メルケルvs.プーチン
月刊誌『選択』5月号では、二人の女性をとりあげている。一人はドイツの前首相メルケルで、もう一人はベアテ・シロタ・ゴードン。今回はメルケルについて、主にロシアのプーチンがクリミアに侵攻した際に、彼女がどのような行動を取ったかを記す。
メルケルは1954年生まれで、プーチンは1952年生まれ、共に東独とソ連という同じ共産主義体制のもとで数十年生活していたことになる。
ソ連崩壊後に、メルケルは監視社会の消滅と自由を喜び、民主主義の価値観を共有する体制を目指した。
一方のプーチンは、ソ連崩壊を屈辱と感じ、威信を取り戻す行動に出る。
かつて社会主義で生育し、今は資本主義のもとにいる人にどちらの体制が良かったかを訊くと、ある割合で昔の方が良かったと答える人がいる。同じような状況に置かれても、思いは様々だ。
二人の私生活もまた対照的で、メルケルは4階だての賃貸マンションの一室に住み、自分でスーパーに買い物に行っていた。対するプーチンは世界有数の金持ちで、豪華な秘密の宮殿に住んでいる。
メルケルは首相就任いらい、定期的にプーチンと会談してきた。被害妄想で嘘つきのプーチンの愚痴を辛抱強く聞き、「他の国は物事をそんなふうに見ていない。これはあなたにとって得策じゃない」と諫めた。
プーチンは西側諸国の首脳の中で、メルケル一人だけ敬意を表していたという。
2014年のロシアによるウクライナ侵攻が始まると、メルケルは毎日のようにプーチンと連絡を取り、38回の会談を重ねた。プーチンは例のごとく山のような嘘をまき散らし、ウクライナのファッシストがクリミア在住のロシア人の脅威になっているとか、クリミア在住のロシア人が介入を求めてきたと言い募った。クリミアの議会や空港をロシア軍が制圧しているといえば、あれはロシア兵ではない、軍服は誰でも買えると言い逃れする。
まさに、「ああ言えばプーチン」だ。
嘘を言い続ける男をどうすればいいのか分からないと嘆きつつ、メルケルは辛抱強く交渉を続けた。
2014年9月、二人はウクライナの今後について協議した。時には15時間ぶっ通しで向かいあい、出てくる食事が肉料理かジャムを添えたパンかによって今の時間が分かるというほど、根を詰めた会談だった。
国家の勢力圏だの歴史的怨念だのを問題にするプーチンに対して、メルケルはそれよりウクライナ人のことが問題であり、人々のための平和を実現すべきと主張した。「我々の議論の結果がうまくいくかどうかは分からない。でも試してみる価値はある。ウクライナの人々のために、我々にはそうした義務がある」と。
そしてようやく、プーチンは停戦合意に署名した。
しかし、プーチンはメルケルの退陣を見計うようにウクライナ侵略を始めた。
メルケルに替ってプーチンを説得できる西側首脳は誰もいない。
ウクライナの不幸は終わりが見えない。
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>>今は資本主義のもとにいる人にどちらの体制が良かったかを訊くと、ある割合で昔の方が良かったと答える人がいる。
北朝鮮から脱北して南側(韓国)に移り住んだ人の中にも同意見(?)の方がいるのを聞いたことがあります。
>>メルケルは4階建て賃貸マンションに住み、プーチンは世界有数の金持ちで、豪華な秘密の宮殿に住んでいる。
共産主義社会は「万民平等」を標榜しているように教わりましたが、共産党独裁体制内で生きて来たプーチンが豪邸に住み、ロシア国内各地に別荘を持っているのは、俄かに信じ難い気がします。もっとも日本国内の左の人も豪邸や別荘でブルジョア生活を謳歌しているように聞きますが…。
私には、ナチスを目の仇にしているプーチン氏こそ正しくヒットラーの再来と見えますが…。
投稿: 与太 | 2022/05/27 18:01
与太さん
私も疑問に思って訊いてみたんですが、共産主義を外から見たのと中から見たのとは違うんだと言われました。プーチンは明らかにスターリンを目指しています。
投稿: home-9 | 2022/05/27 21:05