「銃撃事件」容疑者には厳罰を
安倍元首相を銃撃により死亡させた山上徹也容疑者について、政治テロではなく私怨による犯行だという声や、減刑嘆願(未だ起訴も決まっていないのに)の署名活動が行われていたり、一部には英雄視するのもいるようだ。
また、この事件をきっかけに旧統一教会と政治との癒着が明らかになり、パンドラの匣を空けたとい評価もする向きもある。
しかし、銃撃という暴力により現役の国会議員の命を奪ったという事実は重く、民主主義の根幹問題として強く非難されねばならない。
容疑者が自分の家庭を破壊されたのが旧統一教会のせいであり、その組織と繋がっているという理由で安倍をターゲットにしているから、これは明らかな政治テロといえる。
山上容疑者を擁護する声には、二つの理由がある。
①統一教会の信者である母親が多額な金を協会に寄付し続けたために、家庭が崩壊し、容疑者の人生も大きく狂わされたこと。
②容疑者が以前に書き込んだコメントに「我、一命を賭して全ての統一教会に関わる者の解放者とならん」とある。そこに純粋な犯行動機が伺える。
①の容疑者の身の上については確かに同情すべき点はある。しかし、そうした事情があるからと言って、犯行を合理化することはできない。
②の「動機が純粋」というのは曲者なのだ。
戦前の日本において、昭和5年からおよそ10年間、政府首脳など多くの要人がテロによって暗殺された。ところが世間は犯人の純粋な動機に引き込まれ、減刑嘆願運動が起きて、やがて彼らを英雄視するようになる。
こうした雰囲気の中でテロが次のテロを呼び、最後は政党政治が崩壊するに至る。さらに軍部のクーデターを経て、日本全体が軍国主義に進んでいった。
政治が暴力によってゆがめられることを起こさないためにも、司法には今回の容疑者に対して厳しい姿勢が求められる。
注意せねばならないのは、時にテロは動機とは正反対の結果になることがある。
1909年10月26日、韓国統監を辞任したばかりの伊藤博文がハルビン駅で朝鮮人の安重根に暗殺されるが(異説あり)、伊藤は日本政府による朝鮮併合には反対だった。理由は、併合すれば日本が朝鮮王朝を終わらせることになり朝鮮人から恨みをかうのと、不毛な荒廃地を併合しても日本の利益にならないとしていた。しかし、国内の併合論が勢いを増すと伊藤も受け容れるようになってゆく。
銃撃を受けた伊藤は、死の間際に自分を撃ったのが朝鮮人と聞き、「俺を撃ったりして、馬鹿な奴だ」と呟いたといわれる。
伊藤の死によって日本による朝鮮併合が一気に加速してゆく。
犯人の安重根は今でも韓国では英雄視されているようだが、客観的にみれば彼の行為は韓国に不利益をもたらす結果となった。
政治テロにはこうしたリスクも伴うことがある。
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