スポーツ

2018/09/26

貴乃花問題と「ムラ社会」

相撲協会に退職届を出した貴乃花親方が9月25日に会見を開いた。
貴乃花が今回の事態に追い込まれた理由として、貴ノ岩への暴行問題の告発状に関し協会側から事実無根との見解が示され、これを認めねば廃業に追い込まれるという圧力があったと主張している。
相撲協会側はこれを否定しているが(公式に認める筈がない)、事実しては協会が貴乃花を追い出したくて色々と画策してきたことは否定できまい。

相撲協会は典型的なムラ社会だ。
ムラ社会は所属する人間に「同質」を求め、「異質」を排除する。
相撲協会にとっては貴乃花は異質の存在だった。だから村八分にされ、最後は追い出されたというのが今回の経緯だ。
ムラ社会にとって大切なことは村の「掟(おきて)」を守ることだ。
掟はしばしば法令より優先される。
貴乃花が提出した告発状は、その内容が正しいかどうかにかかわらずムラの掟に反するものだった。
掟を無視し異質な行動をとり続けたという理由だけで、貴乃花はムラから排除されたのである。

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2018/01/05

相撲協会はいっそ「公益法人」なんて返上したら

新年早々恐縮だが、税金のはなし。

2015年度 15万円
2016年度 15万円
2017年度 15万円(見込み)
(万円未満は四捨五入)
上の金額は、相撲協会が年間に納入した税金だ(月刊誌『選択』2018年No.1).。
一方、相撲協会の売上高は次の通り。
2015年度 115億円
2016年度 120億円
2017年度 110億円(予算)
(億円未満は四捨五入)

110億円以上の売り上げで、2016年度で7億円を上回る利益をを上げている法人が、なぜ実質無税に近い扱いで済んでいるのか、そのカラクリは相撲協会が公益法人であるからだ。
公益法人の場合、公益目的の事業は非課税だ。

では、なぜ相撲協会が公益法人なのかというと、
・太古より五穀豊穣を祈って執り行われる神事を起源とし
・我が国固有の国技であることを考慮し
・「大相撲」はこうした神事や伝統の「一般公開」であると位置づけ
・それ自体が「公益目的事業」とされる
というのが理由である。
ヘ~、知らなかったなぁ。

大相撲が神事や伝統の一般公開とは笑わせる。
あれはどう見ても格闘技の一種で、他のプロスポーツと同様の単なる「興行」にすぎない。
名目と実態とがあまりに離れすぎている。
仮に「神事や伝統の一般公開」なら、なぜNHKから年間30億円もの放映権料をふんだくってるんだろう。その原資は私たちから強制徴収している受信料だ。
公益法人なら公共放送から金を取るのはおかしい。
公益法人なら、暴力団とは完全に縁を切るべきだ。

それがイヤなら、さっさと公益法人なんて返上して税金も納めることだ。
そうすりゃ、どこやらの家元のオバちゃんから、ガタガタ言われるなくても済むぜ。

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2017/12/02

「公益法人」と聞いて呆れる大相撲

「相撲が国技だって、オレ呆れけぇっちゃたよ。確かに国技館でやってるから国技なんだろうが。
もし大相撲が国技って言うんだったらだな、本場所と本場所の間には力士たちが全国の学校だの会社だのを回ってだよ、(相撲の)指導だの何だのしてるんなら、そりゃ国技だと認めてやってもいいよ。
けど、奴らがそんなことしてるのを聞いたことがねぇ。
たまに来るのは、祝儀が欲しい時だけだ。」
以上は、立川談志が演じた『相撲風景』という落語のマクラ部分だ。

子どもの頃、母親は「相撲取りは男芸者」と言っていた。
地方巡業ともなれば、その地元の興行師が巡業を仕切っていたが、多くはヤクザだった。
もしかすると、今でも実態は変わらないかも知れない。
相撲取りの贔屓、いわゆるタニマチだが、そのスジの人もいるだろう。
力士や親方と暴力団との関係がたびたび噂されるのも、そうした土壌があるからだ。

私は小学生の時から大相撲が大好きで、ラジオの実況放送は欠かさず聴いていた。親にねだって相撲雑誌も買っていた。
今でも、大相撲のTV中継は在宅している限り必ず観ているし、本場所も何度か観戦している。
だから、相撲ファンと言っていいだろう。

相撲協会といっても実態は部屋の親方、一門の連合体だ。
協会の理事は、それぞれの一門からの代表者で構成されている。だから一門の利益代表でもあるわけだ。協会の役員が相撲茶屋の利権に絡んでいるとの噂が絶えない。
力士が引退して親方になるためには、親方株を取得せねばならないが、億単位の金が動くとされている。

大相撲を純粋なスポーツと思ったら大間違いだ。
審判役である行司は各相撲部屋に所属しているが、そんなスポーツは他にない。
他に勝負審判が土俵下で眼を光らせているではないかという反論もあろうが、これとて部屋の親方衆が勤めている。
プロ野球でいえば、各球団の監督が試合の審判をしているようなもので、到底純粋なスポーツとは言えない。
大相撲はショーでもある。
ショーというと否定的に取る人もいるだろうが、どのショーだって演者はみな真剣に取り組んでいる。
力士たちだって、少なくとも本場所は真剣勝負している。

私はそうした「いかがわしさ」を含めて大相撲が大好きなのだ。
だから、昨今の暴力事件だの横綱の引退騒動だのを冷ややかに見ている。
まあ、あの程度のことはあるでしょう。
あんまり相撲にクリーンなものを求めてはいけない。
「公益法人」なんてガラじゃないのだ。さっさと「公益」を返上した方がいい。

大相撲に不満があるとすれば、マス席の値段が高すぎること。それも要りもしないお土産だの飲み物だのが勝手に付けられ、高くなっている。
そんな余計なものを取り払って、一人1万円程度にすれば、もっと多くの人が観戦できると思う。

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2017/10/03

阪神タイガースに清宮は要らない

今年の阪神タイガースの2位が確定した。
シーズン前に阪神が優勝するカギとして
・センターラインの固定化
・鳥谷の復活
をあげたが、この2点は何とかクリアーできたのが大きい。
最大の誤算は藤浪投手と高山外野手の低迷だ。
藤浪には名実ともにチームのエースとして最低2桁、出来れば15勝を期待していた。
昨年の新人王である高山は、今年は打率3割、本塁打20本以上が期待されていた。
処がフタを開けてみると藤浪はまともにストライクが入らない四死球病で、試合に出ては大量失点して2軍落ちを繰り返し、最後までローテに加わることさえ出来なかった。
高山もシーズン途中から2軍暮しが続き、これまた精彩を欠いままシーズンを終わらせた。
この二人が期待に応えた活躍をしてくれていたら、優勝の可能性は十分にあったと思う。
それでも何とか2位になれたのは、中継ぎ、抑えの投手陣の頑張りだった。
それに上本や俊介、大和といった中堅選手の活躍も大きかった。

さて、今シーズンオフのドラフトの目玉とされる清宮幸太郎だが、阪神もいち早くドラフト1位の指名に名乗りを上げた。
しかし、今の阪神に清宮幸太郎は本当に必要な選手なんだろうか。
高校通算本塁打111本の史上最多記録保持者ではあるが、高校野球の公式戦に限った通算成績は、70試合出場で29本塁打だ。それもほとんどが地区大会の予選での成績だ。
チームは清宮のホームランバッターとしての素質に期待しているようだが、プロはそれほど甘くない。
あの王貞治でさえ打撃が開花したのは入団4年目からで、しかも荒川という名コーチの熱血指導があったからだ。

最大の問題は守備だ。どうやら清宮は一塁しか守れないようだ。
一塁しか守れない選手を、今の阪神が果たして必要だろうか。
一塁手は今でも余っている。一塁手はどの選手でもある程度出来るポジションであることは、阪神ファンならかつての遠山・葛西スペシャルで先刻ご存知だろう。相手打者によって遠山が投げる時は葛西投手が一塁へ、葛西が投げる時は遠山投手が交代で一塁を守った。
他のポジションの選手がファーストを守ることがあるし、補強した外国人選手にとってファーストが指定席になるケースが多い。
今シーズンも後半は、途中加入の外国人選手ロジャースが一塁に入り、そうでない時は中谷外野手や新人の大山三塁手がファーストを守っていた。開幕スタメンだった原口は2軍落ちしている。
今後も福留などベテラン選手が状態によってファーストを守る機会が増えるだろう。
更に、今シーズンオフのFAで、日本ハムの中田一塁手を獲得する構想がある。
そんなに一塁手ばかり集めてどうするつもりだろう。

広島がチームにあわないといって清宮獲りから外れたが、賢明だと思う。
阪神もどういうチームにしてゆくのかを先ず考え、その構想に従ってドラフト戦略を立てるべきなのだ。
清宮の人気は魅力かもしれないが、元々人気チームである阪神にとってはさほど大きな効果は期待できまい。
清宮はDH制のあるパ・リーグが相応しいと思うし、セ・リーグなら観客動員が低迷している中日に入団して貰った方が、本人のためにもチームのためにもベターだと思うのだが。

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2017/03/27

「照ノ富士」の健闘にも拍手

今朝の新聞は稀勢の里の優勝一色だ。無理もない。ファン待望の日本出身の横綱が誕生し、しかも新横綱として22年ぶりとなる優勝だ。
13日目の日馬富士戦に敗れた時に負傷し、ケガをおしての強行出場。誰もが無理と思っていたところを逆転優勝したのだから、感動した人も多かったろう。
その陰で忘れられそうになった大関照ノ富士、最後はヒール役になってしまった感があるが、今場所を振り返れば彼の活躍が土俵を最後まで盛り上げてくれたのは間違いない。

照ノ富士は大関に昇進した当時は、いつ横綱になってもおかしくないと思われていた逸材だった。
ところが2015年秋場所、単独トップで迎えた13日目に稀勢の里に寄り倒しで敗れ、その際に右膝靱帯・半月板などを損傷する重傷を負った。その後、強行出場して連敗するが千秋楽で横綱鶴竜に勝ち、優勝決定戦へもつれ込んだ。決定戦では鶴竜に敗れ優勝を逃した。今場所の稀勢の里と似たようなケースだったわけだ。
次の場所からも休場することなく土俵をつとめたが、無理がたたって古傷の左膝を痛めたり、右鎖骨骨折の重傷を負うなどケガに悩まされ続けた。
ここ数場所は2桁大敗と、かど番8勝勝ち越しの繰り返し、「怪物」と呼ばれた面影を失くしていた。

照ノ富士の今場所の成績は13勝2敗の準優勝、2桁勝利はなんと9場所ぶりとなる。
13日目に日馬富士が稀勢の里を破り単独トップに立った。おそらくは兄弟子の応援と受け止めただろう。
ただ、終盤になってきて膝の状態は悪化しており、残り2日間をどう闘うかを悩んだに違いない。
14日目は大関に返り咲きを狙っていた琴奨菊との一番では、変化して勝った。このことで叩かれたが、変化は作戦の一つだ。稀勢の里も千秋楽の本割では変化していた。
この一番で、照ノ富士は立ち合いで相手につっかけた。これを見て、つっかけはフェントで、これは変化するなと思っていたら、その通りとなった。素人の私でも予想できたのだから、相手の琴奨菊だって頭に入れておくべきだった。
非難の声が強かったが、私は照ノ富士の優勝への執念を感じた。

千秋楽、相手の稀勢の里は負傷をおしての出場で、周囲を9分通り照ノ富士の優勝を予想していた。
本人としては、勝って当たり前というのは相当なプレッシャーだったに違いない。しかも、勝っても誰も称賛してくれない、そんな状況は辛い。
本割の最初の立ち合いで稀勢の里は右に変化した。照ノ富士はこの変化は頭にあったようで対応して四つに組んだ。そこで行司待ったがかかった。立ち合いが合わず不成立という判断だったようだ。私は、ここに勝負のアヤがあったように思う。
2回目の立ち合いでは稀勢の里は左に変化し、照ノ富士が寄り立ててくる所を右から突き落とした。この時、照ノ富士が膝からガクッと落ちるのを見て、そうとう膝が悪いのだろうと思った。
優勝決定戦で照ノ富士はもろ差しになって寄り立てが、土俵際で稀勢の里が右手で小手投げを打ち勝った。本来は照ノ富士は相手のまわしを引き付けて体を寄せて寄っていけば確実に勝てただろうが、勝負を焦って墓穴をほってしまった。

勝負が終わって照ノ富士、記者から相手は手負いの新横綱、やりづらさを問われると、「特にない。自分の問題です」と首を振り、「みんな目に見えないつらさがある。それを表に出すか、出さないかだけ」と語った。自身も古傷の両膝の状態が思わしくなかったのだ。
「ま、来場所頑張るだけです」と。最後は取組ですりむいた右膝を指さし、「やっと目に見えるけがになりましたね。目に見えることしか、やっぱり分からないね」と、笑顔で場所を後にしたとある。

両膝のケガと戦いながら場所をつとめる照ノ富士。今場所の成績が復活の足掛かりとなるか、来場所からの更なる活躍を期待しよう。

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2016/10/14

今年の阪神は「御の字」だ

プロ野球もレギュラーシーズンが終了し、阪神タイガースは64勝76敗3分で勝率.457のリーグ第4位に終わった。
打率などの打撃成績が軒並み最低レベルだったから、この成績はやむをえまい。反面、防御率はリーグ2位、失点は3位だったので投手陣はそれなりに頑張ったといえる。
Bクラスになったということでガッカリしているファンも多いだろうし、フロントや監督の采配に批判の声もあるようだ。
私はシーズン前から今年はBクラスを予想していたので、結果は想定内だった。
今季の阪神のスローガンは「超変革」だった。若手を積極的に記用し競争力を高め、チームを大きく変えようということだから、当然リスクは伴う。その点は私たちファンも覚悟は要る。

今シーズン、一番目についたのは新人の活躍だった。
2015年ドラフトでは、高山、坂本、竹安、望月、青柳、板山の6人の新人が入団したが、そのうちリハビリ中の竹安(入団当初から予定されていた)の一人を除き、他の5人全員が一軍の試合に出場した。
若手を積極的に使うという金本監督の方針があったにせよ、一軍に出られるだけの力をつけていたのは間違いない。
なかでも高山はレギュラーに定着、青柳は後半で先発ローテの一員として活躍した。
他には、昨年まではほとんど実績のなかった野手で、原口、北條が100試合以上に出場。原口は育成から一気に這い上がってきたし、北条はドラフトの失敗とまで陰口をささやかれてきた中で努力が実を結んだものだ。
投手では岩貞が10勝をクリアし、島本、横山がプロ初勝利をマーク。守屋、田面も初登板を果たした。
ただ、江越、横田、陽川が期待に応えられなかった。
若手が育たなかったというチーム状況は、「超」はともかく「変革」へ踏み出したこの1年だった。

こうした若手の活躍もベテランや中堅の不振の裏返しともいえる。
西岡のケガはもはや年中行事化しているし、中心選手の鳥谷の不振が痛かった。藤浪も期待外れの成績に終わった。
投手では岩田、野手では上本、新井、今成、俊介の不振が目立った。
来季は若手のいっそうの底上げと同時に、ベテランや中堅の巻き返しを期待したい。

今年BクラスになったということでチームにFAの大物を獲得する動きがあるが、ここはしばらく辛抱してでも、永年の宿願である自前の選手を育てあげるべきだろう。
中途半端な手法では、また元へ戻ってしまうのは目に見えている。
ファンも長い目で見てあげよう。

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2016/08/22

オリンピック雑感

2016年のリオ五輪が閉幕した。プロ野球と大相撲以外のスポーツにはそれほど関心がないので、TVでダイジェストのシーンを見る程度だった。
家族からはシラケテルという批判もあるが、その通りかもしれない。
いくつか感じたことを書いてみる。

最も印象に残ったのは、トラックの400mリレーだった。日本選手の銀メダルは誰もが予想できなかっただろう。チームの力が個人記録の足し算ではなかったことは、スポーツ以外の分野でも教訓になる。
早く走れた者、高くor遠くに跳んだ者で勝敗が決まるというスポーツはいい。潔いし、これぞスポーツだ。
点数だのポイントだので勝ち負けを決める採点競技なんてぇのは、まだるっこしくていけない。

オリンピックを国威発揚に利用する傾向が年々高まっているように見える。ナチスじゃあんめぇし。国歌を声を出して歌えなんて命令はその典型だ。
競技をするのは選手であり、国家ではない。
メダルを獲得して称賛されるべきは選手個人やチームであり、それを支えてきたスタッフたちだ。
国威発揚の行き着く先は国家ぐるみのドーピングだ。
勝利した選手たちが国旗を背負って歩く姿がすっかりお馴染みになったが、長いオリンピックの歴史の中では最近の傾向らしい。
どうもイヤな感じなのだ。

破れた選手や、成績の振るわなかった選手が謝罪する場面を度々目にしたが、あれは誰に対して謝っているんだろう。国にか?
負けたら謝らなくちゃいけないなら、阪神なんざぁ1年中頭を下げっぱなしになっちまう。「今度の監督は謝りっぷりがいいから、来年も続投か」なんてね。
気持ちだの気力だのというが、相手だって必死なのだ。
謝らずに前向きな発言をしたり、敗因を冷静に述べたりすると、ネットなどでバッシングされると聞く。まるで集団リンチだ。一部の人間の憂さ晴らしの標的にされる選手はかわいそうだ。

次のオリンピックは東京になるようだが、前回の東京五輪の後のオリンピック不況を経験してるので、いいイメージを持っていない。
オリンピック成功のためという錦の御旗の元で、国や地方自治体が大盤振る舞いをしてしまう。その反動が五輪が終わってからどーんと来て、そのツケは国民が負うことになる。
次のオリンピックに向けての予算の膨張は、既にそのことを予告している。
動く金が巨額になればなるほど、甘い汁を吸う人間には好都合なのだ。
国民がよほど監視の目を強めていかないと、とんでもないことになる。

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2016/07/23

【書評】「兵隊になった沢村栄治」

山際康之「兵隊になった沢村栄治-戦時下職業野球連盟の偽装工作」 (ちくま新書 2016/6/10初版)
本書は、戦前のプロ野球連盟が戦時下をどう切り抜けてきたかを中心に書かれている。同時に沢村栄治を始めとして多くのプロ野球創成期を担った名選手たちが、徴兵により戦地に行かされ命を奪われてゆく姿も描かれている。
日本でプロ野球がスタートするきっかけになったのは昭和9年11月20日の日米野球で、17歳の沢村投手がベーブ・ルースやルー・ゲーリッグといったアメリカのスター選手を集めて来日した全米チーム相手に、あわや完封かと思われた快投を行ったことに始まる。試合はゲーリッグのホームランにより1:0で日本チームが破れるが、スクールボーイ・サワムラの名前は全米を駆け巡った。
この結果が日本にも職業野球をいう機運を一気に盛り上げ、昭和11年2月6日に「日本職業野球連盟」が創立する。しかし創立総会から間もなく2・26事件が起きるなど、時期的には波乱含みのスタートとなる。
翌昭和12年7月7日の盧溝橋事件をきっかけに日本が中国へ攻撃を開始し、日中戦争が本格化する。
選手たちは徴兵検査を受けるが、もともと体格が良くて健康なので揃って甲種合格になる。そうなれば真っ先に戦場に行くことになる。この年の8月に早くも選手の一人が戦死する。
昭和12年の春季リーグで最高殊勲選手を受賞した沢村も、この年に郷里で徴兵検査を受け甲種合格。春にバッテリーを組んでいた捕手が前線で負傷し選手生命を絶たれたことを知り、自分の運命と重ねて落ち込んでしまう。そのためか、秋季リーグ戦では人が変わったように不振に陥る。
とうとう翌年の昭和13年1月に沢村は入営することになる。軍隊で期待されたのは彼の投擲力で、手榴弾を出来るだけ遠く、しかも目標を外さずに投げることが求められる。昭和14年になると沢村はもはや野球のことは忘れて、身も心も兵士となっていく。4月には大陸に派遣されるが、戦場は凄惨を極めていた。次々と仲間が殺されていく中で沢村の心も蝕まれ、敵陣に手榴弾を投げ込み、機関銃を撃ちまくり、白兵戦ともなれば容赦なく敵兵を刺殺した。
昭和15年になってようやく除隊となった沢村はチームに復帰するが、もはやかつての沢村ではなかった。2年間の軍隊生活が彼の体を野球選手から兵士に変えてしまった。ふがいない投球にスタンドから「そのザマはなんだ!」という罵声を浴びることもあった。

野球は元がアメリカのスポーツなので、昭和16年の日米開戦後は、軍部からの圧力が増してくる。先ずはチーム名を和名にしろという命令がくる。イーグルスは黒鷲になり、和名だった名古屋軍はユニホームの胸の「名」の字を変形してナチスの鉤十字に似せた。巨人のスタルヒンは「須田博」に変えたが、やがて外国人収容所に入れさせられる。
満州への遠征や、試合前の手榴弾投げ競争などの余興もやるようになる。
昭和16年10月には、ようやく調子を取り戻しつつあった沢村が再招集される。
軍部から連盟への要求はエスカレートしてゆき、引き分けが禁止となる。勝負は決着がつくまでやれというのだ。9回表までにリードしていたら裏は攻撃しない「アルファ勝ち」も禁止となった。勝負は最後までやれというのだ。野球のルールなど全く知らない軍人が命令するのだからトンチンカンなものになる。
敵性後の禁止は度合いを増し、やがてストライク、ボール、アウト、セーフなどの用語も禁止となる。
ストライク・ワン→ヨシ、1本
ワン・ボール→一ツ
フェア、セーフ→ヨシ
ファウル→ダメ
アウト→引ケ
次いで、徴用された人たちが働いていた産業戦士たちの職場を訪問し、慰問のための試合を行うようになる。
軍部はさらにルーズベルトに似た藁人形をグランドに作り、それを的にした遠投競争をさせよと言い出す、さすがに連盟もそれは受諾ぜず、代りに選手たちに銃剣術の余興を取り入れることにした。軍部は喜んでこの提案を受け入れた。軍人といえども、所詮は小役人の根性丸出しだ。
昭和18年1月に2度目の除隊となった沢村はチームの主将としてこの訓練に参加している。しかし2度目の軍隊生活で沢村は投手としては全く使い物にならず、時々代打で登場する程度になってしまった。
球団は選手を守るために大学生として登録し徴兵逃れを図ったが、それも学徒動員令で不可能になった。
昭和19年に入ると、連盟は選手を産業戦士として色々な工場に派遣させることにした。午前は工場、午後からは野球という生活だ。
全ては、戦時下で何とか職業野球を存続させるために連盟が行った偽装工作と言ってよい。
そうした努力も空しく、ついに昭和19年11月13日、連盟は野球を休止することを発表する。ここに結成以来9年間で、職業野球は休止のやむなきに至った。
前年に巨人軍から解雇された(この本で初めて知ったのだが)沢村は大阪の南海電鉄の車両工場で働いていた。同じ工場で勤労奉仕していた南海の選手相手に昼休みになると練習の汗を流していた(沢村は一時期南海に所属したという説もあるらしい)。今一度職業野球で投げる夢は捨てていなかったのだ。
その沢村が3度目の召集がかかったのは昭和19年10月だった。「おい、行ってくるわ」という言葉を家族に残して、門司港から出港して間もなく米軍の潜水艦に撃沈され、生存者は誰もいなかった。
この戦争で、沢村とバッテリーを組んだ名捕手の吉原正喜や、阪神の4番バッターであり投手でもあった景浦将ら多くの名選手が帰らぬ人となった。

戦争の影が近づきつつある今、こよなく野球を愛する人も、そうでない人も、手に取って見る価値がある本だと思う。

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2015/03/29

阪神タイガース、早くもVの予感

今春のプロ野球キャンプで最も注目度の低かったのはタイガースだった。新戦力の補強はなし、ドラフト入団選手も話題性には乏しかった。キャンプへの報道陣の数も少なく、その分よけいな取材を受けずに済んだという。
しかしリーグ戦開幕前の評論家の予想では、セ・リーグの優勝チームに巨人とならび阪神の名をあげる人が多かった。理由は安定した総合力だ。
先ずは投手力だが、先発にはメッセンジャー、藤浪、能見、岩田の4本柱に加え5,6番手として岩崎、岩本(タイガースには「岩」の付く投手が多いね)、あるいは新人の石崎といった名前がならび、先発6人体制のメドがつきつつある。中継ぎ、抑えともにコマは揃っていて、セ・リーグ随一の陣容といって良いだろう。
守備力は2塁の上本にやや不安はあるが、ショートの鳥谷、中堅の大和とセンターラインがしっかりしている。弱点はレフトのマートンの肩だが、これは打撃重視で致し方ない。
攻撃ではゴメス、マートンの両外国選手を軸に、前後を西岡、福留で固め、1,2番を鳥谷、上本がつとめるという布陣は巨人に比べても決して見劣りしない。
好・走・守にバランスが取れているのが阪神の強みだ。
課題は主力が故障などで離脱した際に控え選手とのキャップが大きい事、控えの層の薄さが気がかりだが、これは他のチームでも事情は似通っている。

阪神は開幕戦で中日に2連勝した。この結果より勝ち方に注目したい。
2選ともに劣勢をはねかえして延長にもつれこみサヨナラ勝ちしたが、開幕から2試合連続サヨナラ勝ちを収めたのは球団史上初だ。
勝利投手となったのはいずれも松田で、阪神の投手の開幕2戦2勝は1953年の藤村隆男以来、62年ぶりだ(藤村隆男はミスタータイガースの藤村富美男の実弟で、エースだった)。当時の藤村は3月28日に完投、4月4日にまた完投で連勝したもので、2日連続となると松田が球団史上初のケースとなる。
球団創立80周年の出だしにこうした記録が生まれたのも何か運命を感じるのだ。
阪神タイガースのは、この勢いで節目の今年こそ是非優勝、そして日本一を勝ち取って欲しい。

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2014/03/09

「阪神タイガース」これじゃAクラスも危ない

阪神タイガースは3月8日も藤浪で負けて、これでオープン戦開幕5連敗という球団記録を作ってしまった。
まだオープン戦だからという見方もあるが、既にスタメンには主力選手が出ている。それと投手はそこそこ抑えるが打てず点が取れずという昨年後半の戦いをそのまま引きずっている様子が気になる。
昨季からのシーズンオフでライバルの巨人が着々と補強しさらに戦力を整えたのに対し、阪神はこれといった補強をしていない。外国人選手のゴメスと呉を獲得したものの、こればかりは実戦で使えるかどうかは分からない。

毎度のことながらこの球団のフロントの方針が見えてこないのだ。
昨年の成績をみれば、ホームランが打てる強打者の獲得が補強ポイントだったのは明らかだ。それでゴメスを獲ったのだろうが、夫人の出産という事情で来日がキャンプインから大幅に遅れてしまった。アクシデントならやむを得ないが、夫人の出産が今年の2月初めというのは予め分かっていた筈だ。本人との間でどのような取り決めをしていたんだろうか。
果たせるかなゴメスはトレーニングが不十分のまま練習に入り足を痛めて離脱してしまった。現状では未だ実戦復帰のメドが立てられない。
リーグ戦に入ってからどのような力を発揮するかは不明だが、「今年も又ダメ外人か」という不安が頭をよぎるのは私だけではあるまい。

投手陣はどうかといえば、昨季より久保とスタンリッジが抜けてしまった。久保はFA移籍だから仕方ないがスタンリッジをなぜ手放してしまったんだろう。勝ち星こそ恵まれなかったが安定感はずば抜けていた。
そうしておいて、今になって先発の駒が足りないなんて言いだしている。足りないんじゃない、わざわざ足りなくしているのだ。
計算できる選手を手放し計算できない選手を獲っているんじゃ勝てるわけがない。

秋から春にかけてのキャンプでは若手や控え選手の底上げを目指してきた。ただこの期間に底上げの努力をしているのは阪神だけではなく他球団も同じだ。
掛布DCを招いて若手への指導を強化してきたが、キャンプイン当時は威勢のいい言葉も聞かれたが、実戦になるにつれレギュラーを脅かすような若手は出て来ていない。効果が現れるにしても時間はかかる。

このままでは優勝はおろかAクラス確保さえ危ぶまれる。
フロントをはじめ監督コーチ陣はどこまで危機感を持っているのだろうか。きっと多くの阪神ファンはイライラを募らせているに違いない。

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