防衛費の議論は逆さまだ
安倍元首相の発言をきっかけに「防衛費倍増」の議論が活発化している。岸田首相が前のめりになっているし、維新の会は参院選の公約に掲げるようだ。今国会でも需要なテーマとして、かなりの時間をかけて議論されていた。
しかし、焦点がもっぱら防衛費倍増というカネの問題に当てられていた。本来、カネは最後に出てくるものだ。
大事なのは「ヒト・モノ・カネ」であり、この前提条件を決めるのが先決だ。
先ず「モノ」、現在の自衛隊の装備のどの部分が不足していて、それを補うためには、どの装備をどの程度強化するのか、どういう装備を新設するのかを明らかにせねばならない。
その結果を受けて概算の積算を行い、必要とされる費用を算出する。
この部分がスッポリ抜けているので、国会での議論が空回りしている。
次に「ヒト」、現在の自衛隊では慢性的な定員割れが続いている。自衛隊の定員は247154名に対し、人員は227442名で、充足率は92.0%だ。一番下の階級である「士」に至っては、充足率は77%とかなり低い(データはいずれも、2020年3月現在)。
いくら立派な装備を得ても、それを動かすヒトがいなければ画に描いた餅だ。
防衛費を倍増した場合、どの程度の人員が必要となるかを想定せねばならない。仮に、装備を倍増した場合、人員も倍増するとしたら、自衛隊員を新たに約25万人増員せねばならない。
日本では働き手、特に若年労働層が減り続けているなかで、これだけの人数を市場からどう抽出するのかは大きな課題だ。
従来通りの志願制にするのか、新たに徴兵制を敷くのか、この辺りも検討せねばならないだろう。
こうして、ヒトとモノが明らかになってはじめて、カネ、防衛費が決められる。それが現在の防衛費に対して、どのくらい増額されるのかを示すべきなのだ。
最後に、財源をどう確保するのかが残っている。まさか、全部借金でなんて冗談でしょ。
しかし、岸田政権にしても維新にしても、こうした前提条件を予め検討しているとは思えない。これでは無責任の誹りは免れない。
本日の東京新聞に、岩屋毅元防衛大臣が防衛費に関して「最初に金額目標を掲げるやり方は適切でない」、「最初に金額目標があり、そこに届くまでどんどん買い足していくようなやり方は、日本の防衛力整備のあり方として相応しくない」と語っている。
私の見解と同様である。
自民党にも、まともな人がいるんだね。
« 「ウクライナ戦争」フタを開ければ米国の一人勝ち | トップページ | 「風俗」が最後のセーフティーネットという現実 »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 左翼の退潮とポピュリズムの台頭(2023.04.15)
- ウクライナ戦争と「反撃能力」(2023.04.06)
- 今のロシアはかつての日本と重なる(2023.02.25)
- 台湾というリスク(2023.02.04)
- 「首相長男の公用車観光」は日本の構造上の問題(2023.01.31)
« 「ウクライナ戦争」フタを開ければ米国の一人勝ち | トップページ | 「風俗」が最後のセーフティーネットという現実 »
コメント