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2021/08/29

五輪が映した韓国の感情

東京オリンピックが閉会した8月13日付「東京新聞」に、ソウル支局の中村彰宏が五輪と日韓関係について書いていた。
その記事によると、韓国でも東京五輪への関心が高く、TVで連日中継されていた。目についたのは、日本を敵視したような表現で、個人競技でさえ日本と韓国の選手が対戦すると、「韓日戦」とあおる。韓国では歴史問題を背景とした反日感情が根強く、スポーツの世界でも日本は特別な相手としてとらえている。韓国紙のスポーツ記者は「選手たちは幼い頃から、日本にだけは負けるな」と教わるという。
もちろん、競技の世界だから、時に互いにライバル視して競い合うことは大事だが、上記の記事の通りだとしたら、それは根底に「憎悪」が置かれているとしか思えない。
東京五輪で韓国は、初っ端から「竹島」の領有権問題を絡めて、与党幹部らによる五輪ボイコットの主張がなされた。開催の趣旨に賛同できなければボイコットをするのは自由だ。しかし、選手村に掲げた韓国選手団の横断幕での、「臣には、まだ5千万国民の応援と支持が残っています」のスローガンはどうなんだろう。これは韓国の抗日の英雄である李将軍が国王に捧げた、「臣には、まだ十二隻の船が残っています」の言葉から引いたもので、IOCが五輪憲章に反すると判断したのは当然だ。選手村の食事について、食材に福島などの放射能汚染のものが使われているとのことで、韓国から取り寄せた食材で調理したものを選手に提供した行為も行き過ぎだろう。大会中、繰り返された旭日旗への批判についても、妥当とは思えない。放射線状のデザインや施設の形状にまで旭日旗批判に結び付けられるのは、いささか度を越していると言わざるを得ない。

1930~1940年代にかけての「アジア太平洋戦争」において、日本はおよそ10年にわたる中国への侵略戦争や、植民地として韓国や台湾を始め、東南アジア諸国に多大な被害を与えた。そのことは決して忘れたはならないし、今後同じ過ちを繰り返してならない。
今の日本政府の、こうした歴史を否定するかのような方針や、南京事件や関東大震災における朝鮮人殺害(私の両親は大震災を経験していたので話は聞かされていた)を否定するような歴史修正主義は誤りだ。ネットの一部のサイトや、右翼紙誌が「嫌韓」を煽っているのは唾棄すべき事柄だ。
同時に、韓国の行き過ぎた反日行為も、あるべき日韓関係にとって障害となる。
スポーツの世界においても、日韓が互いに隣国として、競い合い讃え合う関係になるべきだろう。

2021/08/27

海外駐在員のコロナ死

いま、アフガニスタンに残されている日本人救出のため、自衛隊が現地に派遣されているが、この夏、企業からアジア駐在を命じられた多数の日本人が、現地でコロナに感染し死亡している。
例えば、インドネシアではおよそ20人がコロナで死亡した。過去に邦人が海外で犠牲になった事件としては、2013年のアルジェリア人質事件で10人、バングラデシュでの襲撃事件で7人がそれぞれ亡くなっているが、今回のケースはそれを遥かに上回る、日本の産業史上の海外展開としては最悪の事態だった。その割には報道の扱いも少なく、世間の関心も低い。
感染事態の全貌が把握されていないが、首都ジャカルタ近郊には多くの日本企業が進出しており、現地駐在員の多くは郊外にある日本人向けコンドミニアムから通勤している。施設内にはプールやジム、スーパー、レストランなどが完備されていて、地区によっては日本人学校まで開校している。とても便利である反面、コンドミニアムは閉鎖空間であり、日本人とインドネシア人スタッフだけの「密」状態にあった。その一つのコンドミニアムでコロナ感染が始まり、7月までに100人以上が陽性になっていた。近くに外国人向けの専門病院はあるが、その時点で既に満床。やむを得ず自室で待機していて、そのまま亡くなるケースが相次いだ。
もしコロナ感染が拡大し始めた時点で、本社が帰国命令を出していれば、助かった人が大半だったろう。しかし、各企業は横並びの対応しかせず、日本大使館なども十分な情報発信を怠っていた。
ベトナムでもコロナ感染が拡大しており、帰国を希望する駐在員もいるが、日系航空会社が日本ーベトナム間の運行を止めていて、諦めるケースが大半だ。
その他、老後を送る日本人がアジア各地に数千人いるとみられる。「俺を生かしてくれ」という言葉を残してコロナ感染で亡くなったのは、バンコクに滞在していた70代の人だ。そうした長期滞在者のおよそ半数が、過去にアジアに駐在経験のある元ビジネスマンだと推定されている。
結局、政府も企業も、こうした海外に駐在あるいは滞在している人たちに助けの手を差し伸べることなく、「棄民」しているのが現状だ。
(月刊誌「選択」8月号の記事を参考にした)

2021/08/25

志ん朝を見たかい?

先日のある落語会、後ろの席の中年の男性客ふたり。片方の人はネタ別に演者を評価するノートをつけていて、「どのネタでも、結局は志ん朝が一番になるね」と言った。もう片方のちょっと年下と思われる人が「志ん朝を見てるんですか?」と訊くと、「独演会に随分と通ったよ」と答えていた。片方の人は「僕は見てないんですよ」と残念そうに言っていた。
志ん朝が亡くなったのは2001年だから、今年は没後20年ということになる。寄席に若い女性客が目立つようになったのは2000年辺りだったから、志ん朝を知らない落語ファンも増えてきた。だから、志ん朝を見たなんて、ちょっと得意げになるのだろう。
今日の東京新聞に、志ん朝の思い出について二人の人が書いている。
一人は矢野誠一で、志ん朝が昭和の落語の集大成、古典落語の規範を作り上げた、と語っている。志ん朝のノートを見ると、並の精神じゃない、噺家としての規格を自ら作り、そこに自分をはめ込んでいった気がする、とも。素質があったのは勿論のこと、研究を重ねて自らを鍛え上げていたのだ。
もう一人は水谷八重子で、志ん朝とはメディアの企画で、成人式の若者同士として会ってからの長い付き合い。舞台でもよく一緒で、脚本が遅くセリフが覚えられない時に、「舞台より落語を覚えることが多いじゃないの」と訊いたら、「芝居と違って人に迷惑かけねえもん、自分でやりくりすれば、どうにかなる」と言っていた。志ん朝も若い頃は、舞台や、TVドラマからバラエティまで幅広く活躍していた。水谷が朝さま(志ん朝をこう呼んでいる)に、志ん生襲名について尋ねたところ、「落語家の襲名の口上なんて、周りが言いたいことを言うだけ、そんなことやってられるか」と笑い話で終わったそうだ。
矢野が言っているように、志ん朝は芸のピークで亡くなった。私が高座での姿を見て、志ん朝の異変に気付いたのは、当代馬生の襲名披露公演の1999年9月だから、亡くなる丁度2年前。死後、周囲の家族や弟子たちが志ん朝の病気に気付かなかったと語っていて驚いたが、周りがもっと早く気が付いて上げたらと、そこが悔やまれる。

2021/08/23

辻萬長さんの死去を悼む

Tsuji
日本の演劇界を支えた俳優の辻萬長(つじ・かずなが)さんが8月18日、腎盂がんのため死去した。77歳だった。
私が観た辻萬長さんの舞台は以下の通りで、公演名、辻萬長さんが演じた役、年月日の順に記す。

こまつ座84回公演「人間合格」 中北芳吉 2008/2/17
こまつ座88回公演「兄おとうと」 吉野作造 2009/8/2
「十二人の怒れる男」 陪審員四号 2009/12/5
「夢の泪」 伊藤菊治 2010/5/18
「夢の痂」 佐藤作兵衛 2010/6/14
こまつ座101回公演「イーハトーボの劇列車」 宮沢政次郎 2013/10/9
「アルトナの幽閉者」 父親 2014/2/20
こまつ座「父と暮せば」 福吉竹造 2015/7/11
「城塞」 男の父 2017/4/25
こまつ座129回公演「日の浦姫物語」 説教聖 2019/8/21

辻萬長さんは名優という言葉がピッタリだった。どんな芝居の、どんな役柄でも、辻萬長さんは圧倒的な演技力と存在感を示していた。
なかでも印象に残るのは、「父と暮せば」の父親役だ。ストーリーは悲劇的なのだが、そこに辻さんが演じる幽霊の父親が出てくると、何かホッとした気分になる。原爆で倒壊した建物の下敷きになっていた父を助け出せずにいた事から、その罪に苛まれ自分は幸せになってはいけないと思い詰める娘に、幽霊の父親はこう声をかける。
「人間のかなしいかったこと、たのしいかったこと、それを伝えるんがおまいの仕事じゃろうが」
「そいがお前に分からんようなら・・・・ほかの誰かをかわりに出してくれいや・・・・わしの孫じゃが、わしのひ孫じゃが」
今でも辻萬長さんの声が耳に残る。
合掌

 

2021/08/22

日本の司法制度の闇を映す「強姦冤罪事件」

再審の判決が出たのは7年前であり、それほど大きな反響をよんだ事件でもなかったので、忘れた人も多かったと思られるが、日本の司法制度の闇を映す冤罪事件として、又これからも起こりうる事件として注目したい。
『Business Journal』の河合幹雄氏の記事を参考に、事件の顛末を追ってゆきたい。
事件が起きたのは2008年で、当時65歳だった男性が、自身の養女である14歳の少女を2004年と2008年に強姦したという、少女本人の証言によって逮捕、起訴された。この少女は、男性の妻の連れ子(女性)の娘、つまり男性にとっては孫娘に当たるが、2005年に男性の養女となったという複雑な環境にあった。男性は捜査や裁判で一貫して容疑を否認したものの、少女やその兄の証言が決め手となって、2011年に最高裁で懲役12年の実刑判決が確定した。
ところが男性が服役しているさなかの2014年、少女が「証言はウソだった」と弁護士に告白し、兄も証言が虚偽だったことを認めた。さらに、少女が事件直後に受診していた医療機関において、性的被害の痕跡がなかったことや、実際には被害を受けていないという少女の発言の記載されたカルテが存在することも判明。虚偽の証言による冤罪であったことが明らかとなり、男性は釈放された。
その後、2015年の再審判決公判で無罪が確定した。逮捕、起訴されてから無罪が確定するまで7年を要した。
なぜこうした冤罪を生んでしまったのか。
第一は検察の考えられないミスだ。検察官が、14歳の少女がありもしない強姦被害等をでっち上げるまでして養父を告訴すること自体非常に考えにくいと勝手に解釈し、少女やその兄の証言を鵜呑みにしていたからだ。そのため、大事な証拠となる少女の診察記録を調べなかったか、あるいは隠蔽したのか、いずれにしろ検察の重大なミスだ。
第二は、裁判官の姿勢だ。この事件の裁判官は、検察と同様、少女の虚偽の証言に基づく検察の描いた事件のストーリーをまったく疑うことなく、有罪判決を下してしまった。それも地裁、高裁、最高裁のいずれも揃って誤った有罪判決を下したのだ。
この背景には、日本の刑事裁判においては、しばしば検察の主張はほぼ自動的にそのまま採用されてしまう。検察が起訴したら、裁判所はそれに対してほとんど異を唱えず、99.9%以上の率で有罪判決を下しているのが現実だ。極論すれば、日本の刑事裁判で人間を裁いているのは、事実上、裁判所ではなく検察なのだ。
本件では、男性が、過去に少女の母親と性的関係を持っていたという事実も裁判官の心証を悪くした可能性がある。それと、証言のみを鵜呑みにして証拠調べを怠ったという姿勢は、裁判官としてあるまじき態度だ。

無罪が確定した男性とその妻は、冤罪によって受けた精神的苦痛に対する国と大阪府の責任を追及すべく、国家賠償請求訴訟を起こした。ところが大阪地裁は、「起訴や判決が違法だったとは認められない」として、男性側の請求をすべて棄却した。
前項に記したように、この冤罪は検察と裁判所の完全なミスが原因であり、それによって男性は長期間刑務所に入れられ、物心両面で多大な損害を被ったのですから、国が賠償責任を負うのは当然と思える。
国家賠償の定義だが、国家賠償法第1条において、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」と規定されている。
ところが、最高裁の判例では、
「違法行為があったとして国の損害賠償責任が認められるためには、裁判官が違法または不当な目的をもって裁判をしたなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合でなければならない」
「各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったときは、検察官の公訴の堤起および追行は違法行為に当たらない」
としている。
つまり、「検察官や裁判官が、悪いことをしようという明確な意図のもとに行ったことでなければ、国家が賠償する必要のある違法行為には当たらない」という判断だ。今回もこの判断に基づき、男性側の請求は棄却されたことになる。
しかし、本件の様に検察官と裁判官の明らかなミスで冤罪を生んだケースでは、国家賠償が適用されるべきだろう。
この事件全体を見るに、刑事事件に対する司法の在り方に、一石を投ずるものだ。

2021/08/20

TV視聴率が上がればコロナ感染が減るって?

8月19日参院内閣委員会の閉会中審査で、丸川珠代五輪担当相は「五輪は感染拡大の原因ではない、と断言されている根拠」を問われ、「オリンピックの開会式は56・4%、閉会式が46・7%と、期間中も高い視聴率を記録」と、なぜかテレビ視聴率を読み上げ、野党席から抗議の声が上がった。
また、東京都の小池百合子知事は、五輪のコロナ感染への影響を問われ、「テレワークなどの推進もあり、ステイホームで応援していただき、視聴率も上がった」と主張していた。
丸川と小池の主張に共通しているのは、TV観戦さえしていれば、コロナの感染拡大はあり得ないというものだ。
落語家なら、ここは「冗談言っちゃいけねえ」とサゲて高座を下りるところだ。
それなら、五輪開催を機にコロナ感染が爆発的に増加しているのを、どう説明するつもりだろうか。
さらに小池都知事は8月13日、競技場の周辺や沿道に多くの人が集まり応援する姿が見られたとの指摘に対して、「印象論でおっしゃっている。エピソード(出来事)ベースではなく、エビデンス(証拠)ベースで語ることが重要だ」と語った。
しかし小池が、TV視聴率ーコロナ感染の関係を「エビデンス」で証明したことは一度もない。小池の主張こそ「印象論」そのものだ。
小池知事は8月19日に、東京パラリンピックにおける児童や生徒らの観戦について「希望されるお子さんが、実際にパラリンピアンの努力や姿をみることは、やはり教育的な価値は高いと思う」と述べ、実施する意向を改めて強調した。この問題は、8月18日に行われた都教育委員会で委員全員が実施に反対したにも拘わらず、自説を曲げない。修学旅行はNOだが、パラ観戦はYESなのだ。
私が中学生の時に、戦後初めて日本で開催されるアジア大会が開かれた。私たち中学生は社会見学として旧国立競技場に集合、観戦させられた。当初は期待もあったが、競技場の中では様々なトラック競技やフィールド競技が行われていたが、米粒ほどの人が動いているのが見えるだけで、今なんの競技が行われているのか、どんな選手が出場しているのか、さっぱり分からぬまま終わってしまった。生徒たちは退屈して歩き回り、そのうち女性モデルの撮影しているのを誰か見つけた。モデルが客席の一番奥に立っているものだから、スカートの下から下着が見えるというので、我々悪童たちは代わる代わる見学に行ったものだ。アジア大会の思い出は、それだけ。その経験からすると、あまり「教育的な価値」は期待できない。今なら大型スクリーンなどで競技の模様が写されるかも知れないが、それじゃ家でTVを観るのと変わりない。第一、小池はTV観戦によりコロナ感染が抑えられていると言ってるじゃないの。

2021/08/19

国立演芸場8月中席(2021/8/18)

国立演芸場8月中席・8日目
前座・神田松麻呂『宮本武蔵より』
<  番組  >
春風亭昇也『牛ほめ』
三遊亭王楽『宮戸川』
母心『漫才』
立川談春『野ざらし』
 ~仲入り~
桂文治『お血脈』
江戸家まねき猫『ものまね』
三遊亭円楽『藪入り』

国立演芸場8月中席は、芸協に圓楽一門+談春という顔付け。お盆には寄席が似合う。かつては浅草演芸ホールのお盆興業の昼席は、志ん朝が主任で、最後に賑々しく住吉踊りを見るのが慣わしだった。はねると地下鉄で上野広小路に移動し、さん喬と権太楼が交互にトリを取る鈴本の夜席に。当時は指定席なんか無くて、17時10分頃に着いても最前列で観られた。いい時代だった。

前座が講談というのは、なんかしっくり来ないね。

昇也『牛ほめ』
ここでようやく客席がほぐれる。前座噺だが、昇也は愛嬌があっていい。「お猿にらっきょう」「落語家に愛嬌」だ。

王楽『宮戸川』
東京都を流れる隅田川、かつては浅草周辺を宮戸川、吾妻橋より下流を大川と呼び、これが佃付近になると大川端となる。タイトルの宮戸川、噺の後半になると登場するが、通常は前半で切るので出てこない。王楽はテンポ良く演じたが、この人、男前過ぎるのが欠点かな。

母心『漫才』
この日は歌舞伎の所作を離れて、漫才とマジックの融合や、鳩づくしを。ネタは練られていたが、客のあしらい方には工夫が要るだろう。

談春『野ざらし』
釣り竿片手に「さいさい節」を唄いながら踊りまくる姿に、客席は大受けだった。3代目柳好や8代目柳枝の様な「粋」には欠けていたけど。

文治『お血脈』
文治は、地噺に独自のクスグリをふんだんに放り込んだ高座で楽しませた。得意の『源平』もそうだが、地噺がこの人のアクの強さと親和性がいいんだろう。

まねき猫『ものまね』
この日は『枕草紙』に乗せてという趣向だったが、肝心の物真似はマンネリ。

円楽『藪入り』
記憶違いでなければオリジナルの3代目金馬は1月だったと思うが、円楽は7月の設定で演じた。サゲも「猫を被っていた」と独自のもの。親子の心情を描いた作品だが、どうも私は苦手で好きになれない。円楽の高座は何度か観てきたが、この人は「陰の人」だね。そこが先代とは違う。

2021/08/16

「市馬落語集~お盆特別公演~」(2021/8/15)

「市馬落語集~お盆特別公演~」
日時:2021年8月15日(日)17:30
会場:国立大劇場
<     番組    >
●第一部:令和噺競(れいわはなしくらべ)~九代目春風亭柳枝襲名祝~
柳亭市童『黄金の大黒(序)』
桃月庵白酒『代書屋』
柳亭市馬『締め込み』
    ~仲入り~
春風亭一之輔『普段の袴』
春風亭柳枝『船徳』
●第二部:長講二人會
柳家三三『素人鰻』
太田その・柳沢りょう『上げ潮』
柳亭市馬『七段目』

市馬落語集の拡大版という趣向で、九代目春風亭柳枝襲名祝を兼ねる。落語協会としては待望の大名跡の復活だったろう。会場も奮発して国立大劇場、満員とはいかなったがこの時節にしては良い入りだった。ただ箱が大きすぎて、落語には不向きだったようだ。

市童『黄金の大黒(序)』
前座の頃から注目していたが、着実に成長している。個々の人物像も良く描いて見せた。

白酒『代書屋』
面白かったが、う~~んだ。このネタ、どこか昭和初期の匂いがいるのと、代書屋の主人と客との位置関係の表現がポイントだと思う。そこが白酒の高座には見て取れなかった。好みでいえば、三代目桂春団治がベスト。墨の擦り方、筆の持ち方、主人と客の表情変化、全ていう事なし。

市馬『締め込み』
市馬らしい良く纏まった高座だったが、女房のお福にもっと色気と可愛さが欲しい。何しろ、風呂敷包みを見ただけで、亭主の八五郎が女房の浮気を疑うほどだから、お福は余程の男好みだったんだろう。

一之輔『普段の袴』
十八番には違いないが、『又かの袴』かよと、ちょっとガッカリ。

柳枝『船徳』
前半が今一つ締まらなかったのは、二人の客の姿にあまり暑さを感じなかったせいか。後半の徳が船を漕ぎ出す辺りからようやくエンジンがかかってきた。全体的にはマアマアの出来か。

三三『素人鰻』
振り返ればご無沙汰だった気がするが、上手くなったなぁと思った。神田川の金と、侍から鰻屋の主となった男の人物像が巧みに描かれていた。欲を言えば、金が主の前で見せる酒癖の悪さと、翌日の借りてきた猫の様に大人しくシュンとした姿の対比を、もっと強く出してほしかった。

太田その・柳沢りょう『上げ潮』
小唄の題名には自信がないので、間違っていたら御免なさい。簾内だったのが残念だが、下座が高座に上がるべきでないという理屈もその通り。

市馬『七段目』
時間の関係からか、少し短縮した内容だったが、肝心な所での歌舞伎のセリフや所作は本格的。大劇場に相応しい高座で最後を締めた。

2021/08/14

ベルリン五輪を撮影した映画監督「レニ・リーフェンシュタール」

先日、閉会したオリンピックだが、TV中継の合計視聴時間は60分以下だから殆んど見てないと言って良い。元々、スポーツ番組はプロ野球か大相撲ぐらいしか関心がない。以前はフィギュアスケート(女子)は見ていたが、キムヨナと安藤美姫が引退してから見る気がなくなった。その理由は・・・おっと、ここは口を閉じておこう。
せっかくだから五輪ネタを。
1936年に開かれたドイツ・ベルリン五輪大会の記録映画を撮影した映画監督「レニ・リーフェンシュタール」についてです。
当時のドイツはナチス政権下にあり、ヒットラーや宣伝相のゲッペルスが重視したのは映像、とりわけ新しい芸術だった映画だ。その頃のドイツは映画先進国で、『嘆きの天使』『会議は踊る』『三文オペラ』など、映画史上に残るような数多くの作品を作りだしていた。
才能のある映画監督も次々生まれたが、その一人にアーノルド・ファンクがいた。その彼の元に一人の女性から売り込みの手紙がくる。その名をレニ・リーフェンシュタール。ファンクは彼女に会うとその美貌に一目惚れし、早速主演女優に抜擢する。レニはファンクの傍らで技術を学ぶと、自ら監督兼主演女優となって映画『青の光』を制作する。
この作品を見て、ヒットラーは彼女の芸術的才能に着目し、ニュルンベルクにおけるナチス党大会の撮影をレニに依頼する。彼女はその期待に応えて、『信念の勝利』『意志の勝利』を完成させる。作品は単なる記録映画の範囲を超え、芸術的なプロパガンダ映画に仕上がった。作品はドイツ全土で公開されて大衆は熱狂し、ナチスの人気が高まった。
気を良くしたヒットラーは、ベルリン・オリンピックの公式記録映画の製作をレニに依頼する。彼女はナチスの庇護のもと、巨額な予算と大勢のスタッフをしたがえて、『民族の祭典』『美の祭典』を完成させる。公開されるや、ドイツのみならず世界中でヒットし、ヒットラーの狙いは的中する。
その一方、レニを見出したファンクは不遇をかこっていたが、ナチスから「日本人俳優を使って、ドイツ人が日本に好感を抱くような映画を作れ」という命令を受ける。日独同盟へ世論を盛り上げるための対策だった。日本に渡ったファンクは無名の新人女優・原節子を見出し、主演女優として抜擢して成功。ファンクは女優を発掘する才能はあったわけだ。
1945年、第2次世界大戦が終結し、ナチスは崩壊する。レニは一転してナチスの同調者として糾弾され、映画界に戻ることは許されなかった。生前、レニは「私のどこに罪があるというの」と語ったという。芸術家にとって時に政治との係りは命取りとなる。
今回の東京五輪の公式記録映画を担当したのは、河瀬直美監督だ。
(以上、『選択』8月号の記事を参考にした)

2021/08/13

看過できぬ「DaiGo」の発言

8月12日付『BuzzFeed』に、メンタリストDaiGoの、生活保護受給者やホームレスの人たちに対するYouTube上の発言についての記事が掲載されている。発言は差別や攻撃を煽動しかねないもので、優生思想に直結するとの指摘もある。
YouTubeチャンネルの登録者数が244万人、Twitterのフォロワーも76万人以上いる。発言のあった動画も、すでに14万回以上再生されているとのこと。
8月7日に公開されたDaiGoのYouTubeライブ動画での発言は、次の様であった。

「僕は生活保護の人たちに、なんだろう、お金を払うために税金を納めてるんじゃないからね。 生活保護の人に食わせる金があるんだったら猫を救ってほしいと僕は思うんで。生活保護の人が生きてても僕は別に得しないけどさ、猫は生きてれば得なんで(「ね、癒される。そうだよね」と猫を撫でる)」
「猫がさ、道端で伸びてたらかわいいもんだけど、ホームレスのおっさんがさ、伸びてるとさ、なんでこいつ我が物顔でダンボール引いて寝てんだろうなって思うもんね、うん。僕は今日辛口なのもあれですけど、ダークなんで。人間の命と猫の命はね、人間の命の方が重いなんて僕全く思ってないからね」
「自分にとって必要のない命は、僕にとって軽いんで。だからホームレスの命はどうでもいい。どちらかというと、みんな思わない?どちらかというといない方がよくないホームレスって?言っちゃ悪いけど、本当に言っちゃ悪いこといいますけど、いない方がよくない?」
「いない方がだってさ、みんな確かに命は大事って思ってるよ、人権もあるから、一応形上大事ですよ、でもいない方がよくない?正直。 邪魔だしさ、プラスになんないしさ、臭いしさ、ねぇ。治安悪くなるしさ、いない方がいいじゃん。猫はでもかわいいじゃん、って思うけどね、僕はね」
「もともと人間はね、自分たちの群れにそぐわない、社会にそぐわない、群れ全体の利益にそぐわない人間を処刑して生きてきてるんですよ。犯罪者を殺すのだって同じですよ。犯罪者が社会の中にいるのは問題だしみんなに害があるでしょ、だから殺すんですよ。同じですよ」

発言が、「優生思想に直結する」「差別や攻撃をあおる」などとして、批判を集めている。一方、生活困窮者をサポートする支援者は「言語道断」と強く批判、「ヘイトクライムを誘発しかねない」などとしている。
発言に批判が殺到した12日夜、DaiGoは新たにライブ配信動画を公開。あくまで「個人の感想」であると繰り返した。
「何でかって言うと、税金めちゃくちゃ払ってるから(…)こんな炎上に参加している人に聞きますけど、じゃあホームレスとか生活保護の人たちに寄付しました?たくさん税金払いました?その人たちのために炊き出しとか定期的にやったりしているんですか?そういう人は僕のことを叩けると思います」
「僕は個人的に思うので、そう言っただけなので、別に謝罪するべきことではないと思いますよ。みんなも言うでしょ?『あいつ死んだ方がいいのに』とか言うでしょ。同じよ」
もはや、開き直りでしかない。

まさに、「空いた口が塞がらない」とはこのことだ。DaiGoの様に社会的影響力のある(インフルエンサー)が、こうした露骨な内容を公言したことに、怒りより呆れるしかない。
更に言ってることは支離滅裂だ。「犯罪者が社会の中にいるのは問題だしみんなに害があるでしょ、だから殺すんですよ」と言っているが、犯罪者は皆殺すなんて社会は存在しない。例外的に死刑制度はあるが、それも先進国では廃止されつつある。
こうした人間の生きる権利や生命の尊厳を否定する暴言は、看過できぬ。

【訂正とお詫び】
DaiGoと別人のDAIGOを混同しておりました。お詫びして訂正いたします。

 

 

 

2021/08/12

【今日の言葉】「セクハラ」で辞任したニューヨーク州クオモ知事

ー「私は一線を越えていない。だが、引き直された一線の範囲を理解していなかった。世代や文化の変化を知るべきだった」ー
8月10日、米国ニューヨーク州クオモ知事が辞任を表明した。演説では、政治的混乱を回避するためだったとし、最後までセクハラを認めなかったが、女性蔑視を許さない世論の高まりに屈した形での辞任だった。
州司法当局による調査では、クオモ知事が女性の部下らに対してキスをしたり、胸などをさわったり、性的な誘いをほのめかす会話をしたことがセクハラと認定されたようだ。
クオモ知事はこの調査結果に対して、「政治的だ。不公平であり真実ではない」としているが、まあ完全にアウトでしょう。
一時はコロナ対策などで評価が高く、大統領待望論まで出たが、あえなく退場となった。
冒頭の言葉も、「引かれ者の小唄」にしか聞こえない。
どこかの金メダル噛みつき市長も、さっさと辞任した方が良い。

 

2021/08/10

新型コロナウイルスの発生原因が解明されつつある

今回の新型コロナウイルス(covid-19)の発生場所が中国武漢であることは確実だが、これからどの国でも発生源となる可能性がある。ウイルスが、どの様にして発生し、どの様にして伝播したのかを解明することは、今後の新たなウイルス感染を防ぐ上でも大きな課題だ。
この問題は米中対決のなかで政治問題になりがちだが、後述するように結論によってはアメリカも多少の返り血を浴びることになるので、冷静に科学的な立場での検証が求められる。
この件に関して、2021年8月6日付『現代ビジネス』の長谷川幸洋氏による記事が参考になるので、以下概要を紹介する。

8月1日、米下院外交委員会の共和党スタッフが「新型コロナウイルスは、中国の武漢ウイルス研究所から誤って流出した」と断定する報告書を発表した。政府機関による正式な報告書ではないし、裁判でいうところの物証はなく(物証は中国が持っているだろうから)状況証拠の積み重ねでの結論という弱点を持ちながらも、読んでいて「そういうことだったのか」と合点がいくものだ。
①問題の武漢ウイルス研究所は、新型コロナの感染が広がる前、廃棄物処理システムやお粗末な空調設備の改造に取り組んでいたにも拘わらず、研究所の責任者の1人である石正麗は、本来なら「BSL-4」という高度な実験室で行うべきウイルスの遺伝子操作実験を、「BSL‐2」や「BSL-3」のような簡易な実験室で取り組んでいた。BSL-2は歯医者の診察室レベルだという。
②事件が起きたのは「2019年9月12日の午前2時から午前3時にかけて」と推定される。なぜなら武漢ウイルス研究所のデータベースが突然、この時間にオフライン化されたのである。このデータベースを参照すれば、どんな病原体がいつ、どこで収集され、ウイルスがうまく分離されたかどうかが分かる。新型コロナにつながるウイルスがあれば、その起源を突き止める決定的な証拠になるのだ。それが現在に至るまで、外部から接続できないでいる。この事実は、中国自身のデータベース管理情報によって確認されている。
③ボストン大学やハーバード大学の研究者たちによる調査によれば、衛星画像を基に19年9月と10月、武漢にある6つの病院のうち、5つの病院の駐車場が他の平均的な日に比べて、非常に混雑していたことを突き止めた。
④さらに研究者は、中国の検索エンジンである『バイドゥ』で、「咳」と「下痢」が武漢でどれほど検索されていたかを調べた。その2語は、19年9月と10月にピークに達していた。「新型コロナと同じ症状の病気が武漢で広がっていた」状況を示唆していっる。
⑤19年10月18日から武漢で第7回『軍事スポーツ世界大会(MWGs)』が行われ、世界109カ国から9308人の選手が集まり、27種類の329競技を競った。中国政府は23万6000人のボランティアを募り、90のホテルを用意した。
参加したカナダの選手は「街はロックダウン状態だった。私は到着後、12日間、熱と悪寒、吐き気、不眠に襲われ、帰国する機内では、60人のカナダ選手が機内後方に隔離された。私たちは咳や下痢などの症状が出ていた」とカナダ紙に証言している。競技会場も、6つの病院も、さらには大会参加後に体調不良を訴えた選手がいた場所も、すべて武漢ウイルス研究所の周辺に位置していた。参加国のうち、イタリアとブラジル、スウェーデン、フランスの4カ国について、具体例を示しながら「2019年11月から12月にかけて、国内での感染発生を確認した」と記している。帰国した選手から感染が国内に広がったのだ。
報告書は、この大会が「新型コロナを世界に広げた原因」とみている。
⑥報告書は「石氏らは、米国の資金とピーター・ダスザック氏(注・『エコヘルス・アライアンス』代表)の支援を得て、パンデミックが始まる前の2018年から19年にかけて、コロナウイルスを遺伝子的に操作し、ヒトの抗体システムに試す実験を盛んに行っていた」と記している。米国納税者の資金が中国の生物兵器研究に使われていたのである。石氏は21年6月のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは「私の研究所では、ウイルスの機能を高める『機能獲得』研究をしたことがない」と語っていたが、「真っ赤な嘘」である。

以上のことから、新型コロナは、石氏らが雲南省の洞窟で採取したコウモリの糞などから抽出したウイルスを人工的に操作して、生み出した。その研究には米国の納税資金が使われていた。ウイルスは、2019年9月初めごろ、誤って流出し、それが軍人オリンピックを経て、世界的なパンデミックを引き起こしたのである、と報告書は結論づけている。
私たちが注目すべきは、新型コロナウイルスが一気に世界に拡散したのは、国際競技大会であった点である。この度の東京五輪がコロナ対策をした上での開催となったとは言え、こうした危険性をはらんでいることを忘れてはならない。五輪開催の成否は、あと1ヵ月以上経たないと結論は出ない。
ジョー・バイデン大統領が米情報機関に指示した「武漢ウイルス研究所からの流出説」を含めた調査報告の提出期限は、8月24日に迫っている。大統領がどんな報告を受け取るのか、私たちも注視しよう。

2021/08/08

「河村名古屋市長」は古典的なセクハラおやじ

東京オリンピックのソフトボールで金メダルを獲得した名古屋市出身の後藤選手が7月4日、河村たかし市長を表敬訪問した際、市長が金メダルをかじり、苦情や批判が殺到している。海外のメディアも報道していて、反響をよんでいる。
これだけでも大きな問題だが、さらに表敬訪問では、河村市長は後藤選手に対して「旦那いらないか」「恋愛禁止か」などの質問をしていたことが分かった。
以下に、河村市長の主な発言を記す。
「でかいな。やっぱり。テレビで見るのと大分違うな」
「持たしてちょ。せっかくなので、かけてちょうだい。重たいね、本当に。これ、重たいですよ。こうやって…な?」(この後メダルをかじる)
「体は割と黒人に見えるけど、こうやって見えるとでかいでね」
「あんたはスピードボール。あんたって言ってはいかんね」
「女のソフトボールやっとるやつは、中学生でもみんななんとなく色が黒くて、結構、ポニーテールが多いでしょ」
「是非、立派になって頂いて、ええ旦那をもらって。旦那はええか?恋愛禁止かね?」
「びっくりしました。テレビのたくましい雰囲気と、えらいキュートな雰囲気と」
「元気な女の子は最高だわ。女の子と言えんか」
発言の問題点。
①初対面の人に対して、「あんた」「女の子」と明らかに相手を見下した言い方をしている。
②「でかい」「割と黒人に見える」「キュートな雰囲気」「元気な女の子」など、相手の外観に言及している。
③「ええ旦那をもらって」「恋愛禁止かね?」など、相手の人生観に踏み込んだ発言をしている。
④これが一番問題だが、「せっかくなので、かけてちょうだい」と、後藤選手に金メダルをかけさせている。
全体として、河村市長の発言は「セクハラ」「パワハラ」に満ちたものだ。
まるで一昔前の 宴席での男性の上司と女性の部下のヤリトリを思わせる。
サラリーマンの現役時代、50歳前後の時期に企業での「セクハラ防止教育」が始まった。それまでは、今では完全なアウトになるようなセクハラが、公然と行われていた。当初はセクハラの意味が理解できず(今でも理解してない人もいるが)、男性社員の中では反発の声もあった。その後、大半の社員はセクハラ防止を心掛ける様になり、更には社内に倫理委員会といった苦情を受けつける機構もでき、セクハラやパワハラに敏感になっていった。

今回の件は、河村市長だけの問題だろうか? もしかすると議員や首長といった要職にある人たちに対する教育が行われず、セクハラやパワハラに対する認識が薄いことが根底にあるのではなかろうか。また、被害を受けても苦情を受け付ける機関がないことも問題だろう。
例えば、2019年4月4日付「NHK議員2万人のホンネ」によるアンケート調査によれば、他の議員によるセクハラ・パワハラが「ある」「ある程度ある」と答えた議員は14%余りとなっている。
また、2019年3月25日付「朝日新聞デジタル」によれば、当選1回の女性地方議員を対象に朝日新聞社が行ったアンケートで、4人に1人が議員活動の中でセクハラを受けたことが「ある」と答えている。前者に比べ割合が多いのは、当選1回なので若い議員が多いせいだろう。
議員の間でさえこの状況だから、まして況んや、である。
先ずは、河村市長には「セクハラ・パワハラ防止教育」に参加させ、心を改めさせよう。

2021/08/05

「ベラルーシ」の印象

東京五輪に出場していた陸上女子のクリスツィナ・ツィマノウスカヤ(ベラルーシ)が亡命を申請し、世界を巻き込んだ騒動に発展しています。ツィマノウスカヤはSNSなどで自身が投獄される可能性に触れながら「帰国するのが怖い」と語っていますが、ベラルーシは「欧州最後の独裁者」による恐怖政治が行われています。
私は2017年7月にツアーでベラルーシを訪れました。旧ソ連の国で今は独立している国にこれまで約20ヶ国訪問していますが、現地ガイドに必ず同じ質問をしてきました。それは「旧ソ連時代についてどう思うか?」というものです。殆んどの国の回答は同様で、「ソ連の方が良かったという人もいるが、多くは今の方が良いと思っている」。
処が、ベラルーシの現地ガイド(日本語が達者)だけは例外でした。私と現地ガイドとのヤリトリは次の様でした。
「国民はレーニンを今でも尊敬しているの?」、答えは「尊敬しています」。
「レーニンが間違っていたからソ連が崩壊してしまったのでは?」、答えは「間違いはありましたが、レーニンが目指していた理想は正しかった」。
「スターリンはどう? ベラルーシでも彼によって沢山の人が粛清されたよね?」、答えは「確かにスターリンは酷い事をしました。でも独ソ戦でナチスドイツに勝利した功績は大きい」。
「独裁体制は良くないのでは?」、答えは「スターリンもレーニンも、あの時代にあっては必要な人だった。国によっては独裁は必要だ。ベラルーシも独裁と言われるが、現大統領が進めた政策によって国は上手くいっているし、国内の争いも起きていない。むしろ民主化した国々に戦闘が起きているではないか」。
「ソ連についてどう思っている?」、答えは「ソ連時代は良かった」。
「今の方が自由があって良いのでは?」、答えは「ソ連について、外側から見るのと、私たちの様に中で暮らしていた立場から見るのとでは、見方が違う」。
「ゴルバチョフについてどう思う?」、答えは「ソ連を解体させたとんでもない人間」。
ガイドは続ける。「私の国籍はベラルーシだが、心はソ連人」。
久々に筋金入りの人に出会いました。
例外はこれだけではありません。
首都ミンスクの中心にある中央広場には、レーニンの銅像がたっていました。地下鉄の駅名も「レーニン広場」です。私の知る限りでは、旧ソ連の国で、こうした銅像が今でもたっているのはベラルーシだけです。
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旧ソ連時代にウクライナで起きたチェルノブイリ原発事故で、放射性物質を含んだ灰の多くがベラルーシに降ってきました。汚染地域の住民は国の費用で他へ移住し、その後も定期的な健康診断を受けています。
ベラルーシでは事故による放射性降下物の70%が国土の四分の一に降り、50万人の子供を含む220万人が放射性降下物の影響を受けたと報告されています。ベラルーシ政府は15歳未満の子供の甲状腺癌の発生率が、1990年の2000例から2001年には8,000-10,000例に急激に上昇したと推定しています。
こうした事がらから核爆弾や原発事故に対する国民の関心が高いのです。
首都ミンスクにある有名な教会には、長崎から贈られた鐘が設置され、教会の敷地内には、ヒロシマ、ナガサキ、フクシマの土がカプセルの中に入って埋められています。
日本との意外な接点があり、近しさを感じました。

 

2021/08/04

「自宅療養」ではなく「自宅放置」だろう

政府は新型コロナ感染者のうち、重症化リスクの少ない中等症患者は自宅療養にするという方針を決定した。これまで中等症以上の患者は原則入院だったから、大きな政策転換だ。該当するのは「中等症1」の患者で、臨床状態が呼吸困難で肺炎の所見があるという人が対象になる見通しだ。
私が昨年、肺炎で入院したが、やはり呼吸困難で相当に苦しい思いをした。あの状態を自宅で続けると考えたらゾッとする。患者の心理としては、重症化に怯え、死の恐怖と向きあうことになる。
それでも通院や往診などで治療を受けられるなら未だいいが、そうした体制も取られない。実態は「自宅療養」ならぬ「自宅放置」だ。
政府が、ワクチン接種が進んだので感染や重症化が減るという勝手な妄想が招いた結果だ。
もう一つ、各自治体が発表している新型コロナ患者「確保病床数」が、不正確ではないだろうか。例えば東京都の場合、「確保病床使用率」は50%台であり、数値からすれば未だ余裕がありそうに見える。しかし各医療機関から寄せられている意見としては、「ベッドは空きがあるが、医師や看護師が足りなくて、新たな入院は受け容れられない」という声が多い。大事なのは「ベッド数」ではなく、医療体制を含めた「入院患者の受け入れ可能数」だ。
政府も厚労省も、恐らく数字だけ見て判断しているだろう。そうすると実態から乖離したものになり、楽観的な見方に結び付いた可能性がある。
各自治体は早急に「確保病床数」を「入院受け入れ可能数」に改めるべきだ。

2021/08/03

五輪の後に来る「変異株見本市」

いま行わている東京五輪では、入国したワクチン接種済みの選手や大会関係者の感染発覚が相次いでいる。こうした感染者から持ち込まれたものは、ワクチンによる免疫を回避したウイルスということになる。こうした「ワクチン抵抗株」の流入は、とりわけワクチン接種の遅れている日本にとって脅威となりうる。
7月前半の調査結果によれば、日本の新型コロナウイルスは、アルファ株(英国型)29%で、デルタ株(インド型)64%となっている。WHOが「懸念される変異株(VOC)」として4種類をあげているが、ベータ株(南ア株)とガンマ株(ブラジル株)の二つは日本では流行していない。これは南米やアフリカとの人的交流が少ないことが幸いしたが、五輪ではこれらの地域からも選手が来ている。
二つの株が警戒されるのは、ベータ株の場合は「免疫回避変異」によりワクチンの効果が減衰してしまう。ガンマ株の場合は、変異によって感染力が約5割増強されるという。
この他、いまペルーで流行しているラムダ株がある。5月後半にはペルーの新規感染の97%がラムダ株だった。チリやアルゼンチンといった周辺国にも感染が拡がりつつある。ラムダ株の遺伝子配列が公開されて、10ヶ所以上の変異が確認されている。基礎的検討によれば、この変異によってワクチンの効果は5分の1程度まで低下することが分かった。チリではコロナ感染による死者数が人口100万人あたり5921人で、世界最高だ。
他にもアメリカのニューヨーク株が確認されており、中国の武漢の研究チームも新たな変異株を報告している。
感染拡大で一定の確率で変異は起こり、環境に適した変異が生じると、その変異株は急速に拡大する。
新型コロナウイルスに対する治療薬として「抗体カクテル療法」が注目されていて、厚労省が特例承認した。海外での臨床試験では、入院や死亡のリスクが7割減らしているという。処が、オランダとデンマークでミンクからヒトに感染した変異株は、この治療薬に高度の耐性を示していて、治療薬の効果を無力化しかねない。
東京五輪の危険性は、世界の変異株を一堂に合わせてさらに増強させかねないことだ。
異なるウイルスが混ざり合って、新たな「日本型変異」が起きてもおかしくない。
私たちは、五輪の後は「変異株の見本市」というリスクを覚悟せばななるまい。
(月刊誌「選択」8月号の記事を参考にした)

2021/08/01

都知事失格!

小池百合子東京都知事は7月31日、8月24日に開幕するパラリンピックの観客の扱いについて「新型コロナウイルスの感染状況次第だ。対策をしっかり進めることとつながっている」と述べた。つまり感染状況によっては、有観客にするということだ。都の新型コロナ感染者が4000人を超えて過去最高に達したというのに。小池にとっては感染者が5千人になろうと1万人になろうと、所詮は他人事(ひとごと)なのだ。患者や医療従事者への思いなんてどうでもよく、今は目先の東京オリンピック・パラリンピックの事しか頭にないのだろう。
7月16日の定例記者会見で小池百合子は「この間、むしろお家で、そしてご家族と、オリンピックを楽しんでいただきたい。ということは逆に、このオリンピックの期間中ということを、感染防止のための期間にも結局繋がることにもなる」と語った。オリンピックが感染防止になるという「珍節」を披露したのだ。こういうのを「牽強付会」(自らの都合良く物事をこじつけたり、強引な理屈で自らに都合良く解釈する事)と言う。「カイロ大主席卒業」の経歴が泣くぜ。
かつて小池百合子は、選挙に立候補するたびに所属政党を変え、「政界渡り鳥」の異名を持っていた。その時々の権力者にすりより、力が無くなったと見れば離れてゆく、そういう人生を送ってきた。
最後の止まり木が都知事かと思ったら、どっこいそうではないようだ。それは先の都議選で公示から投票日直前までの間、「寝たフリ」をしていたことで分かる。長期に公務を休んでいたにも拘わらず、病状や治療について一切の説明を避けた。国政に進出する際には自民と公明からの支援が必要なのと、一方で自分が作った都民ファーストに気配りせねばならない。その板挟みの処世術だったとしか思えない。選挙が終わった途端に元気になり、五輪が始まれば主役の一人として振舞っている。
「厚顔無恥」としか言いようがない。
都民のことなどお構いなし、自分ファーストでは、都知事失格だ。

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