年になってからとなる。
1940年代後半から1950年代中期ごろ、マッカーシズムによる赤狩り旋風が吹き荒れる中、その中心的機関であった下院非米活動委員会 (HUAC) が取り調べを行なうため、ハリウッドを中心とする娯楽産業で活躍していた映画監督、脚本家や映画俳優などの芸能人の中で人生のある時期に共産党と関連があったと見做した人物を召喚し証言を求めた。仲間の名前を言うよう強制され、拒否した者は議会侮辱罪で有罪判決を受けた。チャップリンの様に国外追放になったケースもある。
主人公デヴィッド・メリルは、実在の映画監督ジョン・ベリーがモデルになっている。ベリーは非米活動委員会での証言を拒否しハリウッドから追放された映画関係者を取り上げたドキュメンタリーを制作し、そのことで彼自身もまた赤狩りの対象になり、妻子を残しフランスへの亡命を余儀なくされた。
映画関係者の中でグレゴリー・ペックやヘンリー・フォンダ、バート・ランカスターらはこうした弾圧に反対したが、ロナルド・レーガン、ウォルト・ディズニー、ゲイリー・クーパー、ロバート・テイラー、エリア・カザンらは赤狩りに協力した。
赤狩りの中心となったのは共和党上院議員のマッカーシーで、赤狩りをマッカーシズムとも呼ばれている。民主党の中にも赤狩りを支持した者もいて、ジョン・ケネディはその代表格と言ってよい。
赤狩り(レッドパージ)は連合国軍占領下の日本において、1950年にGHQ総司令官ダグラス・マッカーサーの指令により、日本共産党員とシンパ(同調者)が公職追放された。公務員や民間企業において「日本共産党員とその支持者」とした人々を解雇され、1万を超える人々が失職した。指令が解除された後もそうした人々は再就職が困難だった。
アメリカの黒歴史であるハリウッドの赤狩りを真正面から描いたことに本作品の価値があり、今後への警鐘となっている。
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