正しい社会って何だろう?
桐野夏生『日没』は恐ろしい小説だ。近未来のデストピアともいうべき状況を描いたもので、読者から正しくないと批判の声が寄せられた作家が、国家によって矯正施設に送られ、正しい小説を書けるよう思想改造が行われるというもの。
施設の長が言うのには、ヘイトが法律で禁止されているのだから、間違った考え方を主張するような作品を書く作家に反省を求め、正しい作品を書くよう導くのは当然だと。それはまた読者が望んでいることでもあると。
一見するとロシアや中国で行われている検閲や思想改造に似ているが、あちらは専ら国家の利益に反するかどうかが問題とされているのに対し、『日没』は一般読者の声に基づいている点に基本的な違いがある。つまり民主主義に基づいているわけだ。
まあ日本でこんな事が起きるなんて有り得ないと思う反面、昨今の特にネットの言論での「正しい主張」の蔓延には辟易とすることがある。
先日、ある大学教授の授業中の発言が問題となり、大学に抗議が寄せられたことがあった。学生の一人が問題にしたものだ。教員が授業中にちょっとした話題を挟むことはよくあることで、その教授は「今後は機微に触れる話はできない」と語っていた。
何だか、みんなで寄って集って不自由な社会を作り上げているような気がするのだが。
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