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2021/02/17

自国の負の歴史と向きあう映画(7)『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

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『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』2015年 アメリカ映画
監督:ジェイ・ローチ
脚本:ジョン・マクナマラ
主演:ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン
本作品のテーマは『真実の瞬間(とき)』と同様ハリウッドの赤狩りだが、登場人物が全て本名であり、ドキュメンタリー色の濃いものとなっている。
1930年代には共産主義はアメリカの理想主義の若者の間で人気のある思想であった。第二次世界大戦中は米国はソ連とともにドイツ、日本と戦ったが、戦後ソ連が東欧諸国に対する弾圧を行ったため多くのアメリカ人が共産主義を敵とみなすようになる。背景には米ソの覇権争いもあった。
1947年、共産主義者との疑いをかけられたか、自分自身がアメリカ共産党員であったことを認めた人々は破壊分子と見なされ、映画産業界で働く人物に対しては非米活動委員会によって呼び出され尋問を受けた。
この中には、アメリカ合衆国憲法修正第1条で保障された基本的人権を根拠に、証言したり召喚されたりするのを拒んだ者がいた。「ハリウッド・テン」と呼ばれるこれら10人は1948年に議会侮辱罪で有罪判決を受け、1950年に半年ないし1年の実刑を受けた。この映画の主人公のダルトン・トランボもその一人だ。
「ハリウッド・テン」のメンバーは馘首もしくは停職処分となり、彼らが無罪と見なされるか嫌疑が晴らされ、又は彼らが共産主義者ではないと自身で誓わない限り再雇用されることはないという措置が取られた。その結果、かなりの長期間アメリカの映画・テレビ業界で働くことができなくなり、名前をスクリーンから削除された。
他に「ハリウッド・ブラックリスト」が存在し、膨大な数の人物がリストアップされていたようで、例えば下記のように名前があげられていた。
オーソン・ウェルズ (映画監督・俳優)
ピート・シーガー (フォークソング歌手)
ポール・ロブスン (黒人霊歌歌手)
エドワード・G・ロビンソン (俳優)
アーサー・ミラー (劇作家)
ハリー・ベラフォンテ (歌手)
赤狩りを主導したのは共和党右派のジョセフ・マッカーシー上院議員(マッカーシズムとも呼ばれている)で、当初はマッカーシーの強硬な姿勢が国民から大きな支持を受けたものの、マスコミをはじめ政府、軍部内にマッカーシーに対する批判が広がる。
1954年の12月、上院はマッカーシーに対して「上院に不名誉と不評判をもたらすよう行動した」として事実上の不信任を突きつけ、ここに「マッカーシズム=アメリカにおける赤狩り」は終焉を迎えた。しかし疑いをかけられた人々の名誉回復は1970年になってからだ。
マッカーシズムが吹き荒れた中で、自らが標的となることに対する恐怖によって、アメリカ国内におけるマスコミの報道や表現の自由に自主規制がかかったり、告発や密告が相次いだことなどから、多くの人々がダメージを受けた。またアメリカが掲げた「自由主義で民主主義の国」という言葉に対し、国内外から多くの疑問が呈された。
余談だが、トランプ旋風やその支持者たちの行動を見ていると、源流がマッカーシズムにあるような気がする。

前書きが長くなったので作品解説は簡単に。
第二次世界大戦後、共産主義排斥“赤狩り”の嵐が吹き荒れるアメリカ。理不尽な弾圧はハリウッドにも飛び火し、脚本家ダルトン・トランボは議会での証言拒否を理由に投獄されてしまう。出所後、最愛の家族の元に戻ったものの、キャリアを絶たれたトランボには仕事がない。そんな中、イアン・マクレラン・ハンターから名前を借りて偽名で執筆した『ローマの休日』の脚本がアカデミー賞を獲得し、彼は再起への道を歩み始める。やがて俳優のカーク・ダグラスから『スパルタカス』の監督の依頼が舞い込み、同時期にプロデューサーのオットー・プレミンジャーから映画『栄光への脱出』の監督の依頼がある。両作品で再びトランボの名が公にクレジットされ、興行的にも大成功する。
①トランボのいかなる弾圧にも負けぬ不屈の精神
②それを支えた家族愛。授賞式でトランボが家族に感謝する場面は感動的。
③実名なので例えばジョン・ウエインが映画では戦争で活躍するが実際には戦地に行っていないとか、『スパルタカス』の試写をみながらカーク・ダグラスがスパルタカスは自分自身だと呟く(トランボ自身でもある)などのエピソードが散りばめられている。
といった見所が随所に描かれている。
作品としても良く出来ていて、未見の方は実際に鑑賞することをお薦めする。

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