芸人たちの寄席への熱い思い
いま寄席に通う方々や落語ファンにとって、寄席が消えるなんて信じられないかも知れないが、戦後に多くの寄席が廃業している。私が行ったことのある寄席でも、人形町、目黒、川崎が廃業になった。
コロナ禍の休業や入場制限で都内の「寄席」が存続の危機にある。
出演する芸人たちもまたコロナ禍と向き合っている。窮地にある寄席と芸人はいま——。
「Business Insider」では、は落語家の柳家さん喬(72)・桂米助(73)・瀧川鯉斗(37)・紙切り芸人の林家正楽(73)の4人から寄席への熱い思いを聞いているので、その一部を抜粋して紹介する。
鯉斗
私も真打になってまだ2年。さん喬師匠がおっしゃったように「路頭に迷うような感じ」はあるな、と思います。「凄く悲しいな」と思って……。
僕ら若手にとっても、寄席というのは特別な場所なんです。師匠方から芸だけでなく、芸人としての所作、在り方などいろいろなことを教わることができる特別な空間なんですね。
だからこういう状況の中、ファンの皆さんのお力を頂けたのは、ものすごくありがたいです。
正楽
そうね……。落語はもちろん、色物も同じですけど、やっぱり毎日やってないと芸がダメになるのよね。
特に曲芸や紙切りはそこで大変。自分としてはね、コロナ禍になってから、本当の馬鹿になっちゃってね。寄席が閉まっていた間、頭がぽやぁ〜としちゃって。
日常全てで何をどうしたらいいか分かんない状態だったんですね。もうホントにおかしくなっちゃって
米助
どうしたって家を出て、寄席に行って、舞台が終わってまっすぐ帰る。その繰り返しの日々が続きます。
ただ、僕ら芸人は本来ならいろいろな方とお会いし、話をするのも修行のうちです。
ずっとこの状態が続けば、僕らが「世間の味」が分からなくなっちゃうかもしれないという危機感はありますね。
さん喬
コロナ禍になったことで、我々も寄席の価値や意義を再認識させていただきました。
そしてコロナで噺家とかいわゆる寄席芸人がどんな影響を受けてきたか……。もちろん入場者が少ない、つまりいただける割り(給金)が少なくなったというのはあります。
ですが、それ以上に寄席という場所が「お客様が芸を見てくださる、聞いてくださることが大前提の稀有(けう)な場所」ということです。それを改めて、このコロナ禍の長い期間で感じましたね。
やっぱり、寄席のお客様が芸人を育ててくださる。その「育つ」ことをコロナが圧してるというか、止めてしまっている。
我々がいかにそれを乗り越えて、お客様に接していけるかが一番大事なこと。ですが、寄席がなければそういう策や足元が無くなってしまう。それはあまりにつらいなと思って。
さん喬
コロナ禍の影響で無くなってほしくないのはもちろんです。僕たちには寄席を残していかなきゃいけない義務、責任がある。
それだけじゃない。コロナ禍でお客様が少なくなっていますが、我々はコロナが収束したときにお客様が寄席に戻っていただけるよう、今こそ勉強していかないと。
「お客さんが来なくなった。少なくなった」「お客さん少ねぇし、まあいいか……」と、芸がおざなりになっては絶対にいけない。
どんなに少なくても、この時期に高座を見てくださるお客様を裏切ってはいけない。
「こんな時世だけど、楽しく笑えてよかったなぁ」「短い時間だけどよかったなぁ」「元気になったらまた行こうね」って思ってもらいたい。今こそ、その努力をしないと。
さん喬
でも、寄席の経営は最悪な状態のわけですよ。本当に逼迫している。赤字を出して毎日興行を打っているわけですから。お客様もそれを知ってくだすっている。
「芸人を守りたい」というお声をいただき、それも非常にありがたい限りです。寄席を守ること、それが芸人を守ることにもなります。「芸人を守ることが、寄席を守ること」ではないんですね。
芸人は寄席を守る戦士みたいなもの。その戦士達を育てる場所でもあります。寄席と芸人、その両方が噛み合っているわけですね。
その「育てる場所」が崩れようとしているところを「みんなで支えてやろうよ」とクラウドファンディングでご支援いただいているんですね。
鯉斗
僕にとってはもう、先輩や師匠方に「教わる場」だと思っています。そしてプレイヤーとして、芸を磨く場所でもあります。
それが途切れてしまうというのは深刻。そこでしか教われないものがある。
僕らは楽屋で、他の人とのお付き合いの作法の基本、つまり「気を遣う」ことを学びます。
前座さんであれば、出番前に師匠方にお茶を出したり、師匠方の着物も元の状態に畳んでお返しする。そういう一つ一つの仕事が噺家を育てると思うんです。
師匠方が交わす他愛もない話も「他愛もない」とは思いません。楽屋での会話を聞いて、僕らは育ちます。そういう空間がなくなるというのは、噺家にとって危機的なことなんだろうなと。
正楽
寄席が無ければ僕は今日まで生きてこれませんでした。
寄席は10日間が一興行。もし二日なり三日なり寄席を休んで他の仕事して、それからまた寄席に入ると怖いのね。
寄席は楽しい、だけど怖い。それでも、毎日毎日寄席に行きたくなる。
私が今こうやって紙切り芸人として生活している、生きているというのは、寄席があるからこそ。だから寄席が無くなることなんて考えられないし、ご支援いただいていることは本当に感謝です。
そして、こっちも頑張らなきゃいけない。それを痛切に思っていますね。
米助
心配なく寄席へ来ていただいて「あぁ…。今日はいっぱい笑ったな」って、そういう世界に早くなってほしいよね。
寄席に来て、マスク無しで思い切り笑えるような時代が来てほしい。そして目いっぱい、お客さんを笑わせるしかないです。それだけです。
さん喬
寄席の中でいかに頑張って「あぁ、やっぱり寄席があって良かった」と思っていただけること。
そして、応援いただいた方に「支援して良かったなぁ」って思ってくださることが、お返しできる恩だと思います。
一日も早く、あらゆる芸能で皆さんに喜んでいただける世界に戻ってほしい。寄席に来てくださる全ての方々に笑っていただける。それが全てへのお返しかなと思いますね。
そしていつの日か「あのクラファンのお陰で、俺たちこうやって寄席に出ることができるんだよなぁ」「寄席が無くならなくてよかったなぁ…」と、思い出話ができることを願っています。
最近のコメント