韓国は長期にわたり軍事独裁政権が続いていて、民主化がなされたのは1990年代の始めになってからだ。今では信じがたいかも知れないが、当時は日本でも右派は親韓(岸信介、安倍晋太郎が代表的)、左派が嫌韓だった。日韓条約は自民党が推進し、社会党などが反対した。日本国内では韓国のスパイが暗躍し、来日した韓国人が誰と面談しどんな会話をしたかを本国に連絡していた(ある韓国の学者から聞いた実話)。私などは未だにその頃の韓国のイメージが強く残っている。
なかでも「光州事件」は、中国の天安門事件と並ぶ韓国の黒歴史で、概要は以下の通り。
1980年全羅道の中心都市光州において起きた反政府運動を,成立直後の軍事政権が弾圧した事件。
クーデタで成立した軍事政権は金大中 (キムデジユン) をはじめとする国会議員を逮捕したが,その多くが全羅道の出身者で占められていた。これに対して光州市の市民・学生らは激しい反政府運動を展開したが,軍隊の導入で徹底的な弾圧を受けた。公式発表では死者174名とされたが,数千人が死亡または行方不明になったとされる。全羅道という政治的・経済的に冷遇されてきた地域の人々の不満が背景にあり,金泳三 (キムヨンサム) ・金大中の文民大統領によって当時の軍人・政治家の処罰および光州市民の名誉回復が行われた。
(旺文社世界史事典 三訂版)
韓国の民主化以来、ようやく被害の実態と被害者救済が進められてきたが(その点は中国とは大違い)、未だに事件の全貌が明らかになったとは言えない。10年ほど前から韓国の映画界で光州事件を扱った作品が公開され、反響をよんでいる。その中から2作品をとりあげてみたい。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』 2017年 韓国映画
監督:チャン・フン
脚本:オム・ユナ
主演:ソン・ガンホ
実話をもとにしたフィクション、主要な人物には実在のモデルがいる。
1980年5月に韓国の全羅南道光州市で起こった民主化を求める民衆蜂起の光州事件が描かれている。全斗煥らによる軍事クーデターや金大中の逮捕を発端として、学生や市民を中心としたデモが戒厳軍との銃撃戦を伴う武装闘争へと拡大していった事件。作中ではソウルのタクシー運転手キム・マンソプは、10万ウォンと言う高額な運賃が得られることを期待し、ドイツ人記者のピーターを乗せ光州へと車を走らせ、検問をかいくぐり光州へ入る。ピーターは軍による暴虐を目撃し、その事実を全世界に発信するため撮影記録を持ち帰ることを決意する。キムも無残にも次々に死んで行く彼らを見るうち、次第にピーターの使命を理解するようになり、キムは軍の追手を振り払いながらピーターを無事ソウルに送り届ける。この映像により初めて全世界に光州事件の実態が明らかになる。
軍隊が市民を虐殺していく映像が衝撃的で、今起きているミャンマー軍による市民殺害とダブってしまう。

『1987、ある闘いの真実』 2017年 韓国映画
監督:チャン・ジュナン
脚本:キム・ギョンチャン
主演:キム・ユンソク
1987年1月14日の学生運動家朴鍾哲拷問致死事件から6月民主抗争に至る韓国の民主化闘争を描いた作品で、実話にもとずく。
1987年1月、全斗煥大統領による軍事政権下の韓国で、内務部治安本部対共捜査所長のパクは北分子を徹底的に排除するべく、取り調べを日ごとに激化させていた。そんな中、行き過ぎた取り調べによってソウル大学の学生が死亡してしまう。警察は隠蔽のため遺体の火葬を申請するが、違和感を抱いたチェ検事は検死解剖を命じ、拷問致死だったことが判明。さらに、政府が取り調べ担当刑事2人の逮捕だけで事件を終わらせようとしていることに気づいた新聞記者や刑務所看守らは、真実を公表するべく奔走する。また、殺された大学生の仲間たちも立ち上がり、事態は韓国全土を巻き込む民主化闘争へと展開していく。運動のリーダーだった学生が軍に射殺されたのをきっかけとして全市民を巻き込む民主化闘争に発展する。
「光州事件」から7年後の物語で、反共のためならどんな不正も許された時代が続いていた。しかしこの時代には真実を暴く人々が現れ、報道するジャーナリストもいた。彼らの命がけの闘いが民主化を導いていったことがよく分かる。
両作品から、韓国の民主化がいかに大きな犠牲の上で勝ち取られたかが良く分かった。特に大学生ら若者が先頭に立っていたのも印象的だった。
振り返って我が国で、ああした状況になった時に、若者たちが立ち上がるであろうか。
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