邦画「戦争と平和」の主題歌「流亡の曲」について
何かの拍子にふと口ずさんでしまう唄というのがある。
数十年前に「歌声喫茶」かなにかで唄ったことがあり、歌詞がうろ覚えだったのでネットで検索していたら、「流亡の曲」というタイトルだったことが分かった。
歌詞は次の通り。
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「流亡の曲」
作詩:作者不詳
作曲:飯田信夫
1
美しい山 なつかしい河
追われ追われて 果てしなき旅よ
道づれは涙 幸せはない
国の外にも 国のなかにも
2
故郷はどこ 父母はどこ
国は盗まれ 身寄りは殺され
さすらい流れて 行く先もない
国の外にも 国のなかにも
3
喜びの日を 宝の土地を
踏みにじる足 飢えと苦しみは
何日の日か終えん 怒りは震う
国の外にも 国のなかにも
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この歌が「戦争と平和」という邦画の主題歌であることは知っていたが、戦時中の日本の光景を描いたにしては、歌詞の内容がピンとこないとずっと思っていた。
また、戦後の歌謡曲で敗戦時の日本の状況を歌詞にしたものは皆無だったと思われ、その意味でも違和感があった。
その謎が解けたのは、「ケペル先生のブログ」の中の“憲法第九条「戦争放棄」の映画”という記事に行きついたからだ。
以下は、当該記事からの引用。
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憲法第九条「戦争放棄」の映画
昭和21年11月に公布された日本国憲法を記念し、その第9条「戦争放棄」をテーマに、当時日本映画の民主化の先頭に立っていた東宝砧撮影所の映画人が、その総意を結集して製作した画期的な反戦映画「戦争と平和」(昭和22年、東宝)。監督・亀井文夫、山本薩夫、出演・伊豆肇、池辺良、岸旗江、大久保翼、谷間小百合、菅井一郎、立花満枝。キネマ旬報ベストテンの第2位。
美しい山 なつかしい川
追われ追われて果てしなき旅よ
道づれは涙 幸せはない
国の外にも 国の中にも
荒廃した中国の街角で盲目の娘が歌う「流亡曲」が流れる。大陸を放浪する健一(伊豆肇)は中国民衆の姿を目撃し、自分が一兵士として参加した侵略戦争の罪業の深さに胸をつかれる。健一の乗っていた輸送船が撃沈され、中国人に助けられ、そのまま中国軍に加わり、敗戦で復員する。東京は焦土と化していた。ようやくたずね当てた妻町子(岸旗江)は、負傷して帰国していた戦友康吉(池辺良)と結婚していた。健一は盛り場でかつての上官(菅井一郎)と出会う。彼は闇成金で大儲けしていた。「要するに戦争で損をする奴も多いが、大いに儲ける者もあるというわけだ。人間が欲望に支配されている限り、戦争を本当に止める力なんかどこにもありゃせんぞ」と。映画はここで終わるが、シナリオには次のシーンが続き、実際に撮影もされていた。
街。食糧デモ。その人々の足、足、足。路傍に立って見ている健一。その勢いにのまれるように思わず列にならんで歩き出す。いつの間にか、その列にまきこまれ、デモの一人と腕を組んで行く健一。デモの人々の顔。顔。顔。労働者の大デモ。整然たるその行進。高らかに空にひびく労働歌の合唱。
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そうか、この歌は中国の人が歌っていたという設定だったのか。それなら歌詞の意味が分かる。
この映画は、加害者側から中国を描いた稀有な作品といえよう。
この歳になって初めて分かることもあるんだね。
最後のシーンは恐らくカットされて上映されなかったのだろう。それは当局からの圧力だったのか忖度だったのかは分からないけど。
でも、監督が本当に言いたかったことはその最終シーンだった様に思う。
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