愛国は儲かる、里見修『言論統制というビジネス』
里見修『言論統制というビジネス』(新潮選書-2021年8月25日初版)
かつて私たちは、戦前の軍部暴走と弾圧で、新聞などメディアは言論統制されてやむを得ず「筆を曲げ」、その誤った情報に国民は騙されていたと聞かされていた。
しかし、実態をみればそれは間違っていて、新聞各紙は戦争を煽って部数を伸ばし、ごく一部を除き国民の大半はこれを熱狂的に迎えていた。時には、国民の熱狂が軍部の方針を曲げる時さえあった。
もちろん、権力による検閲などの言論統制は戦前行われていたが、アジア太平洋戦争の開始と同時にさらに強まっていたのは事実だ。それに応じて、新聞各社は自主統制と称して、自らが積極的に当局に迎合していった。
各紙はこぞって軍への奉仕のため読者から献金を募り、例えば朝日は兵器を献納し、毎日と讀賣は資金を献納した。変わったところでは「軍歌献納」があり、朝日は「父よあなたは強かった」、毎日は「進軍の歌」「露営の歌」など、讀賣は「空の勇士を讃える歌」をそれぞれ献納している。これに倣って全国の地方各紙も競って献納運動を展開した。
戦争のプロパガンダには映像が大きな役割を果たすと考えた新聞各社は、時事映画を製作、上映して日本軍の活躍を報じた。大手は自社で飛行機を持ち、特派員を派遣した。この一部の情報は軍に提供されていた。しかし、戦局が不利になってくると、軍部としては各社バラバラの取材は好ましくないとして、大手新聞4社が共同して「日本ニュース映画社」を設立する。映画館ではこのニュース映画を必ず上映することが義務づけられ、また国民の間でも好評だった。戦後もしばらく、劇映画の前に必ずニュース映画が上映されていたのは、この名残りだ。
1938年には「国家総動員法」が制定され、これに対応した言論統制機関として「内閣情報局」が設立されるが、この総裁として朝日の副社長である緒方竹虎と下村宏が、毎日の久富達夫が次長に、讀賣社長の正力松太郎が参与にそれぞれ就任している。
さらに、同盟通信の古野伊之助は、乱立していた各地方紙を大合併させ、1県1紙の体制を作った。
これらによって新聞各紙は部数を飛躍的に伸ばし(特に讀賣が顕著だった)、経営が安定した。文字通りの「焼け太り」だ。
敗戦後に、新聞社の幹部の一部は責任をとわれ戦犯として訴追されたが、いずれも短期で釈放されている。戦後の占領期には、戦前より厳しいといわれたGHQの検閲を受け入れ、今に至る。
戦前から温存された体制に「記者クラブ」があり、口を空けて待っていれば自動的に政府から情報が提供される。これにより、政府と新聞との「持ちつ持たれつ」の関係が維持されている。
私たちは、新聞を含むメディアの自主規制が今でも続いていることを頭に置く必要があるだろう。
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