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2021/10/12

柳家小三治の俳句

亡くなった柳家小三治の趣味の一つに俳句がある。「東京やなぎ句会」のメンバーで、宗匠の入船亭扇橋(俳号は光石)以下、永六輔(並木橋)、大西信行(獏十)、小沢昭一(変哲)、桂米朝(八十八)、加藤武(阿吽)、柳家小三治(土茶)、矢野誠一(徳三郎)という錚々たる顔ぶれが、毎月17日に句会を開いていた。欠席の場合は代わりに未婚の女性を参加させるという厳しい掟があった。句会40周年を記念した「五・七・五 句旬四十年」という書籍に各人の「自選三十句」が掲載されており、その中の小三治の三十句は、次の通り。
立春や噺家やっとお正月
寒薔薇や鉄の門扉の内に在り
子の数を数え見上げる燕の巣
あらためてまた歩き出す春嵐
種芋の少し芽の出ている風情
天上で柄杓打ち合う甘茶かな
おもひあったことのあるひとと海雲吸ふ
肩ならべ訪ふぶらんこの母校かな
荷風忌や明日から演芸ホールトリ
その奥の闇は動かず夏のれん
とんかつ屋カメラと金魚に凝っている
紫陽花や男同士の遠ざかる
のどによく効くといはれて枇杷の密
打水の女逞し植疱瘡
ごきぶりが音から先にやってくる
硝子戸のむこうへ行きたい雨蛙
雪渓の鉈で割られたる如し
あめんぼう君なら渡れる佐渡島
太るだけ太って短き夏大根
孫帰り風呂場の棚の浮金魚
心太鼻から出でし痛さかな
ほどのよい形にひとつ秋の雲
旧姓に戻りましたと秋めく日
爪の先かくも見事に蝉の殻
テレビ塔4:30の秋茜
鍋料理などつつきたきひとに逢ふ
銭湯を出て肩車冬の月
このところだけ日の差して冬の蝶
風邪声の人空港へ迎え来る
寒雷やちっとも効かぬ強精剤

作品の中のエピソードがいくつか紹介されている。普段は穏やかな宗匠の扇橋が、烈火のごとく怒った句がある。
句会で佐渡島に渡った時に、ジェットホイルという水中翼船に乗船した。今日は船長のサービスということで、ぐるっと円を書いて回って見せた。これを見て小三治が詠んだ句が、
・ここんとここいつも三度っつ回りますとホイル徳
ご存知、落語「船徳」を詠みこんだ句だ。他のメンバーは大笑いだったが、扇橋だけは何故か怒っていた。理由は「不真面目だ」と言うが、小三治としては納得いかなかった。
もう一句、
・旧姓に戻りましたと秋めく日
この時も他のメンバーからは好評だったが、扇橋は顔色を変えて怒り、「何だいこれは、冗談じゃねえよ」「お前はいつもそうだ」と、何か逆鱗に触れたらしいのだが、小三治には理解できなかった。
「何かありゃがったんだな、きっと」と小三治が書いていたが、今頃二人であの時のことを話しあってるかも。

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コメント

Ipodで生きのいい頃の小三治を偲びながら彷徨しています。俳句の紹介ありがとうございました。

投稿: こさんじん | 2021/10/12 22:15

こさんじんさん
小三治は、色紙に書けるような句が一つもないと言って嘆いていました。

投稿: home-9 | 2021/10/13 04:17

寒薔薇や鉄の門扉の内に在り

蕪村風。取合せの妙、見事です。
もしかすると、恋句かもしれません。秘めたる思い。

投稿: 福 | 2021/10/13 06:16

福さん
ご想像通り、叶わぬ恋の句かも知れません。いくつになっても恋心は大切ですから。

投稿: home-9 | 2021/10/13 09:59

私は、次の句が選ばれなかったのが、残念です^^


煮凝りの 身だけ選ってる アメリカ人

投稿: 小言幸兵衛 | 2021/10/13 16:35

小言幸兵衛さん
これなら色紙に書けそうですね。もしかすると、この句も宗匠から怒られましたか。

投稿: home-9 | 2021/10/14 00:59

東京やなぎ句会における、最初の作品で、扇橋はじめ大爆笑だったようです。
なぜ、アメリカ人なのか、熱心に説明したらしいですよ。

投稿: 小言幸兵衛 | 2021/10/14 07:17

小言幸兵衛さん
東京やなぎ句会の第1回目の席題が煮凝だったんですね。なぜかアメリカ人がピタッときます。

投稿: home-9 | 2021/10/14 09:25

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