京都芸大「セクハラ裁判」のトンデモ判決
いささか旧聞に属するが、前から気になっていた判決だったので、学問の自由の観点からとり上げてみたい。
概要は以下のとおりだ。
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の公開講座で、講師からわいせつな作品を見せられ精神的苦痛を受けたとして、受講した女性が大学側に約330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が4日、東京地裁(伊藤繁裁判長)であった。判決は、わいせつな作品を受講生に見せたことを「セクハラにあたる」と認定。大学側に対し、講義内容を事前に告知するなどの義務を怠ったとして、約35万円の賠償を命じた。
判決によると、大学側は2018年、ヌードをテーマに講師を招いて全5回の講座を都内で開催。その中で、美術家の会田誠氏は四肢を切断された全裸の少女の絵などを、写真家の鷹野隆大氏は全裸の男性の写真などを1~2時間にわたりスクリーンに映した。
判決は、2人の作品が「露骨な表現で、正常な性的羞恥(しゅうち)心を害するわいせつ性がある」と指摘。受講生が成績評価を受けるには出席が欠かせないことをふまえ、「作品を見るよう強要されたセクハラだ」と判断した。その上で、作品を講義前に確認した大学側はセクハラを予見できたとして、「退室可能なことを事前に告知するべきだった」と認定した。講座を受けたことと、女性が患った急性ストレス障害の因果関係も認めた。
(asahi.com 2020/12/4付より引用)
これがなんでトンデモ判決かというと、理由は以下のとおり。
①もしこの講義内容が例えば高校の美術の授業で行われたとしたら問題だが、この場合は大学の公開講座であり、受講するのは自由であること。
②講座のテーマは「人はなぜヌードを書くのか」で、問題となった第3回のテーマは「ヌードあれこれ話」で、内容説明では「芸術と対立概念になりそうなポルノの話、第二次性徴期の話、フェミニズムの話などは避けて通れない」とあったとのこと。受講者はこれを承知で受講した筈だ。
③原告の女性は京都芸大の卒業生であり、自身も美術モデルであることから、この会の講義のテーマや講師(会田誠、鷹野隆大)から予め内容は予測できただろう。
④大学が受講者に講義内容の告知義務を怠ったという判決理由だが、もし講師の講義内容を事前にチェックし受講者に告知する義務を負わせるなら、大学が講義内容を事前にコントロールすることとなり、学問の自由への明らかな侵害である。
本判決に対して表現の自由や学問の自由を主張する側から、あまり批判の声が上がっていないのは不思議だ。
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