日本の戦後を問う『反応工程』(2021/7/14)
『反応工程 Reaction Process』
日時:2021年7月14日(水)14時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:宮本研
演出:千葉哲也
< キャスト >
高橋ひろし/牟田(係長)
平尾仁/猿渡(職長)
有福正志/荒尾(責任工)
天野はな/正枝(見張り勤務、荒尾の妹)
河原翔太/木戸(動員学徒)
久保田響介/田宮(動員学徒)
田尻咲良/節子(田宮の妹)
清水優/林(動員学徒)
内藤栄一/太宰(勤労課員)
奈良原大泰/影山(学徒動員)
八頭司悠友/矢部(見習い工)
若杉宏二/柳川(徴用工)
神農直隆/清原(監督教官)
神保良介/憲兵
【あらすじ】(注意:ネタバレあり)
舞台は、太平洋戦争の敗色濃い1945年8月5日、九州中部にある三井系の軍需指定工場の休憩室。戦前は染料を製造工場も、今ではロケット砲の推進薬を作り出す"反応工程"の現場となっている。 徴兵されて人手不足になったため、田宮、林、影山らの動員学徒も配属され、工員らと共に汗を流している。勝利を信じる田宮だったが、勤労課の職員である太宰に戦争の本質を説かれ、禁書となっている本を渡される。
8月7日、前日に広島に大きな爆弾が落ちて大勢の人が死んだという噂が届く。この頃は北久州でも空襲が激しくなり、皆内心では戦争の勝利に不安を感じるが口には出せない。そんな中、影山に召集命令が下り、周囲からはオメデトウと祝福されるが影山は何だか浮かない顔。影山は徴兵拒否で逃亡する。一方、憲兵による私物検査で、田宮が禁書を持っていることが分かり、誰から貰ったのか厳しい追及を受けるが田宮が黙秘したため憲兵から激しい暴力を受ける。田宮は、監督教官の清原に学生が本を読むことがなぜ悪いのか問いただすが、清原の答えは曖昧なものだった。事情を知った太宰が自分が渡したと憲兵に名乗り出る。
戦況がさらに悪化した8月10日、工場は爆撃を受け、林や田宮と恋仲だった正枝が死亡する。逃亡していた影山は招集に応じることにして戻ってくるが、既に母親が息子の逃亡を恥じて縊死したことを知る。
1946年3月、終戦後の工場では、戦後を生きた人々が再会する。戦争中はさんざん戦意高揚を煽った人物が戦後のどさくさに紛れて金儲けをしていたり、熟練工の荒尾に係長が退職の打診をしたりと、様々な動きがある。工場を訪れた田宮はお互いの無事を喜び、進学を諦めて農業をしていることを告げる。
本作品は、宮本研が32歳の時の1958年に書いたものだ。作者自身の体験、すなわち戦中の苦しい時代から戦後の混乱期、労働運動の高揚とレッドパージ、朝鮮戦争を経て日本の独立とサンフランシスコ体制が確立するまでの時期と重なる。
上演時間では戦時中の場面が多いが、作者が言わんとしていることは、最後の戦後の場面に集約されていると思う。
戦後の日本は戦争責任を問うこともなく、自らを加害者として反省することなく、過去を顧みないまま戦後を歩み始めた。
それが、例えば労組の大会で皇居遥拝して君が代を歌うという主張がなされるといった場面や、戦意高揚を煽った人物が戦後はひたすら金儲けの精を出すといった場面や、戦時中のスローガンの上に労組のビラを貼る場面などに象徴的に表れている。
戦争が遠い過去のなりつつある今、多くの方に観てもらいたい演劇だ。
フルオーディションで選ばれた出演者は熱演だったが、演技力にバラツキがあるように思えた。
書かれた時代にせいか、怒鳴り合う場面が多かったのは致し方なかったか。
公演は、7月25日まで。
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