世界遺産を有難がる時代は終わった
佐渡金山の世界遺産登録をめぐって国会でも質疑にとりあげられていたが、それほどの問題なのかと思ってしまう。
あらためて日本の世界遺産の登録リストを見てみると、17件となっている。他に登録の候補となる暫定リストに佐渡金山を含めて5件。それとは別に、文化庁が文化遺産を公募したところ、各地方から数十件の応募があった。
これだけ拡がってていくと、有難みも薄れる。
世界遺産登録の目的の一つに観光の振興があるが、登録直後は観光客が押し寄せたが、その後は閑古鳥という例もあるらしい。魅力がなければ人は集まらないのは当然のこと。
例えば京都、コロナ以前は世界中から観光客が訪れていたが、仮に京都が登録から外れていても状況は変わらないだろう。
海外のあちこちに行ってみると、「ガッカリ世界遺産」に数多く出会った。説明を受けてもその価値が分からない。
反対に、素晴らしい景観や文化的価値がありながら、世界遺産に登録されていない例も沢山見てきた。
現在、世界遺産に合計1,154件登録されているが、世界遺産条約締約193か国中、1件も登録物件を持たない国が27か国ある。以前の日本もそうだったが、国によっては登録を申請しない方針の所もある。
ドイツのドレスデン・エルベ渓谷は、かつてユネスコの世界遺産に登録されていた。その景観の美しさは勿論のこと、ドレスデンの市街地は第二次世界大戦の末期に、連合軍の空爆により一面瓦礫の山と化した。市民はその瓦礫を集めて組み直し、戦前の街の姿を再建した。この景観には誰しも感動する。
処が、市民の生活のためにエルベ川に橋を1本架けようとしたら、世界遺産を取り消すと言われた。住民投票の結果、市民は世界遺産より橋の建設を支持し、登録は取り消された。私がドレスデンを訪れたのは、世界遺産が取り消された後だったが、大勢の観光客で賑わっていた。登録が削除されても、ドレスデンの歴史もエルベ川の景観も、何も変わっていないからだ。ドレスデン市民の心意気に拍手を送りたいと思う反面、いったい世界遺産って何の意味があるのだろうかという疑問を抱いた。
観光に寄与しようとしまいと、伝統文化を保存し継承してゆく努力はせねばならない。日本には、文化財の保存・活用と、国民の文化的向上を目的とする「文化財保護法」があり、この法律に基づき伝統文化を守っていけば良いのだ。
もうそろそろ、世界遺産を有難がる風潮は見直した方がいい。
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