拉致問題の解決と田中均への仕打ち
北朝鮮が拉致を認めた2002年の日朝首脳会談から17日で20年を迎える。しかしこの間、拉致問題の解決には1㎜も動いていない。
2022年に北朝鮮の金正日は、小泉首相に対し、特殊機関の一部が日本人を拉致した事実を認め、謝罪した。
家族の帰国は地村家と蓮池家の家族5人と曽我ひとみの帰国が認められ、「死亡」・「不明」の10人について、北朝鮮側が再調査を約束した。
このお膳立てをしたのは、当時外務省アジア太平州局長や外務審議官を務めた田中均だ。
田中は、日朝首脳会談を実現させ、拉致被害者の帰国に導いたことが高く評価された。
他方で、蓮池夫妻、地村夫妻、曽我氏が帰国した際、北朝鮮側とは当初5人を再度北朝鮮へ帰国させる交渉内容であったことを官邸で言及したことが取り沙汰されたり、日朝平壌宣言の文言に拉致問題に関する具体的な言及がなかったことで、日朝国交正常化を優先し拉致被害者問題を軽視したとの批判が出た。
拉致被害者家族会からも、調査は不十分と言う批判が行われた。
2003年9月、「建国義勇軍国賊征伐隊」を名乗る右翼団体によって、自宅ガレージに爆発物が仕掛けられる事件が発生。この事件に対し、石原慎太郎東京都都知事は「爆弾を仕掛けられて、当ったり前の話だ」とコメントした。
田中はすっかり悪者になってしまい、その後外務省を退官する。
この「石もて追われるごとく」扱われる田中を見て、これから拉致問題の解決のために泥をかぶっても北朝鮮と交渉する官僚は出て来ないだろうと思ったが、その通りとなったようだ。
外交交渉というのは、片側にとって満点ということはあり得ない。
田中としては、交渉をまとめるためには相手に譲歩したりオイシイ話を持ち掛けたりと、あの手この手で譲歩を引き出したに違いない。
それを後から咎められ、「爆弾を仕掛けられて、当ったり前の話だ」とまで言われたら、誰も手を出さなくなる。
田中は、互いに国益のために意見を出し合い議論をし意見が対立しながらも最良の結論を探し出すこと、政治から叱責されることは官僚として国益を守るための当然の仕事と考えていたそうだが、こうした腰の据わった官僚が出現しないかぎり、拉致問題解決の道は拓けない。
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