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2022/09/15

統一教会による「学術界汚染」

月刊誌『選択』9月号に統一教会による「学術界汚染」という記事が掲載されている。
旧統一教会が政治のすみずみにまで侵食していたのが明らかになりつつあるが、それが学術界にまで及んでいるというのだ。
中心になるのが「世界日報」で、2017年7月~2022年6月に登場した現職国会議員は13人、日本維新の会の馬場伸幸代表が3回、自民党の中谷元、細野豪志、国民民主党の玉木雄一郎代表が各2回などとなっている。
世界日報のHPには、創立者として文鮮明・韓鶴子夫妻が紹介されているそうで、統一教会と関係する団体とは知らなかったという言い訳は通りそうもない。
同紙デジタル版に登場していたのは、西野純也・慶応義塾大学教授。
世界日報の読者が設立した「世日クラブ」で講演していたのは、八木秀次・麗澤大教授と中村仁信・大阪大名誉教授。
関連団体として「平和政策研究所」があるが、林正寿・早稲田大名誉教授が代表理事をつとめ、伊藤亜人・東大名誉教授、小倉紀蔵・京都大学院教授、木宮正史・東大大学院教授、木村幹・神戸大大学院教授らが寄稿している。
統一教会がその豊富な資金力をバックに研究者らに接近しているのは、私見だが次の理由が考えられる。
①教会の信用力とイメージアップ
②学識経験者として政府が主催する各種審議会のメンバーになって貰えば、教会の意向が反映される可能性がある
学者の中には教会と関係する団体とは知らなかったという方もいるだろうが、今後は十分な注意が必要だろう。

2020/11/03

中国「千人計画」への日本人研究者の参加

中国政府が進めている「千人計画」に日本人の研究者が参加していることが問題になっている。なかにはこの問題と「日本学術会議」の在り方とからめて議論する向きもあるが、全くの見当違いだ。
かつて知り合いになったある国立大学大学院の理工系教員に年間の研究費をきいたところ、あまりに少ないので金額が一桁違うのではと思った。「それじゃ何もできませんね」と言ったら、「そう、必要な実験装置が買えないんです」と。
測定機器は日進月歩、新たな研究をしようすれば最新鋭の機器がいるが、到底手が届かない。
そこで企業からの委託研究や共同研究によって研究費を得たり、企業の持っている機器を使わせて貰っているのだという。
だから、産学協同はけしからんなどと軽々に批判できない。研究者のおかれている状況があまりに貧しく、そうせざるを得ないのだ。
それでも職を得ている研究者はまだ恵まれている。文科相が旗をふって博士を量産してきたが、受け皿がない。いつまでも職につけない、いわゆる「ポスドク」問題が深刻化しているのが現状だ。
恵まれた環境で優遇してくれる条件が与えられば、それは誰もが飛びつく。
「千人計画」に日本人の研究者が参加することに非難はできない。

20年ほど前に中国の製造工場を見てまわったことがある。いくつかの現場では日本人の技術者たちが現地の人たちを指導している姿があった。
訊けば日本の企業に勤めていたが、自動化が進むなかで人員整理の対象になり、職を求めて中国に渡ったのだという。
中国では技術が向上すると他に転職して給料があがるようで、仕事が終わってからも残って日本人に教えを請うという。生徒が熱心だと先生も熱心になるから、両者は非常によい関係に見えた。
かくして日本の技術ノウハウが中国に移転していく。
熟練の人を粗末にした報いである。
「捨てる神あれば拾う神あり」
菅ごときに言われるまでもなく、人々はみな「自助」努力をしているのだ。

 

2017/08/22

池袋演芸場8月下席・初日(2017/8/21)

池袋演芸場8月下席昼の部・初日

前座・林家たま平『道灌』
<   番組   >
柳家小はぜ『富士詣り』
春風亭三朝『芋俵』
蜃気楼龍玉『強情灸』
林家楽一『紙切り』
八光亭春輔『権兵衛狸』
林家正蔵『夢八』
―仲入り―
桂三木男『崇徳院』
林家鉄平『寄合酒』
柳貴家小雪『太神楽』
柳家三三『磯の鮑』

池袋演芸場には下席の昼の部に来る時が多い。夜の部が特別興行のため昼夜入れ替え無しであり、午後2時から始まって5時に終わる、理想的な時間なのだ。
昼食を終えて家を出て小屋に入り、終演後は近所の飲食店を利用してもいいし、家に帰って夕食でもいい。
また、公演時間が3時間というのも丁度いい長さだ。

仲入りで上がった正蔵が、この芝居の顔づけは5月に行ったが、ノンビリと聴ける人を集めたと言っていた。お客が緊張するような噺家や、やたらギャグを入れて客席を爆笑させるような人は(誰のことかな、一之輔?)避けたそうだ。
昼下がりにボーッとしながら、時にはウトウトしながら過ごす、そういう番組となった。

小はぜ『富士詣り』
信仰としての富士登山、今と違って下から登るので5合目に着いた頃にはクタクタ。辺りも暗くなり、先達から「これは、一行の中に五戒を犯した者がいるから、山の神さまのお怒りに触れたんだ。一人一人懺悔(ざんげ)をしなくちゃいけねえ」と脅され、長屋の連中が一人一人告白を始める。
仏教でいう五戒とは、在家の信者が守るべきことがらで、次の5つだ。
1.不殺生戒(ふせっしょうかい) 
生き物を殺してはいけない。
2.不偸盗戒(ふちゅうとうかい)
他人のものを盗んではいけない。
3.不邪淫戒(ふじゃいんかい)
自分の妻(または夫)以外と交わってはいけない。
4.不妄語戒(ふもうごかい)
うそをついてはいけない。
5.不飲酒戒(ふおんじゅかい)
酒を飲んではいけない
こりゃ、出家した坊さんでも無理だわ。
とにかく、交代で懺悔を始めるが、最後の熊さんは不邪淫戒。人妻といい仲になった経緯を詳しく語りだす。
相手の女房っていうのはどこの誰だと問い詰める先達に、熊は「あんたのお上さん」でサゲ。
最近では権太楼の音源がCDで市販されているが、珍しい噺といえる。
こうしたネタに挑戦する意気は買いたい。

三朝『芋俵』
よく纏まっていたが、もうちょっとこの人「らしさ」が欲しいところ。

龍玉『強情灸』
唯一の熱演で、古今亭のお家芸を披露していた。

楽一『紙切り』
この日のユルイ雰囲気にピッタリ。

春輔『権兵衛狸』
2度目だが、彦六譲りかと思える唄い調子風な語りと、この民話風のストーリーが良く合っていた。
一席終えた後の『かっぽれ』、真に結構でした。
この人、寄席に出る頻度が少ないのは何故だろう?

正蔵『夢八』
近ごろ風格のようなものが身についてきた。
上方ネタだが、最近は東京の高座でも演じる人が増えてきた。
正蔵の高座は全体にあっさりと演じていて、これはこれで東京風で良かった。

三木男『崇徳院』
久々に見たが、以前のトッポさが消えて真剣な姿勢は感じられた。やはり真打と三木助襲名への意気込みだろうか。
持ち時間の関係もあったのか分からないが、もう少しゆっくりと喋った方がこのネタには効果的だろう。

鉄平『寄合酒』
終盤で、与太郎が原っぱから味噌を拾ってくるのを忘れていて、慌てて付け加えていた。「なんか足りないと思ってた」で場内爆笑。ここが一番笑えた。こういうユルサもご愛嬌か。

小雪『太神楽』
小柄な女性が座ったままで演じるので、父性愛本能をくすぐるね。

三三『磯の鮑』
前の太神楽の紙吹雪の跡片付けで、前座が二度も高座に上がり、出番の調子がやや崩されていたが、前方の鉄平のミスや前座の慌てぶりもちゃんとフォローして本題へ。
ストーリーは先日紹介したばかりだから割愛する。
三三の良さは、場の空気を読むことが巧みな点だ。
テンポの良さも強みで、このネタに登場する与太郎の造形は三三ならではだ。

時々ウツラウツラしたので、間違いがあったらご容赦を。

2014/10/20

ノーベル賞・中村修二氏「研究費の半分は軍から」

高校3年3学期の化学の最後の授業で、学科主任の教師は私たち生徒にこう訴えた。「戦争中は多くの化学者が戦争に協力した。君たちがもし化学の道に進むならそういう化学者には絶対になるな」と。それまでは保守的な教師という印象だったのでこの言葉に驚き、今でも強く記憶に残っている。

さて、今年のノーベル物理学賞受賞者の中村修二米カルフォルニア大学教授のインタビューが、10月18日付朝日新聞に掲載されている。
中村氏の主な主張は以下の通りだ。
①特許の権利を会社のものにするという政府の方針については猛反対だ。自分の裁判を通じて企業の研究者や技術者の待遇がよくなってきたのに、それをまた大企業のいう事をきいて会社に帰属させるのはとんでもない。
②米国ではベンチャー企業の起業が盛んで、科学者もみなベンチャー起業でお金を稼いでいる。ベンチャーの報酬の支払いは株なので、上場すれば何十億、何百億円という金になる。だから優秀な人はベンチャーに移り、出来の悪いのが大企業に残る。日本にはそうしたシステムがないから大企業からベンチャーにこない。
③米国の工学部の教授だったら皆コンサルティングやベンチャーをやっている。日本は規制が多くそれができない。
④日本はグローバリゼーションに失敗している。
⑤日本の教育制度について、小さい時からどんなものが好きかを見て個性を伸ばす教育をした方が良い。第一言語を英語、第二言語を日本語にするくらいの大改革をやらないといけない。
⑥米国の大学教授の仕事はお金を集めること。自分のところでは年間1億円くらいかかる。半分は軍からくる。軍の研究費は機密だから米国人でないと貰えない。米国で教授をして生きるなら米国籍を取得せねばならない。

要約すれば、”中村修二氏のように優秀な研究者は、日本では自由な研究ができず、実績に見合った報酬も受け取れない。それに対してアメリカでは科学者も自由にベンチャー企業を起業化でき、莫大な収入が得られる。日本もノーベル賞級の研究を行うとするなら、米国のような環境に整備すべきだ。そのためには教育を含めいっそうグローバリゼーションを推進せなばならない。”という事。

成功者は強い、何を言っても許される。
アメリカン・ドリーム。
しかしアメリカの研究者誰もが中村氏のいうように自由な研究ができ莫大な収入を得ているかというと、そうでもないようだ。むしろ少数であり、大半の研究者(中村氏の言う「出来の悪い」研究者たち)はそうした境遇とは無縁のようである。
中村氏の主張するグローバリゼーション=アメリカ化には賛成しかねる。
それより気になったのは、中村氏の研究費が年間1億円くらいで、その半分は軍から支給されていると述べている点だ。研究内容なむろん軍事利用であり、だからこそ守秘義務があるので米国籍が必要なのだ。
軍から毎年5千万円くらいの補助を貰わないと教授として生きられないという実態について、さらにはそのために研究成果が軍事利用される恐れについては、中村氏はどのように考えているのだろうか。
ノーベル賞創設の経緯からみて、いかがなものか。

2014/05/08

【臭い物にフタ】STAP論文不正を理研調査委「再調査せず」

理研は「臭い物にはフタをする」に成功したようだ。過去形だから「フタをした」かな。
STAP細胞論文の研究不正を調べていた理化学研究所の調査委員会(渡部惇委員長)は5月7日、著者の小保方晴子ユニットリーダーからの不服申し立てを退け、再調査しない方針をまとめ理事会に報告した。
調査委は4月1日、STAP論文について、小保方氏による画像の捏造などがあったとする最終報告書を公表した。笹井芳樹氏ら論文の共著者は、責任重大だが研究不正はないとした。
それに対し小保方氏側は「調査が不十分」「真正な画像データは存在する」と主張し、新たな調査メンバーによる再調査を求め、不服申し立ての内容を補充する資料を提出していた。
理研の調査委員会は、小保方氏側から、再調査をしなくてはならないような新たな資料の提出がなかったと判断した。
報告が理研の理事会で承認され、小保方氏が不正をしたという理研の見解が確定すると、今後は小保方氏の処分が検討される。

STAP細胞に関する研究について、その成果を特許出願し、論文を発表させ、記者会見を開いて技術をPRしたのは全て理研の命令によるものだ。小保方氏はその指示に従っただけだ。
その後論文の一部に不正が見つかり外部から指摘を受けると、掌(てのひら)を返したように担当者に全ての罪を被せて自分たちの責任は頬かっぶり。
小保方晴子リーダーの上司にあたり、STAP論文の共著者でもある笹井芳樹発生・再生科学総合研究センター副センター長が行った4月16日の記者会見では、自分のSTAP論文への関わりは最後の仕上げ部分のみであったと述べている。
しかし問題の英ネイチャー(Nature)誌の論文では、笹井氏が論文作成、実験、研究デザインと全般に関わっていたことが記されている。
もはや笹井氏は逃げの一手なのだ。調査委員会の見解もこれに追随したものになっている。

・実験データの中で論文の結論に都合の良いデータだけを取り出し、他のデータは切り捨てる。
・実験で得られた画像が不鮮明であれば、切り貼りや別の画像に差し替えを行う。
この2点が不正だ捏造だということになれば、過去の多くの論文が引っ掛かることになるだろう。
他の研究論文にボロが出る前に、早く幕引きを図ったというわけだ。
小保方という尻尾を切り、理研も上司も生き残る。
悲しいけど、これが現実。

2014/04/25

なぜ研究者は「画像切り貼り」するのか

新たな万能細胞「STAP細胞」の論文に不正があったとされる問題で、理化学研究所の調査委員長を務めた石井俊輔・理研上席研究員が4月25日、自身の論文に不正の疑義が出たことを理由に委員長を辞任した。調査委は、現在STAP細胞論文の不正問題で著者の小保方晴子・理研研究ユニットリーダーから出された不服申し立てについて審査中であり、再調査の判断にも影響が出そうだ。なお後任の委員長は、調査委員の一人の渡部惇弁護士と決った。
辞任の原因となったのは、石井氏が2004年と2008年に責任著者として発表したがんに関する論文について、画像の切り張りや使い回しが指摘されたものだ。石井氏は、いずれも実験データがそろっていることから「不正はない」としている。
理研は石井氏の論文不正疑惑の指摘について予備調査を始めた。不正の疑いがあると判断すれば、STAP細胞論文と同様に調査委を発足させるようだ。

負の連鎖、どこまで続く泥濘(ぬかるみ)ぞ。

科学技術論文で画像の切り貼りというのはかなり広範囲に行われていると考えた方が良い。これが全て「不正」だとするなら、不正論文の数は際限なく拡がるだろう。
なぜ論文の「画像切り貼り」が行われるのだろうか。
科学論文というのは何かを証明するわけだが、典型的な例としてAとBの二つの結果の違いを証明するとしよう。Aは従来の試験結果、Bは新たな試験結果だ。
この違いがデータやグラフだけで証明できれば良いのだが、研究内容によっては画像や映像でしか証明できないものもある。
研究者自身は実際の測定装置で違いが明確に分かるのだが、これを写真に撮影し一定のサイズの画像として論文に添付する時、読む方からするとその違いが分かり難いということが、ママある。そうなると証明の訴求力が薄れてしまうわけだ。
そこで違いが明確に分かるような画像の切り貼りや、別の実験から得た画像に差し替えて、論文に貼りつけるという様な操作が行われる事がある。これによって研究者が実験室で確認したような違いを、論文上で再現させることになる。
心当たりのある研究者も少なくないだろう。
厳密にいえば不正だ捏造だということになるのだが、研究者側から言わせれば不正ではないということになる。
無いものを有ると言ったり白を黒といえば明らかなウソだし捏造だと言い切れるのだが、この辺りはいわばグレーゾーンで悩ましい所だ。

実はこの説明を我が家で女房と娘にしたら、それはインチキでしょうと総スカンを食らってしまった。反論の余地なし。
世の中に正義感ほど強いものはない。

2014/04/13

「STAP細胞」の特許について理研側の説明を求める

昨日の記事に書いたように、「STAP細胞」の特許出願は理化学研究所(理研)と東京女子医科大、米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の3法人による共同出願となっており、既に公開されている。
特許権を得た場合は出願人だけが、あるいは出願人が許諾した者だけがこの発明を実施できるという排他的な権利だ。
そこで、
1,「STAP細胞」の特許出願にいたった経緯
2,なぜ理研の単独出願にしなかったのか
3,特許出願の共同者をなぜ東京女子医科大と米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院にしたか
4,発明者(研究開発者)から出願人への権利の継承はどのように行われたか
5,特許権を得た場合の出願人相互の権利関係はどのようになっているのか
について、理研側は明確に説明する必要がある。
理研の予算の大半は国から、つまり私たちの税金から支出されている。従って、国民に対する説明義務があると考える。

2014/04/12

STOP!「STAP」騒動

私には世間がなぜこんなに「STAP細胞」問題で大騒ぎしているのか、その理由が分からない。4月9日、STAP細胞論文に「不正があった」という理化学研究所の判断を受け、研究ユニットリーダーの小保方晴子氏が反論のための記者会見を開いたが一向に沈静化する気配がない。ネットニュースのランキングでも常にこの問題が上位を占めているし、先日の会見ではTV中継まであったそうだ。
日本人全体が科学技術の進歩に著しく関心を持ったとあらば、それは大いに結構なことだが、報道やネットの記事を見る限りではどうもそうは見えない。専ら小保方氏への言論による集団リンチともいうべき個人攻撃やスキャンダルに関心が集まっているかのようだ。

バイオには門外漢なので的が外れているかも知れないが、今の段階で言えることは、まだ「STAP細胞」は技術的に未完成であり、発表された論文に不備があったということだけではなかろうか。それ以外になにかあるのだろうか。
この件について先ず考えねばならないのは、既に理研と東京女子医科大、米ハーバード大の関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院の3施設が合同で、2013年4月24日に国際特許を米当局に出願していることだ。
出願日
24.04.2013
出願人
THE BRIGHAM AND WOMEN'S HOSPITAL, INC. [US/US]
RIKEN [JP/JP]
TOKYO WOMEN'S MEDICAL UNIVERSITY [JP/JP]
発明者
VACANTI, Charles A.; (US).
VACANTI, Martin P.; (US).
KOJIMA, Koji; (US).
OBOKATA, Haruko; (JP).
WAKAYAMA, Teruhiko; (JP).
SASAI, Yoshiki; (JP).
YAMATO, Masayuki; (JP)
特許請求範囲(クレーム)は全部で74項に及ぶが、第1項(メインクレーム)は「ストレスを与えることで、多能性細胞を作製する方法」とされていて、いわゆる方法(製法)特許と思われる。
特許は、有用な発明をなした発明者またはその承継人に対し、その発明の公開の代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利(特許権)を国が付与するものだ。
この特許の場合は、発明者と出願人が異なるところから、出願人が発明者から特許を受ける権利を継承したものと考えられる。
大事なことは、特許出願が後に特許権となった場合、特許発明を独占的に実施する権利は出願人に所在し発明者にはないという点だ。対外的には単に特許の発明者として名前が残るだけだ。
ただし発明者から出願者が特許権を継承するにあたり契約が結ばれているだろうから、発明者としてはこの特許が権利化することには最大限の協力をするものと推測される。

次に、特許を出願してから特許権を得るまでにどのような過程を通るかだが、日本の場合、以下の通りとなる。
特許出願-方式審査-審査請求-実体審査-特許査定-特許登録
ただこの流れは極めて順調にいった場合であって、大半の出願特許は先ず拒絶理由通知書が来て、そこから意見書又は補正書を提出しながら審査官との間で何度もヤリトリし、結果として査定されるか拒絶される。
従って特許権を得るにはかなりの年月がかかるのが一般的だ。

もう一つ重要なことは、出願した特許は原則として一定期間経てば(日本だと1年6か月)全て公開されてしまうということだ。もし審査で拒絶査定が確定し特許権を得られなければ、公開された技術は誰でもが自由に使用できてしまう。
だから特許を出す場合、そうしたリスクを常に頭に置かねばならない。もちろん、特許権を得る前に書く論文にしても同じだ。
では、どうするかだが、早くいえば「穴を空けておく」。
つまり特許や論文の通りに実施しても、書かれた通りの結果にはならないよう細心の注意を払うことになる。通常は「ノウハウ」と呼ぶ技術を秘匿しておく。
そうすれば万一特許が拒絶されても、他者が容易に真似ができなくなる。
第三者が追試しても予想した結果が得られないのは当然だといえる。

発明は早い者勝ちだから、技術が未完成の段階でも特許出願することはごく当たり前のことだ。
先日の会見で記者から発明者に「STAP細胞」の作り方の詳細を問い質していたが、既に発明者から出願人へ特許権が継承されている以上、小保方氏が答られる筈がない。
もしかすると「STAP細胞」の作り方の詳細そのものが、まだ確立されていないのかも知れないが。
論文についても同様で、出願人の意向に反するような内容は書けない。
もし「STAP細胞」の技術について特許権を得ることなど抜きにして、全て内容をオープンにするとしていたら、今とは全く違う展開になっていたに違いない。
だからもう小保方氏に対する個人攻撃はいい加減にやめにしようよ。

2014/03/12

学術論文のアイマイさ

新たな万能細胞「STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)」の論文問題がゆれている。
過去の画像の使い回しや、出典を明示せずに他者の論文の一部を引用しているなどが指摘されているようだ。
実験を主導した小保方晴子・研究ユニットリーダーが所属する理化学研究所は文部科学省で初めて記者会見し、加賀屋悟広報室長が「世間をお騒がせして誠に申し訳ない」と陳謝した。外部の専門家も交えた調査委員会が3月14日に記者会見し、調査の進展状況を説明するという。
加賀屋室長は「信頼性、研究倫理の観点から、論文の取り下げを視野に入れて検討している」と述べ、調査結果次第では論文の撤回を求める意向を示した。
仮に論文を撤回することになれば研究成果も白紙になるおそれがある。但し、撤回には原則として共著者全員の同意が必要となるので、理研だけの判断ではできない。

この問題で考えなくてはいけないのは、研究成果それ自体が誤りだったのか、あるいは発表論文が不適切だったのかという点だ。
もし実験データが捏造あるいは修正されていたならば成果そのものが否定される。もう一つ大切なことは実験の再現性だ。全く同一の条件で実験を行った場合、同じ結果が得られなくてはならない。偶然やタマタマではサイエンスにならない。STAP細胞の場合、おそらくこの点に疑念が出されているのだろう。

もう一つの学術論文として適性であったかどうかという点だが、これは掲載した学術誌の方針にもよる。一口に学術誌といっても様々な分野に分かれており、ランクも異なる。Aという誌には不掲載になるがBなら掲載できるという事もあるわけだ。
学術誌ごとに審査委員がいて掲載するか否かを決めるのだが、甘い辛いがある。研究者もタテ社会だから例えばその学会の権威者が係わった論文であると、審査は落としにくい。
企業の研究発表の際には、そうした点を利用して権威者を共同研究に引き入れ、企業側に有利な条件で論文を掲載できるよう手配することになる。
では大学の論文なら信頼できるかというと、これも実際には企業が資金を出しているひも付き研究のケースもあり必ずしも公正とは言えない。
だから学術論文だからといって一概に信用するのは危険だ。

以上はあくまで一般論であって、STAP細胞問題に適用できるかどうかは分からないが、ご参考までに。

昨今、作曲家の佐村河内守氏のいわゆるゴーストラーター問題が世間を賑わしたが、学術論文の世界でゴーストライターの存在はその比ではない。
以前に”「ゴーストライター」は日本文化”(2011/05/22付)の記事に書いたものを以下に再録する。
【ゴーストライターが最も日常化しているのは、科学技術の世界だろう。
仮にAという大学教授と、その弟子のBが共同執筆して書籍を出したとしよう。
もしAがその一部を書き、残りの大部分をBが書いた場合は、その書籍の執筆者はA単独となる。
全てをBが書いた場合は、執筆者はAとBの共著になる。
これは「お約束」であり、少なくとも私が現役時代の数年前まではそうであったし、今でも続いていると思う。
科学誌に掲載された論文でも同様で、ある高名な大学教授が書かれた論文について教えを乞うべく訪問したら、自分では分からないからと、執筆した弟子をその場によんで説明させていた。
大先生は、論文自体をあまり読んでいない様子だった。
そげなモンです。
以前に「ポスドク」について書いたように、特に企業においては博士論文の替え玉はそう珍しくなかろう。
上司の命令とあっては部下は逆らえないし、考課に響くとなれば部下はせっせとゴーストライターを務めるしかない。】

決して肯定しているわけではないが、そういう実態もあるということ。

【3/13追記】
Wikipediaの解説によると、本論文の掲載誌「Nature」は、
「同時代の科学誌群とは比べ物にならないほどpolemic ポレミックな目的の (つまり、討論を挑んだり、議論を引き起こすことが目的の)雑誌として生まれ、育てあげられた。」
とある。
そういう意味では掲載論文は趣旨に沿うのかも知れない。

2013/09/08

「原子力ムラ」の復活

月刊誌「選択」2013年8月号が、経産省傘下の資源エネルギー庁(エネ庁)で、密かに「原子力ムラ」が復活したと報じている。
エネ庁はこの7月、「原子力自主的安全性向上に関するワーキンググループ」という委員会を設置したが、その委員に「原子力ムラ」の主要メンバーが目立つというのだ。
先ず関村直人東大大学院教授だが、2011年の福島原発事故の際にはNHK番組の常連となり、「炉心溶融(メルトダウン)はあり得ない」とか「冷却水が漏れている可能性は低い」など、ことごとく事実と異なる情報を連発していた人物だ。
それもその筈、日本原子力開発機構から「受託研究費」として5760万円を受け取っていたのだ。
本来なら世間さまに顔向けができない立場だと思うのだが、まさに「どのツラ下げて」だ。
もう一人の委員、山口彰阪大大学院教授もやはり原発の業界団体から1300万円を受け取っている。
このワーキンググループは組織上、エネ庁「原子力小委員会」に所属しているが、同委員会の田中知東大教授もムラの有力者だ。
その東大自体が東京電力から過去に5億円もの金を受け取っていたのだから、ムラの「牙城」にもなるわけだ。
こういう学者が集まって「原子力の安全性」を向上させようと言うんだから、結論は見えている。
もちろん、安倍政権の原発再稼働政策に向けての経産省の意向であることはいうまでもない。

東大といえば、医学部の腐敗もすさまじい。
分子細胞生物学研究所(分生研)の加藤茂明元教授らの発表した論文165本中、53本の問題があり、うち43本に捏造や改竄が行われていたことが調査で明らかになったばかりだ。
どうやら当時の研究を指導していた助手ら研究スタッフが深く関与してというから根が深い。
分生研には独法科学技術振興機構から研究費20億円が支払われていて、その返却が求められている。
気の毒なのは当時の大学院生たちで、今回の件で学位が剥奪されるようになれば、現在の職も失うことになるという。
それなのに、データを改竄していた研究スタッフの中心人物が、他の国立大学教授に就任しているというのだから、あいた口が塞がらない。

「東京大学憲章」の前文(抜粋)にはこう書かれている。
【人類普遍の真理と真実を追究し、世界の平和と人類の福祉、人類と自然の共存、安全な環境の創造、諸地域の均衡のとれた持続的な発展、科学・技術の進歩、および文化の批判的継承と創造に、その教育・研究を通じて貢献することを、あらためて決意する。】
なんという現実とのギャップ!