寄席・落語

2019/05/19

「兼好・萬橘 二人会」(2019/5/17)

兼好・萬橘 二人会「おかしなふたり」
日時:2019年5月17日
会場:深川江戸資料館 小劇場
<  番組  >
前座・三遊亭じゃんけん『寿限無』
前座・三遊亭まん坊『四人癖』
三遊亭兼好『犬の目』
三遊亭萬橘『風呂敷』
~仲入り~
三遊亭萬橘『ろくろ首』
三遊亭兼好『天災』

世の中、人手不足で外国人を労働力にする政策が進められているのに、人が集り過ぎて困っている業界がある。それは落語界だ。
どうやら近ごろの人にとっては、落語界が成長産業に映っているようだ。およそ芸人なんてもんは、世を拗ねた道楽者がやる商売と相場が決まっていたが、昨今の入門者は健康的だね。
前座が余ってるからと、この日は二人出た。

円楽一門の将来を担うであろうこの二人は共に爆笑派だが、方向性が異なる。
兼好はオリジナルはあまりいじらず、独自のクスグリを入れて面白くしている。
萬橘はオリジナルそのものに少し手を入れて、客の意表をついて笑いを取る。

兼好『犬の目』
お馴染みのネタだが、眼医者のシャボン先生が患者を診察しながら、何か目に関する面白いシャレを思いつくと手帳に書き込むのだが、そこで笑いが起きていた。

萬橘『風呂敷』
亭主が遅くなると言って出かけた夕方、たまたま家を訪れた新さんを座敷に上げお茶を飲んでいると、酔った亭主が帰ってきて・・・が通常の運びだが、この高座では女房が予め新さんを呼んで家に入れたという『紙入れ』風の設定にしていた。風呂敷を持った兄いが出かけよいうとすると、女房が「あたしなら、もっと上手くやるね」と呟き兄いを慌てさせる。酔っぱらった亭主はこれが日課だからと押し入れの前で洗濯物を畳んでいた。これが終わると縫物をしてお釜を洗い・・・と、だからなかなか寝られないのだと。変わった演じ方が受けていた。

萬橘『ろくろ首』
ろくろ首の女の下へ婿入りした男、初夜の夜にいつ女の首が伸びるのかと一晩中待っていたが、最後まで首は伸びなかった。「首を長くして待っていた」のは男の方だったでサゲ。逆転の発想。

兼好『天災』
特にクスグリ入れず真っ直ぐに演じていたが、それでも受けていたのは兼好の技量に因るものだろう。乱暴者の男もこの人が描くと可愛らしく見えてくる。

 

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2019/05/13

「上方落語会」(2019/5/12)

第61回「上方落語会」 
日時:2019年5月12日(日)14時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
林家愛染『あみだ池』
林家花丸『平成無い物買い』
桂団朝『一文笛』
≪仲入り≫
桂花団治『昭和任侠伝』
笑福亭たま『令和の人』

横浜にぎわい座 「上方落語会」は改元特集ということで、明治、大正、昭和、平成、そして令和の時代に因んだネタが披露された。
上方落語にお馴染みのない方向けに、にぎわい座のHPから出演者のプロフィールを紹介する。なんて偉そうに書いているが、当方も花丸とたま以外は初見だ。

林家愛染(はやしや あいそめ)、上方落語界の自称「らぶりん」。
林家花丸(はやしや はなまる)、2014年文化庁芸術祭優秀賞・繁昌亭大賞・大阪文化祭賞奨励賞と一気に三冠受賞する。趣味は宝塚歌劇。
桂団朝(かつら だんちょう)、2012年繁昌亭奨励賞受賞。落語だけでなく、役者としても活躍。
桂花団治(かつら はなだんじ)、1988年MBS落語家新人コンクール優勝。大阪青山大学客員教授、放送芸術学院専門学校講師などで、教壇に立つことが多い。
笑福亭たま(しょうふくてい たま)、2017年国立演芸場花形演芸会大賞、2004年文化庁芸術祭新人賞など多数受賞。特技は落語界のマーケティングとコンクールの傾向分析。

愛染『あみだ池』
時代は大正。本来は、男が隠居宅を出てから町内の知人、次に隣町の知人を訪れるのだが、最初の知人の場面をカットしていた。開口一番で時間の関係もあったのかも知れないが、オリジナルで演じて欲しかった。

花丸『平成無い物買い』
時代は平成、ちょっと無理があるけど。古典落語の『無い物買い』を現代風にアレンジした改作。日本人とアメリカ人の二人が色々な店に入り、その店にはありそうも無い物を注文して困らせるというストーリー。寿司屋に入れば、ネタにサメやイルカを注文する。店主の方も負けていられず、「それならイルカに乗った少年はどうですか?」と、「なごり雪」のレコードの上に若い店員を乗せる。こんな感じのギャグ満載で、面白く聴かせていた。この人は上手い。

団朝『一文笛』
桂米朝作だが、時代は明治。良く出来た噺で、今では東京の噺家も高座にかけている。今は堅気となった兄貴分が、怒ってスリを改心させる場面は迫力十分。締まった高座を見せていた。

花団治『昭和任侠伝』
桂音也が1970年代初めに創作した新作落語。当時人気のあった、高倉健や鶴田浩二らが主演した東映任侠映画のパロディが散りばめられた噺。 こうした時代色の強い噺はズレがおおきくなるので、今のお客にどこまで通用しただろうか。

たま『令和の人』
上方落語四天王のエピソードをマクラに振って、出来立てホヤホヤの新作。
令和元年に生まれた娘が25年、つまり24歳になるまでの娘の両親の物語。生まれた時に易者が予言したことが、その通り当たるというストーリー。かなり強引なコジツケだが客席を沸かせていたのは、たまのセンスによるものだろう。
これにて、5つの時代をネタにした会は終了。
終演後、出演者全員による見送りがあった。

 

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2019/05/11

「露の新治 落語会」(2019/5/10)

「露の新治 落語会」
日時:2019年5月10日(金)18時30分
会場:深川江戸資料館 小劇場

露の新幸『東の旅~旅立ち』
<  番組  >
露の新治『西の旅~兵庫船』
露の新幸『時うどん』
露の新治『ちりとてちん』
柳家さん喬『笠碁』
~仲入り~
さん喬・新治『トークコーナー』
露の新治『大丸屋騒動』
(三味線:田村かよ)

本公演はNPO法人「東北笑生会」が主催したもの。同会は露の新治と共に、東北大震災の被災地を回り笑いを届けるボランティア活動を行っている団体で、2015年設立以来15回の公演を行っている。他に、東京や大阪での公演では、被災地の状況を伝えるトークコーナーを設けている。

ここ数年、上方落語を聴く機会が増えたが、中でも露の新治の高座が最も多い。噺が上手い面白いという他に、この人の人間性に魅かれるだ。高座からホッコリするものが伝わってくる。東京での公演も多くなり、新治ファンも拡がってきたようで、この日も一杯の客入りだった。

開演前に、新幸『東の旅~旅立ち』が演じられた。

新治『兵庫船』
上方落語には旅の噺が多い。このネタは西の旅、大阪から金毘羅詣りをしてその帰途に兵庫から船で大阪に戻る途中の物語りだ。
船上で乗客たちが謎かけで楽しんでいると、突然船が止まってしまう。船頭に言わせると、たちの悪いサメが客の誰かを目当てに寄ってきて船を止めた。客の持ち物を海面に投げ、沈んでしまった者が犠牲者になってサメに食われてしまえば船は助かると言う。乗客たちは次々に持ち物を海に投げるが、巡礼の母娘の娘のものだけが沈んでしまう。母娘が嘆き悲しんでいると、一人の男が船べりに乗り出してサメを挑発。怒ったサメが大きな口を開けて迫ってくると、男は持っていた煙管の中の灰を火玉ごとサメの口の中に放り込み、撃退する。
「あんた、何者?」と問われた男、「かまぼこ屋です」でサゲ。
東京では、他に『桑名船』や『五目講釈』といったタイトルで演じられ、上客の中に講釈師がいて、それが扇子で船べりを叩きながら滅茶苦茶な講釈を語ると、サメが逃げてゆく。理由を訊くと、サメが講釈師をかまぼこ屋と間違えたでサゲる。
上方版は初めて聴いたが、新治に高座は前半のノンビリした様子から、後半の緊張感への切り替えが上手く描かれていた。

新幸『時うどん』
自己紹介で、ロックミュージシャンから落語家になったそうだ。入門4年目だそうで、東京でいえば二つ目になりたてといった所。優れた師匠の下でしっかり修行をして欲しい。

新治『ちりとてちん』
元は東京落語『酢豆腐』で、これを初代柳家小はんが改作した物が「ちりとてちん」。これが上方に輸入され、更に東京に逆輸入された。今では東京でも『酢豆腐』より『ちん』の方が多く演じられている。
上方版でもバリエーションがあるようで、新治の高座では最初の客にはお茶と金平糖が出される。その後、酒とご馳走が出てくるがメインが寿司だった。出されたものは全て「生まれて初めて」と世辞を言う男に対し、裏に住む嫌味な男の話題になり、懲らしめのために酢豆腐を食わせようと相談がまとまる。ちりとてちんという名前は、男が三味線の音から連想したもので旦那も賛成する。酢豆腐に醤油をたらし、唐辛子をタップリ振りかけて混ぜ合わせ、折り詰めにして紙をかぶせ、筆で「長崎名物 ちりとてちん」として、更に「元祖」の字を斜めに書き加える所がミソ。招かれてきた嫌味な男、何か言う度にそっくり返る。この男が嫌味を言いながらご馳走を食べる所はなく、いきなり「ちりとてちん」を勧め始める。男は何度も躊躇するが、その度に旦那におだてられ、やがて一気に喉に入れ悶絶する。慌ててビールで流し込み(これも珍しい)、「どんな味がした?」「酢豆腐の様な味だった」でサゲ。

さん喬『笠碁』
結論から言えば、上出来の高座だった。
このネタに登場する二人の身分は説明はないが、大店の、それも店の主の座は譲り終えた隠居の身だと思われる。それが一目の碁のことで子どもじみた喧嘩をする。二人の人物にそうした雰囲気を醸しだせるかどうかが肝要で、さん喬の高座はそれに見事に応えていた。この人の語りのリズムや、表情や仕草の細かな変化が、このネタに良く合っていた。

さん喬・新治『トークコーナー』
主に東北大震災の被災地を訪問した時の思いや、感じた事が披露されていた。印象に残ったのは、さん喬が被災者のために何かやって上げるんじゃなくて、何が出来るかという視点を強調していたこと。
新治の話では、仮設住宅の中に熊本地震の募金箱が置かれ、そこに1000円札を入れていた老婦人がいた。自分の暮らしも大変なのにと訊いたら、「分かるんです」と答えたそうだ。自分が辛い思いをしたからこそ他人の辛さが分かるのだと、新治は語っていた。

新治『大丸屋騒動』
新治のこのネタは過去に2度聴いている。あらすじは下記の通り。
伏見大手町の商家大丸屋宗兵衛の弟・宗三郎は、祇園の舞妓おときと恋仲になったことが親戚の怒りを買い、3カ月の約束でそれぞれ、おときは祇園の富永町に、宗三郎は木屋町三條にそれぞれ別居する。
その際、兄の所持していた村正を請われて宗三郎に貸し与える。
兄としては、親類を説得させた上で、いずれは晴れて二人を夫婦にする算段なのだが、宗三郎には兄の思いが伝わらない。
番頭の監視下に置かれはや2ヶ月が過ぎたある夏の夜、おとき逢いたさに、宗三郎は、木屋町の家をぬけだして村正を腰に、富永町の家にやって来る。
そうした宗三郎の心情をうれしく思うおときだが、ここで宗三郎を入れたら二人が夫婦になる話が壊れてしまうと考え、訳を話して追い返そうとする。
しかし宗三郎は話が通じない。逆に愛想尽かしと勘違いし、怒って村正で鞘ごとおときの肩に食らわせると、鞘が割れ、誤っておときを切ってしまう。
狂った宗三郎、下女と様子を見に来た番頭をも切り殺し、祇園界隈で多くの人に切りつける。ついには二軒茶屋での踊りに乱入し暴れまわる。役人も手が付けられない。
知らせをきいて駆けつけてきた宗兵衛は、血刀をさげた弟を見て肝を潰し、役人に自分が召し取ると訴え、役人の許しを得て宗三郎を後から羽交い締めにする。
狂った宗三郎が刀を振り回すが、どういう訳か兄はかすり傷一つ負わない。
不思議に思った役人が「こりゃ。その方は何やつか」
「へい。私めは、切っても切れぬ伏見(不死身)の兄にございます」 でサゲ。

今回、この噺に関連する京都の地図が配られ、理解の助けになった。
宗三郎が蟄居した三条木屋町は鴨川の西側の川岸に近い場所で、今でも高瀬川沿いに料理屋や旅館が並ぶ閑静な場所だ。
反対に、おときが住んでいた富永町は鴨川の東側にあり、南座や祇園に近い賑やかな場所だったと記憶している。
この位置関係が大事で、夏の夜、宗三郎と番頭が東山の光景から南禅寺、知恩院、八坂神社と次第に近場に目が移り、八坂神社から祇園、そしておときが住む富永町に。ここで宗三郎の寝た子を起こす事になってしまう。
この光景変化や宗三郎の心理変化が、田村かよ(美声!)による三味線と唄「京の四季」に乗せて表現されてゆく。
新治の高座は、前半の宗三郎が扇子片手に浮き立ちながら祇園を歩く風景から、一転して後半の殺しの場面での様式美、はめものと呼吸の合った所作が披露され、今回も素晴らしい出来だった。

 

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2019/05/09

「芸協仲夏祭花形」(2019/5/8)

第30回大演芸まつり 「芸協仲夏祭花形」
日時:2019年5月8日(水)13時
会場:国立演芸場
<   番組   >
前座・神田桜子『ジャンヌダルク』
春風亭昇々『お面接』
桂文治『鈴ヶ森』
春風亭昇太『そば清』
~仲入り~
『口上』日本演芸家連合会長・三笑亭夢太朗を始め、出演者全員が並ぶ。
玉川太福(曲師 玉川みね子『石松代参・三十石』
ねづっち『漫談』
三遊亭遊雀『三枚起請』

2日前にこの会があるのを思い出し、ダメ元でチケット予約したらスンナリ取れた。こんな事もあるんだ。
地下鉄の永田町を降りて階段で地上に出ようとしたところ警官が立っていて、「天皇陛下が通るのでここで待って」と止められた。2分ほどで解除されたが、歩道も止められると初めて知った。

昇々『お面接』、文治に付きまとわれていると言った楽屋落ちから新作へ。お受験の面接のこの噺、どこが面白いんだ。

文治『鈴ヶ森』、この人独特のリズムと噺がよく合っていた。旅人が新米の泥棒に「お前、泥棒の二つ目だな」は面白かった。いつもの癖、受けを狙うような間を持たなかったのは良い。

昇太『そば清』、子どもの頃に自宅に電化製品が来た当時の思い出など長いマクラで、このまま終わるのかと思っていたら食い物の話からネタへ。そば清が身体の回りに置いてあるソバを片端から食べるという演じ方。ソバ賭けの相手の顔を伺いながらニヤリと笑顔を浮かべたり、完食の最後の1本をツルリと食べ、してやったりの表情を浮かべる所が良い。最後の方でそば清が食べた草が人間を溶かすものだったと説明してサゲたが、あれは予め仕込んでおいた方がサゲが効果的にだと思う。

『口上』で、芸協が次第に活気が生まれてきたと言っていた。松之丞が来年2月11日の真打昇進にともない、6代目神田伯山を襲名するなど、ここのとこ目出度いニュースが続いている。文治も言ってたが、中堅やベテランもそれに負けじと頑張って欲しい。

太福『三十石』、御存じ廣澤虎造の代表作、「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」「食いねえ、食いねえ、寿司食いねえ」は、子供たちでさえ口ずさんでいた。外題付けから啖呵まで虎造と同じだが、張りのある声と独特の節回しで客席を盛り上げていた。

ねづっち『漫談』、ライブでは初めて。沖縄でお神籤を引くと凶ばかり。何故なら「もう吉(基地)はいらない」は秀逸。客席から題を貰ってその場で謎かけを披露する腕は大したものだ。客席から「安倍晋三」、即座に「マジシャン」と解く、そのココロは「トランプが気になります」。お見事。

遊雀『三枚起請』、先日、兼好で聴いたばかりだが、やはり遊雀の方が上手い。騙され三人男それぞれの人物像や、海千山千の花魁の描き方が巧みで、終盤の男たちと花魁との掛け合いがドラマチックになった。いずれ芸協は、この人が引っ張って行くことになるだろう。

 

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2019/05/05

名作落語の夕べ(2019/5/4)

第200回にぎわい座「名作落語の夕べ」
日時:2019年5月4日(土)18時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
前座・三遊亭遊七『たらちね』
三遊亭兼好『三枚起請』
入船亭扇遊『付き馬』
    《仲入り》
立川生志『木乃伊取り』
柳家さん喬『幾代餅』

出囃子にも使われている俗曲「梅が枝の手水鉢」の中にこんな文句がある。
♪お互いの胸と胸
合わせて子どもが出たときは
もしもその子がいい子なら
そのときゃお役者 そーれ頼む
もしもその子が変な子なら
そのときゃ落語家 そーれ頼む♪
つまり、器量のいい子なら役者、悪けりゃ落語家というわけだ。
近ごろは、特に女流は器量のいい子が多いね。噺家には勿体ない。
『明烏』のセリフじゃないが、「あんたがた、他にやるべきことが無いんですか!」。こんなこと書くと、また女性蔑視だのとお小言を頂戴するかな。近ごろはウルセエ奴が多いからね。

この小屋は、開演前にナントカ言うオジサンが出てきてネタの解説をするが、あれは余計だね。落語は想像する芸だから。

兼好『三枚起請』
マクラで鳥の物真似をして会場を沸かせネタに入る。こういう所はさすがだ。
ただ、起請文というのが分かりづらいので、説明をしておいた方が親切だったのでは。、正式な起請文は熊野三所権現発行の午王の宝印に書き付ける。宝印には熊野権現のお使いの烏をかたどった文字で呪文が記してあり、嘘をつくと熊野の烏が血を吐いて死ぬと言う。
これがサゲに使われている。
兼好が描く花魁は可愛らしくて、あれじゃ男は騙される。最後に居直って啖呵を切る所も良く出来ていた。

扇遊『付き馬』
扇遊のこのネタは今年に入って2度目だが、今回も素晴らしい出来だった。何より完成度が高く、一分の隙もない。
最初に、男が上から下までゾロリとした身なりをしていたことを述べるが、だから妓夫太郎はこの身なりで男を信用してしまう。
湯豆腐で一杯飲んだ代金が95銭という金額も妥当だ。3円とか4円とする演者もいるが、それでは揚げ代が26円50銭との辻褄が合わない。
後半の早桶屋の主人と妓夫太郎の珍妙な掛け合いも良い、妓夫太郎がようやく勘定を受け取れるワクワク感から燥ぐ姿が良く表現されている。
今や、このネタは扇遊がベストだ。

生志『木乃伊取り』
毎度思うのだが、この人のマクラはピリリと風刺も利いていて面白い。
だが、ネタに入るとマクラに比べテンションが下がる気がするのだ。
このネタの勘所は、飯炊きの清蔵が角海老に乗り込んで、若旦那に家に戻るよう説得する場面だ。懇願する清蔵に、若旦那は生意気な口をきくからと暇を出すと命じる。ここで清蔵は居直って、本気で怒りをぶつける。この気迫に若旦那も押され、帰宅すると言い出す。生志の高座では清蔵の気迫は足りないのだ。村相撲では大関だったと胸を叩いたりして見せるが、気迫とは別物にしか見えない。
ここが物足りないので、清蔵が花魁のかしくの手練手管に篭絡される最後の場面が生きない。

さん喬『幾代餅』
非の打ち所がない、と言いたい所だが、同じ事の繰り返しが多いと間延びした印象になってしまう。丁寧というより諄いのだ。
もっと簡潔に演じた方が、山場の清蔵が幾代に真実を打ち明ける場面で、客はより感情移入出来ると思うのだが。

 

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2019/04/28

第479回「花形演芸会」(2019/4/27)

第479回「花形演芸会」
日時:2019年4月27日(土)13時
会場:国立演芸場
<   番組   >
前座・春風亭朝七『桃太郎』
林家扇『宗論』
三遊亭歌太郎『ガマの油』
おちもり『漫才』
古今亭駒治『10時打ち』
―仲入り―
三遊亭歌奴『阿武松』
林家あずみ『三味線漫談』
台所おさん『大工調べ』

ブームかどうか分からないが、落語ファンが増えてきたのは間違いない。この会も満席だったが、この顔づけで以前なら考えられなかった。
よく言われているが、国立演芸場での「談志ひとり会」でも満員になることは滅多に無かったようだ。
志ん朝独演会でも大概は当日に入れた。
寄席だの落語会なんてもんは、本来はその日になってフラリと行くものなのだ。
落語ファンが多くなったことは業界では喜ばしいかも知れないが、私たち客にとっては迷惑でしかない。チケットは取りにくいは、入場料は上がるは、全くいい事なし。

この日は「待ってました!」の掛け声が多かった。二つ目の若手にも掛かっていたが、本人としては嬉しいだろう。

扇『宗論』 、初見。女流のこのネタは始めて聴いた。着物姿で金髪って、どうよ?

歌太郎『ガマの油』、客席を見回し、若手らしからぬふてぶてしさでマクラを振る。ガマの油売りの口上で拍手が沸いていた。来年の真打披露公演、楽しみにしている。

おちもり『漫才』、初見。ボケ役がかつての「ボヤキ漫才」の様にネタを振ると。ツッコミ役がこれを冷静にツッコミ返す。関西弁と東京弁、陰と陽といった対比を活かしていて面白かった。

駒治『10時打ち』、JRの人気列車の指定席を取る時は早くから並ばねばならない。希望の席が取れるかどうかは、係の駅員が10時丁度に(秒単位を争うそうだ)指でうてるかどうかで決まる。これを「10時打ち」と言うらしい。落語ファンに置き換えれば、「扇辰・喬太郎 二人会」を発売日の10時丁度にキーを押せるかどうか、そう考えれば理解し易い。黄金の指を持つ駅員を東京駅と上野駅が争奪しあうというストーリー。『明烏』をクスグリに挟んで面白く聴かせた。
駒治の高座は何度か観ているが、古典は演らないのだろうか。古典を磨いた方が新作にも活きると思うのだが。大きなお世話かな。

歌奴『阿武松』、美声と大きな体を活かした、毎度お馴染みの相撲ネタ。この人が高座に上がってくるだけで会場が明るくなる、貴重な存在。

あずみ『三味線漫談』、この日は「長崎ぶらぶら節」と「なすかぼ」を披露。いつもの寄席より気合が入っていた。

おさん『大工調べ』 、少し訛りが感じられるのとボソボソ喋る印象から、このネタをどう演じるのか興味があった。結論から言えば、棟梁の胸のすくような啖呵は良く出来ていた。因業大家の嫌味を棟梁が我慢しながら辛抱していたが、堪忍袋の緒が切れてという件も巧みに表現されていたし、棟梁の真似をする与太郎のたどたどしさも上手かった。
ちょいと見直しました。

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2019/04/26

笑福亭たま深川独演会(2019/4/25)

「笑福亭たま深川独演会」
日時:4月25日(木)19時
会場:深川江戸資料館 小劇場
<   番組   >
瀧川鯉丸『かぼちゃ屋』
笑福亭たま『いらちの愛宕詣り』*
桂塩鯛『試し酒』
笑福亭たま『口入屋』*
~仲入り~
笑福亭たま『落語と私』
(*ネタ出し)

上方落語の俊英(勝手に名付けたが)・笑福亭たまの深川独演会、番組が面白そうだったのと、ゲストの桂塩鯛が久々だったので出向く。

鯉丸『かぼちゃ屋』、鯉昇の弟子で芸協の二ツ目、素直な印象の高座で好感が持てる。

たま『いらちの愛宕詣り』
東京では『堀の内』というタイトルでお馴染みのネタだが、通常の演じ方とだいぶ中身を変えていた。
①いらちの男が翌朝顔を洗いに行くと、釣瓶井戸に落ちてずぶぬれになるのを3回繰り返す。
②着物を着てから褌をしめて女房に叱られる。
③男は西へ向かわねばならないのに東に向かったので北野天満宮に着き、また自宅に戻るのを2回繰り返す。
④弁当と間違えて枕を腰巻に包んでいたという所はカット。
⑤隣の奥さんに叱って、自分の女房に謝るサゲはカット。
⑥代わりに、いらちが治らないので愛宕神社に文句を言いに行くと、そこが北野天満宮だっというサゲにしていた。
他の演者に比べハイテンションでスピーディに展開させていて、大受けだった。

塩鯛『試し酒』
上方の噺家は型破りの人が多いので、マクラの種に困らない様だ。
このネタは古典の様に扱われているが、昭和初期の新作落語。5代目柳家小さんが絶品で、今も小さんの型で演じられている。
塩鯛の高座は細部に至るまで東京と同じ演じ方だったが、5升目の飲み方だけはかなりきつそうに飲んで見せた。
上方の噺家が東京で演じる場合、東京でも馴染みのあるネタを選ぶ傾向がある気がするのだが、こちらとしては寧ろコテコテの上方落語を聴いてみたい。

たま『口入屋』
1席目と異なりこちらのネタは改変は無く、以下の部分をカット又は短縮して演じた。
①丁稚が口入屋に行って器量の良い女中を店に連れ帰るまで
②番頭の命令で早寝させられた奉公人たちが、女中を狙ってお互いに牽制しあいながら寝付くまで
省略した部分は大筋には影響せず面白さは損なわず、却ってストーリーとしてはすっきりとしたものになっていた。
たまのこうした工夫が観客に受けている。

たま『落語と私』
新作のタイトルは桂米朝の著作。ある男が落語の『たちぎれ線香』を聴いて、中に出てくる「こ糸」に恋してしまう。相談を受けた友人が、それなら落語の世界に入って会いに行こうと誘い、『こぶ弁慶』の名人・浮世又平の子孫に頼み、米朝の著作に二人の名前を書いて貰うと、本当に落語の世界に入ってしまうという噺。中身は、お馴染みの噺を次々と繋いだ「五目落語」(又は「落語ちゃんちゃかちゃん」)ともいうべき代物。『弥次郎』から始まって『天狗裁き』でサゲるまで、十数個のネタが全て分かれば、あなたも落語通です。

 

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2019/04/23

国立名人会(2019/4/21)

第428回4月「国立名人会」
日時:2019年4月21日(日)13時
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・三遊亭ぐんま『権助魚』
春風亭百栄『桃太郎後日譚』
柳家喬之助『口入屋』
三遊亭白鳥『黄昏のライバル』
―仲入り―
桃月庵白酒『だくだく』
寒空はだか『漫談』
柳家喬太郎『結石移動症』
(前座以外はネタ出し)

4月に入ってから珍しく飲み会が2度あった。いずれも年に一度お声をかけて下さる方々で、一人は一緒に部署にいたのは数年、もう一人は業務の面では関わり合いがあったが一度も同じ部署で仕事はしたことがなかった。人間関係というのは面白いもので、長年仕事を共にしながら年賀状をヤリトリする程度という人もいれば、前記の様な人もいる。

4月の国立名人会、いつもは「ボッチ」主義だが、今回はこれも珍しく息子と一緒に出掛けた。前回はいつだったか思い出せないくらい遠い昔だ。
今回の名人会は、出演者が口を揃えて言ってたが、名人会らしからぬ異色の顔ぶれとなった。

ぐんま『権助魚』、上手くなりそうだ。もしかしたら師匠を追い越すかも。

百栄『桃太郎後日譚』
鬼退治から宝物を持って帰ってきた桃太郎の家に、犬、猿、雉の3匹が居座って酒ばかり飲んでいる。手を焼いたお爺さんとお婆さんが桃太郎に匹を追い出して欲しいと頼むが、3匹側はたったきび団子1個で危険な仕事させられたと居直る。すると桃太郎は、お前たちが有名になったのは桃太郎という存在があったからで、動物だけだったら世間は相手にしなかったと反論する。今度は3匹側が、鬼ヶ島では桃太郎が妻子が命乞いをする中で、笑いながら鬼の父親を斬り殺していたとお爺さんとお婆さんに伝えると・・・。
ネタと百栄の喋りのリズムが合わないせいか、客席の反応は今ひとつ。
お伽噺の桃太郎はツッコミ所満載だ。春風亭小朝の『桃太郎』では、子どもが父親にこのストーリーを米国のイラク攻撃に例えて説明するという手法を採っていた。
そうしたバリエーションの一つ。

喬之助『口入屋(引越しの夢)』
今までに何度かこの人の高座を観てきて辛口の感想を述べてきたが、この日は面白かった。テンポが良く、噺の運びがスムースだった。何を喋っているのか不明な「てんどん」という奉公人というクスグリは秀逸。

白鳥『黄昏のライバル』
20年後の落語界の姿。白酒が協会会長で人間国宝となる。小三治は「もう小言念仏は高座にかけません」と誓うし、ライバルだった一之輔は痴情関係のもつれから一花に刺されてしまう。
かくして上り詰めた白酒だが、更に上を目指す意欲を失う。心配した弟子が、かつては最大のライバルで今はおでん屋をしている三遊亭白鳥の元を訪れ、師匠と落語で対決して欲しいと頼むが・・・。
ナンセンスなストーリーで、全編これ楽屋落ちとギャグいうネタだったが、会場は大受けだった。

白酒『だくだく』
白鳥にいじられて、やりにくそうに演じ始めるが、ネタに入ってからはいつもの調子。手裏剣や忍術まで繰り出す「つもり」合戦で沸かせる。

はだか『漫談』
喬太郎の会では色物としてよく登場するが、初めてという客も多かったようだ。歌唱力を活かした歌謡漫談というべきジャンルに属するのだろう。最後はお約束の「東京タワー」で締め。

喬太郎『結石移動症』
いつもの池袋自虐ネタから本題へ。
池袋の風俗街の中にある食堂のオヤジさんで名前は賢ちゃん、味は良くないが出前を細目にしてくれるので、ソープ嬢たちからは重宝がられている。そんな賢ちゃんだが、結石移動症という難病に罹り痛みに耐えがたく、近ごろでは店を休む日が続いていた。心配したソープ嬢たちからはお見舞いが届くが、中身は既製品のソースばかりで、味付けを研究してねという手紙が添えてあった。
ある日、賢ちゃんの所へ折合いの悪かった一人息子が突然訪れ、結婚したいという娘を紹介する。処が、その娘は賢ちゃんとは顔なじみで、以前はソープで働いていた。事実を知って驚く息子。それを事前に息子に打ちあけていなかった娘に腹を立てる賢ちゃんだが、結石移動症の激痛が襲う。聞けば余命3ヶ月とか。見かねた娘は知り合いの鍼灸師の堀田さんを呼んで治療をして貰うと、賢ちゃんの病気は全快し、娘の真心に感謝する。
「針医の堀田と賢ちゃんの石(ハリー・ポッターと賢者の石)」、この話が本になるとベストセラー、映画は大ヒット、やがて全世界に拡がっていった。
人情噺風の新作でベタな中身だが、喬太郎の語りの上手さで聴かせていた。

いつもはハネタ後は直帰だが、この日は寿司屋に寄って、たらふく食いたらふく呑んで、ご機嫌で帰宅。

 

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2019/04/22

三田落語会「一朝・新治」(2019/4/20)

第57回「三田落語会」夜席
日時:2019年4月20日(土)18時
会場:文化放送メディアプラスホール
<  番組  >
前座・金原亭乃ゝ香『堀の内』
春風亭一朝『唖の釣り』
露の新治『抜け雀』
~仲入り~
露の新治『千早ふる』
春風亭一朝『刀屋(おせつ徳三郎・下)』

長く通っていた落語会でも会場が変わると足が遠くなる。この三田落語会も、以前の仏教伝道センターから今の文化放送メディアプラスホールに会場が移ってから出向くのは今回が初めてだったが、やはり雰囲気が違う。前の様な手作り感が薄れた気がする。
入場料が上がったのと、次回公演のチケット前売りが無くなった。

乃ゝ香『堀の内』、久々に下手な前座に出会った。

一朝『唖の釣り』
差別的表現があるのでマスメディアでは放送できないネタだ。
一朝のの良さは持ちネタが多く、しかも当たり外れの無いこと。貴重な存在だ。

新治『抜け雀』
このネタのサゲは、一文無しだった絵描きがっ立派になって宿に戻り、父親の書いた絵を前にして親不孝を詫びる。宿の亭主が訝ると、「親を駕籠かきにした」というもの。これを「駕籠かき=下賤な職業」と解釈してきたが、新治の解説だとこれは間違いだった。
このセリフは元々が浄瑠璃の『双蝶々曲輪日記』の中で、娘が乗った駕籠を担いでいたのが父親だと知って嘆くセリフから採ったものとのこと。その由来は、昔は死者を駕籠に入れて葬ったのだが、子どもが先に死ぬと親が駕籠を担ぐことになる。これが「先立つ不孝」になるので、先の様なセリフが生まれるのだと言う。
落語は深いね。こういう解説を聞くとネタの奥行きを感じる。
ストーリーは東京の高座と同じだが、絵描きが衝立を前にして、筆を持ったまま下腹に力を入れてから一気に描いていたことだ。父親の場合は、片手襷に操ってから絵を描いていた。こうした仕草を入れることにより、絵に魂を込めていることを表現させている。
新治の解釈や仕草を、東京の噺家はもっと研究した方が良い。

新治『千早ふる』
こちらも東京のものとストーリーは同じだが、独自のクスグリが面白かった。
例えば、龍田川が相撲とりだと聞かされると、男が「そんな名前は知らない」と否定すると、甚兵衛が引力を持ち出して「お前が引力を知る前から引力は有った」。存在と認識の哲学的問答だね。
甚兵衛が「お前がそんなんだから、お前の女房があんな事するんだ」、男が「え、うちの女房がなにしたんでっか?」と言うと、甚兵衛は「そんなもん、女房に訊け!」と答える。このヤリトリが何度か繰り替えされる。
とにかく、二人の会話の妙がやたら可笑しかった。

一朝『刀屋(おせつ徳三郎・下)』
おせつ徳三郎・上の『花見小僧』は時々高座に掛かるが、下の『刀屋』は演じる機会が少ない。
おせつとの深い仲が主人に知れて店を馘首された徳三郎が、おせつが婿取りをすると聞いて逆上し、婚礼の場に乗り込んで二人を斬るために刀屋を訪れる。どうも様子が変だと気付いた刀屋の主が事の経緯を聞き、徳三郎を諫める。そこへ出入りのカシラが店に来て、おせつが婚礼の席から逃げ出したと告げると、徳三郎は店を飛び出しておせつを探しだす。深川で再会を果たした二人だったが、追手が近づいたことを知り題目を上げながら川に身を投げて心中を図るが、場所が木場だったので材木の筏の上に落ちてしまう。
「お題目(材木)のお陰で助かった」のサゲは『鰍沢』と同じ。
一朝の高座は、この噺の勘所である刀屋の主人の厳しさと優しさが良く表現されていた。

 

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2019/04/19

三遊亭圓生『早桶屋』で分かった「図抜け大一番小判型」の謎

6代目三遊亭圓生に『早桶屋』というネタがある。圓生はこの噺を名人といわれた4代目橘家圓喬の高座を聴いていて、教わったのは初代柳家小せん(通称メクラの小せん)からだ。
この噺は通常『付き馬』という名で演じられていて、中身はほぼ同じだが、圓生の『早桶屋』ではマクラで早桶の解説をしている点が異なる。これは、このネタの後半を理解する上で大事なポイントだ。

早桶は、死者が出た時に間に合わせで急いで作るところから、この名が付けられた。座棺で、死者は座ったまま前で手を組んで棺に葬られる。明治から大正初期まで使われていたそうだから、この噺もその頃の時代のものだろう。
早桶の種類は4つあった。
・並一番:男性用
・並二番:女性用
・大一番:背の高い男性用
・図抜け大一番:相撲取りの様な大男用

噺の中で、付き馬を騙して料金を踏み倒す男が、早桶屋の「おじさん」に注文するのが「図抜け大一番小判型」だ。私は以前から、なんで男がこんな形の注文をしたのか、ずっと不思議に思っていたのだが、圓生の解説を聞いて納得できた。
男が注文する早桶が既に店に有ったので話が成り立たない、つまり特注品であることが必要なのだ。
後半のストーリーでは、男が他の店では断られてたが、「どうしてもコサエテ貰いたい」として「おじさん」に話を持ち掛けるという設定だ。職人が面白そうだからやってみるという事で、「おじさん」もコサエルと請け合ってしまう。つまり、特注品ではあるが、製作は可能という製品を狙ったわけだ。
この男はよほど優秀な詐欺師だったようで、全て計算し尽くしている。
なぜ男の注文が「図抜け大一番小判型」なのか謎が解けた。

圓生の高座では、更に綿密な仕掛けが施されている。
先ず、男が湯屋に行くと言い出すと付き馬が訝る。そこで男は、「田町のおばさんの所へ行けば、50や100(円)の金は直ぐに用立ててくれる」と言って、付き馬を安心させる。当時の田町は、浅草の一部から日本堤周辺の一帯を指すので、吉原からも近いのだ。処が男は仲見世から雷門方向に歩いて行く。つまり田町からどんどん離れてゆくので、付き馬が怒り出す。そこで男は、田原町の「おじさん」を持ち出す。
また、男は付き馬に「おじさん」から40円を受け取ってくれと、金額を明示する。揚げ代の28円50銭に湯屋、小料理屋での飲み食いの立て替えに加えて、数円の付き馬への祝儀が含まれた金額だ。さらに帯を付けてくれると言うのだ。
あまりに美味しそうな餌を仕込んで来るので、すっかり付き馬もご機嫌を直してしまう。

圓生の噺を聴いて、改めてこのネタは良く出来ていると再認識した次第。

 

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