【書評】山本おさむ『赤狩り①-⑧』
山本おさむ『赤狩り①-⑧』(小学館 ①2018/5/2初版~)
コミック本を購入したのは初体験だったが、これが面白い。傑作!力作!
本作品は雑誌「ビッグコミック」に2017年~2020年にかけて連載されたものを単行本にしたもので、最終の⑨巻は未発売だ。こんな題材のコミックを雑誌に連載した編集者の眼力に驚かされる。本作は「事実にもとずいたフィクション」とされているが、②巻以後の巻末にどれが真実でどれがフィクションかが解説されている。過去の著作や研究書の成果が織り込まれており、フィクションも全体に無理なく構成されている。
「赤狩り」については当ブログの”自国の負の歴史と向きあう映画(7)『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』”で概要を記しているが、従来は主に被害を受けた側の立場から書かれたものが多い。
それに対して本書は赤狩りを「歴史の流れ」の中で捉えているのが特長だ。即ち、赤狩りをハリウッドの問題に限定せず、アメリカ社会全体を包み込む大きな流れとして描いている。本書が「ハリウッド・テン」から始まり、ケネディ暗殺まで書かれているのはそのためだ。
著者は「赤狩り」の時代背景をアメリカの原爆開発と、その資料を盗み出してソ連が原爆を開発し、米ソの冷戦が引き金になったとしている。次いで起きた朝鮮戦争はアメリカとソ連の代理戦争の様相を呈し、アメリカ国内での反共意識が高まった。更にキューバの社会主義化がこれに輪をかけた。
この機に乗じて米国のFBI、CIA、警察は一体となって、民主主義や権利、平等を主張する者たちを「赤」として弾圧を行った。この流れは現在も続いており、最近での「トランプ現象」もその一つとすれば理解しやすい。
本書のもう一つの特長は、赤狩りのターゲットとなった側の弱点をついていることだ。1940年代にアメリカでは共産主義への憧れからアメリカ共産党に入党する者が増え、一時は党員が10万人に達していた。処が、アメリカ共産党はソ連(=スターリン)の影響力が強く、文化を政治の下に置くような教条主義的な指導が行われていた。加えてソ連国内での文化人への弾圧が断片的に(全面的にオープンになるのはフルシチョフによるスターリン批判以後になる)伝わると急速に共産主義に対する反発が拡がり、党員も数千人にまで落ち込む。ハリウッドで赤狩りされた人も既に離党していた人が多かった。またソ連は多数のスパイを米国内に送り込んでいたが、アメリカ共産党にはそうした情報を一切伝えていなかった事も、党員の不信感につながった。
そのようにターゲットとされた側の弱点も、赤狩りを阻止できなかった要因としている。但し、作者はだからと言って赤狩りを正当化することは許されないという立場だ。
トランボたちの不屈の精神やそれを支えた家族と、そういう中でも手を差し伸べてきた映画人たちの姿が描かれ、やがて名誉回復するまでの闘いは感動的だ。笑い、時に涙しながら読了した。
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