演劇

2018/01/18

馬の足に拍手!「世界花小栗判官」(2018/1/17)

近松徳三・奈河篤助=作『姫競双葉絵草紙(ひめくらべふたばえぞうし)』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言「世界花小栗判官(せかいのはなおぐりはんがん)」 
四幕十場
発端    (京)  室町御所塀外の場
序幕<春> (相模)鎌倉扇ヶ谷横山館奥庭の場
             同 奥御殿の場
             江の島沖の場
二幕目<夏>(近江)堅田浦浪七内の場
              同 湖水檀風の場
三幕目<秋>(美濃)青墓宿宝光院境内の場
             同 万屋湯殿の場
             同 奥座敷の場
大詰 <冬>(紀伊)熊野那智山の場

<  主な配役  >
尾上菊五郎:盗賊風間八郎
中村時蔵:執権細川正元/万屋後家お槙
尾上松緑:漁師浪七、実ハ美戸小次郎
尾上菊之助:小栗判官
坂東彦三郎:横山次郎
坂東亀蔵:膳所の四郎蔵
中村梅枝:万屋娘お駒/浪七女房小藤
尾上右近:照手姫
河原崎権十郎:万屋下男不寝兵衛
ほか

新春の国立劇場の歌舞伎は、音羽屋一座による「世界花小栗判官」。
「小野小町か照手姫か」と謳われた照手姫と、これも伝説上のヒーロー小栗判官との恋模様を軸に、足利幕府に弓を引く盗賊(新田義貞の末裔)やその仲間との死闘を描いた作品。
いかにも歌舞伎の狂言らしい状況設定がなされている。

・お家騒動をめぐる忠臣と逆臣の対立、これには必ずお家の宝物をどちたが手に入れるかが重要なポイントとなる。
・忠臣のヒーローは美男でしかも滅法強い。ヒーローを命がけで守る家来がいる。
・ヒーローを慕うヒロインの美女がいて、二人はすれ違いを繰り返す。
・ヒーロー又はヒロインに横恋慕する人物が現れ、二人の間を邪魔する。
・主君やヒーローへの忠義のために、大事な人を殺めるという設定がある。
・ヒーロー又はヒロインが一時は絶対絶命のピンチを迎えるが、神仏のご加護で助かる。
・最後はヒーローが逆臣を成敗し宝物を取り返してお家は安泰、ヒロインと無事結ばれる。めでたしめでたし!で幕。

この筋立ては多くの歌舞伎狂言に共通するもので、鉄板と言ってもいいだろう。
今回の芝居では、悪人の盗賊風間八郎は成敗を免れた(なんと言っても菊五郎が演じてるからね)。
小栗判官に横恋慕する娘を母親が殺害し、娘が幽霊になって出て来るという場面もあって、怪談話入りの大サービス。
全体にエンターテインメント性の高い芝居となった。

見所は二つ。
・小栗判官が馬術の名手ということで、逆臣たちが暴れ馬に小栗を乗せて殺害を図るのだが、小栗は馬を鎮めて乗りこなすという場面がある。
ここで馬がサーカスで演じる様な曲芸も見せるのだが、何せ中は前足と後足の二人の俳優だ。背中には主役を乗せての動きなので相当に難しい動きだと思うが、これを見事に演じて観客からは大喝采。
馬の足に拍手!
・かつて小栗家の家臣で今は漁師となっていた浪七が、照手姫を悪人たちの魔の手から救うために彼らと死闘を繰り返し、最後は一命を賭して姫を救う場面。
この立ち回りが見せ場で、松緑の奮闘公演の様相を呈していた。女房小藤との別れの場面もしっとりと演じて良い出来だった。
松緑はかつてはセリフ回しに難があったが、今は全くそれを感じさせない。

役者の中では、松緑以外では梅枝の演技が光る。
命がけで夫を助けるという女房の役と、小栗に横恋慕したあげく母親の手にかかって殺されてしまうという対照的な二役だったが、それぞれの心中を深く表現していた。

場面が春夏秋冬という季節の変化、場所も京から相模、近江、美濃、紀伊と移り、目を楽しませていた。
初春らしい華やかな舞台だった。

| | コメント (0)

2017/12/27

「田茂神家の一族」(2017/12/26)

東京ヴォードヴィルショー第71回公演『田茂神家の一族』【東京凱旋公演】
日時:2017年12月26日(火)14時
会場:紀伊國屋ホール
【作】三谷幸喜
【演出】山田和也 
【音楽・演奏】園田容子
【    主なキャスト    】
田茂神嘉右衛門(前村長)   /石倉三郎
  たか子(嘉右衛門の長男の妻)/あめくみちこ
    健二(嘉右衛門の次男)/佐渡稔
    三太(嘉右衛門の三男)/佐藤B作
    四郎(嘉右衛門の四男)/市川勇
    常吉(嘉右衛門の弟)  /石井愃一
    茂(嘉右衛門の弟の娘婿)/角野卓造
井口(三太の選挙コンサルタント)/まいど豊
【その他の出演】
たかはし等・山本ふじこ・瀬戸陽一朗・中田浄
市瀬理都子・京極圭・玉垣光彦
村田一晃・大迫右典・石川琴絵
小沼和・喜多村千尋・平田美穂子

2015年初演の三谷幸喜書き下ろし作品『田茂神家の一族』の再演。
舞台はある地方の人口わずか105人の村。
24年間村長をつとめた田茂神嘉右衛門が事故で重傷を負ったため村長選に出馬できず、後継者と見られた長男も事故死。
そこで急遽、嘉右衛門の息子たちや弟、長男の未亡人らが立候補することになった。そこに東京で学者をしていた嘉右衛門の弟の娘婿も候補に加わり乱戦となる。
誰が当選しても田茂神家だが、結果はこの一族の主導権にも拘わるので、みな必死だ。
この日は村民お相手に合同演説会とあって激しい論戦が展開されると思いきや、訴えるべき政策もないので、自然と相手候補のスキャンダルを暴き合うネガティブキャンペーン合戦の様相を呈する。
票読みでは次男と三男が拮抗していたが、そこに重傷だった筈の嘉右衛門が現れ、村長選に立つという。こうなると村内の企業との強いパイプを持つ前村長が圧倒的に優勢だ。
これに対抗するために、息子たちは連合し候補者調整を行って父親に対抗しようとする。
ここまで選挙の圏外と見られたいた学者の茂が、自らが開発したヒューマン・ヴァイマス・エネルギーを使った発電所をこの村に建設し、村おこしすると宣言する。
これで形成は一変し、茂が次期村長に決まりかかるが・・・。

政策より人的なつながりや利害で動きがちな地方選挙への揶揄や、戯曲が書かれた時期を考えれば民主党政権の誕生と、その後の自民党による政権奪取も織り込まれているようだ。
スキャンダル暴露合戦を通じて、一人一人の生活実体を浮かび上がらせるという手法は巧みだし、会場は大受けだった。

しかし、カーテンコールで佐藤B作語ったのは、福島出身の佐藤が三谷に福島を舞台にした作品を依頼したし、出来たのがこの「田茂神家の一族」だと。
そうなると、茂が村に持ち込もうとしたエネルギー政策とは原発だったことになり、茂は中央政府そのもだったことになる。
ドタバタ劇のように見えて、作者の深い意図が窺える芝居だ。

公演は28日まで。

| | コメント (0)

2017/12/14

「通し狂言 隅田春妓女容性」(2017/12/13)

国立劇場12月歌舞伎公演

「今様三番三(いまようさんばそう)」
大薩摩連中
長唄囃子連中
源氏の白旗を奪った平家の姫君(中村雀右衛門)が、源氏の武士たちを「布晒(ぬのさらし)」の舞で追い払うという舞踊。
「布晒」というには新体操のリボン運動と同様で、2枚の長い布を両手で地面に先が落ちぬよう巧みに振り回す。重い衣装にカツラ姿で、しかも舞踊として美しく踊る所が見ものだ。

並木五瓶=作
国立劇場文芸研究会=補綴
「通し狂言 隅田春妓女容性(すだのはるげいしゃかたぎ)」 ―御存梅の由兵衛(ごぞんじうめのよしべえ)― 三幕九場
序幕  柳島妙見堂の場
     同  橋本座敷の場
     同     入口塀外の場
二幕目 蔵前米屋店先の場
      同     塀外の場
      同     奥座敷の場
      本所大川端の場
大詰   梅堀由兵衛内の場
      同  仕返しの場
<  主な配役  >
中村吉右衛門=梅の由兵衛
尾上菊之助=女房・小梅/弟・長吉
中村雀右衛門=芸者・額の小三
中村錦之助=金谷金五郎
中村歌六=源兵衛堀の源兵衛
中村又五郎=土手のとび六
中村歌昇=延紙長五郎
中村種 助=芸者・小糸
中村米吉=米屋娘・お君
中村吉之丞=医者三里久庵
大谷桂三=曽根伴五郎
ほか

1796年(寛政8)1月江戸桐座で、3世沢村宗十郎の由兵衛、3世瀬川菊之丞の小梅と長吉などにより初演。
元禄時代の大坂で、梅渋の吉兵衛という悪漢が丁稚長吉を殺して金を盗んだ事件を元に、主役を侠客として脚色した「梅の由兵衛物」もの。
メインストーリーは若旦那の金谷金五郎のため金策に苦しむ由兵衛が、女房小梅の弟長吉が姉に頼まれてこしらえたとも知らず、大川端で長吉を殺して金を奪う、という筋(すじ)を骨子として、小梅に横恋慕する源兵衛堀の源兵衛との達引を描く。
これにサイドストーリーとして、お家の家宝である「菅家手向山の色紙」の盗難事件をめぐって忠臣と逆臣との争いが、金五郎が恋い焦がれる芸者小三の身請け話と、それを邪魔する曽根伴五郎との諍いに絡んでゆく。

「日に千両 散る山吹は 江戸の花」
「日に三箱 鼻のうえした 臍のした」
江戸の町には、日に千両の金が動いた場所が3か所ある。吉原、魚河岸、そして芝居(歌舞伎)だ。
吉原が男の遊び場だったのに対し、芝居は「女こども」という言葉通り女性が多く、落語でもお馴染みのように定吉のような小僧が主人の目を盗んでこっそりと一幕ものを観るようなこともあったようだ。
歌舞伎というと何か難しいと感えられている向きもあるようだが、決してそんな事はない。そんな難しいものを当時の江戸の人が好んで観るわけがないのだ。
入場料が高いと思われているようだが、この日の料金は5500円。一階席の端のブロックではあったが前から5列目の通路側で、舞台はよく見えた。
近ごろの落語会の料金と相対比較しても、決して高いとは思えない。

この狂言では凄惨な殺しの場面や、誤って女房の弟を手に掛か手しまった主人公と女房の愁嘆場、女たちの夫や恋する男への一途な思いといった見せ場も、芝居の各所に出て来る笑いの場面があるから生きてくる。
何より由兵衛を演じた吉右衛門の颯爽した侠気が見ものだ。とても気分良さそうに演じているのが客席にも伝わってくる。
菊之助は、大川端の場面で姉の名を叫びながら殺害されてゆく長吉の無念さ演じ、姉の小梅との二役では早変わりで客席を沸かせる。
雀右衛門が元は武家の妻という芸者役で風格を見せ、若手の米吉の娘姿が可憐。

公演は26日まで。

| | コメント (0)

2017/12/12

「断罪」(2017/12/11)

劇団青年座 第230回公演「断罪」
日時:2017年12月11日(月)14時
会場:青年座劇場
 
作=中津留章仁
演出=伊藤大
<  キャスト  >
蓮見亮介 =大家仁志
岸本亜弓 =安藤瞳
山浦順子 =津田真澄
大久保充 =逢笠恵祐
西島至 =前田聖太
千田茜 =田上唯
蓮見彩 =當銀祥恵
玉城恵令奈 =市橋恵
荒木悟 =石母田史朗
佐久間猛 =山本龍二

ストーリー。
舞台は、ある芸能事務所のオフィス。いわゆる大手ではなく中小の芸能事務所だ。元は俳優部が主体だったが、今ではモデル部が稼ぎ頭になり、その部長である荒木が社の常務になり社内を取り仕切っている。
この事務所に所属する大物俳優が生放送で政府を批判する発言を行い、TVのレギュラーやCMを降ろされ、事務所を去った。そのため俳優部は大減収となり、荒木は部長の佐久間やマネージャーの蓮見の責任を厳しく追及する。
蓮見は荒木が激しく反発するが、止むを得ず部下には所属タレントへの一層厳しい締め付けを指示する。
部下の岸本は事務所の方針に対し「人権侵害」にあたると蓮見に訴えるが、取り合ってはもらえなかった。
タレントを商品としてではなく一人の人間として見て欲しいと願う岸本は、自分の正義を貫くため社内の実態を告発する文書を外部に発表する。
しかしこの文書は社内の告発にとどまらず、芸能事務所全体に共通する問題でもあったので、大手事務所やクライアントからの怒りをかってしまう。
このままでは事務所の存続すら危うくなると荒木は憤り、岸本に退職を迫るが、これに岸本や上司の蓮見が反発し、部員全体を巻き込んだ論争となる。
タレントは人間か商品か、タレントはメディアで政治的発言をしてはいけないのか、何でも大手事務所の言いなりにならなくてはいけないのか、
論争の中で浮かび上がる部員たちの本音と建前から、彼らの生活実体が浮かび上がってくる。
一時は売上至上主義でタレントは商品と割り切る荒木の方針が勝利するかに見えたが・・・・・・。

今のTV業界は大手芸能プロ数社が握っていると言っても過言ではない。NHK紅白、レコード大賞、バラエティ、ワイドショー、ドラマ、CM、いずれをとっても、大手プロダクションの息のかかったタレントが主要ポストを占めている。
そして逆らえば干される。
劇中で、ワイドショーのコメンテーターに必ず政府側のタレントを入れるというセリフがあったが、事実だろう。それが連中のいう政治的中立だそうだ。
仕事を貰うために女性タレントたちが有力者に身体を提供する「枕営業」についても語られていた。
こんな腐った状況を放置しておけば、やがてTV自体が見放されてゆき、そうなれば芸能プロも全部無くなるという予言は、あり得ることだ。
「沈黙は迎合している事と同じだ」
「お前の戦争反対は感情だが、俺は理性で反対している」
これも蓮見のセリフだ。

今日的テーマに鋭く切り込んだ2時間の舞台は、終始緊張感に包まれていて、見ごたえがあった。
芸能プロの内情から出発し、やがて日本全体の普遍的な問題に及んでいくという脚本はよく練られている。
脇の出演者にセリフのミスがあったのは残念だったが、大家仁志、安藤瞳、津田真澄の好演が光る。

公演は17日まで。

| | コメント (0)

2017/11/24

『蒲田行進曲』 '(2017/11/23)

“STRAYDOG”番外公演『蒲田行進曲』
日時:2017年11月23日(祝)14時マチネ
会場:明石スタジオ

作:つかこうへい
演出:森岡利行
<  キャスト  >
階戸瑠李:小夏
流コウキ:銀四郎 
外村海:安次
大江裕斗:監督  
中野克馬:マコト 
新井心也:橘
佐藤仁:若旦那
山田奈保 亀田彩香 高島芽衣 宮下涼太:アンサンブル

ストーリー
東映京都撮影所は、大作「新撰組」の撮影に沸いていた。
最大の見せ場は、土方歳三に斬られた役者が大階段から転がり落ちる「階段落ち」シーンで、名もない大部屋俳優にとって一世一代の晴れ舞台。但し、良くて重体、悪くすれば死に至る。
この撮影で土方歳三役でその主役を張るのは銀四郎で、彼には自分を「銀ちゃん」と呼んで慕うヤスという大部屋役者がついていた。
銀四郎の恋人である盛りに過ぎた女優・小夏が妊娠したと聞かされ、彼は出世のために小夏をヤスに押し付けたのだ。
二人は結婚して、妻の腹の中にいるのが銀四郎の子だと知りながら、夫となったヤスは大部屋として危険な役をこなしてお産の費用を出そうとする。結婚してからも銀ちゃんに惚れ込んでいた小夏の心は、子供の父親として頑張るヤスへと次第に移って行く。
やがて映画の撮影が進み、ヤスは銀四郎に斬られて階段から落ちる役は自分しかないと思い立ち、「階段落ち」を演じる。
祈る様な気持ちで待つ小夏・・・・。

映画が大ヒットしたので、観た方も多いと思う。
蒲田行進曲というタイトルにも拘わらず、物語は松竹蒲田撮影所ではなく東映京都撮影所だ。
つかこうへいの作による舞台も大当たりして今や伝説的な扱いになっている。
舞台を見損なってしまったので、今回いい機会と思いこの公演に出かけた次第。
感想は、ウ~~ンだ。
台本がそうなのか、演出なのかは分からないが、役者たちがやたら大声で怒鳴るセリフが続く。
そのためか、主役級の男の役者たちの声が嗄れてしまっていた。そこを無理して更に大声を出そうとするから余計に声が嗄れたり裏返ったりする。
これではセリフを通して役の感情が伝わらない。
小夏を演じた女優も殺陣のシーンは動きが綺麗で良かったが、いかんせん若過ぎる。30歳を過ぎた落ち目の女優の哀れさを表現するには無理がある。
若い役者さんたちが一生懸命に演じているという熱意だけは伝わってきた。

| | コメント (0)

2017/10/12

「トロイ戦争は起こらない」(2017/10/11)

「トロイ戦争は起こらない」

日時:2017年10月11日(水)14時
会場:新国立劇場 中劇場

脚本:ジャン・ジロドゥ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
<  キャスト  >
~トロイ側~
金子由之:プリアム/国王
三田和代:エキューブ/王妃
鈴木亮平:エクトール/王子
鈴木杏:アンドロマック/その妻
江口のりこ:カッサンドル/王女、予言者
川久保拓司:パリス/王子
福山康平:トロイリュス/王子
角田萌果:ポリクセーヌ/王女
大鷹明良:デモコス/元老院の長、詩人
花王おさむ:幾何学者
チョウヨンホ:ビュジリス/法学者
~ギリシャ側~
一路真輝:エレーヌ/スパルタ国王の王妃、パリスに誘拐される
谷田歩:オデュッセウス/ギリシャ軍の知将
粟野史浩:オイアックス/ギリシャ軍の隊長
(演奏:金子飛鳥)
ほか

【あらすじ】*ネタバレ注意
ゼウスとレダの間に生まれたエレーヌは絶世の美女。今はギリシャ国王の王妃となっていたが、彼女の美しさに魅かれたトロイの王子パリスはエレーヌを誘拐してトロイに連れ帰ってしまう。
妻を奪われ、名誉を汚されたギリシャ国王・メネラスは激怒し、「エレーヌを返すか、われわれ、ギリシャ連合軍と戦うか」とトロイに迫る。
一方、永年の戦いに勝利したトロイの王子エクトールが帰国し、妻のアンドロマックと再会を喜び合い、もう戦争はこれで最後にしようと決意する。
しかし、国王のプリアムやそのとりまきたちは、たとえ再び戦争を起こしてでもエレーヌを返すまいとする。
トロイの民衆もまたエレーヌの美貌の虜になり、国王を支持する。
幾度にもわたる戦場での生活に虚しさを感じていたエクトールは、平和を維持するためにエレーヌを返そうと説得するが、誰も耳を貸そうとはしない。
やがてエレーヌ引渡し交渉の最後の使者・ギリシャの知将オデュッセウスが、部下のオイアックスを引き連れてやってくる。
開戦派のオイアックスはトロイに中で数々の挑発行為を行うが、エクトールはこれを制し、オデュッセウスと会談の末、エレーヌをギリシャに返すことで合意する。
これでトロイ戦争は起きずにすんだかと思ったら、元老院の長であるデモコスが民衆を扇動し戦争に駆り立てようとする。
やむなくエクトールはデモコスを刺殺するが、これがギリシア軍のオイアックスの仕業と誤解され、結局トロイ戦争は起きてしまう。

この戯曲が初演されたのは1935年で、第一次世界大戦が終結したが、おりからドイツではナチスが勃興し、再び世界大戦の危機が迫っていた。事実、この数年後に第二次大戦が勃発する。
作者ジロドゥは外交官であり、第一次大戦に参戦し負傷をしている。それだけに再び戦禍が引き起こされることを憂慮し、恐らくはその警鐘をこめてこの作品を書いたものと思われる。
ちょっとしたきっかけであっという間に戦争に突入する恐ろしさや、劇中でエクトールによって語られる戦場の悲惨さなどは、作者自身の体験によるものだろう。
あるいは何とか戦争を回避するために努力するエクトールの姿は、作者自身の願いだったのかも知れない。
トロイ国王のとりまきの連中では、戦意高揚の標語を作ったり、軍歌を作詞したり、開戦の口実を探したり姿は、太平洋戦争時の日本を思い起こす。

今の日本の現状を考える上でも、意義のある芝居だと思う。
惜しむらくはセリフがやや分かり難いのと、第一幕が冗漫に感じられた。
後方の席には空席が目立っていたのが残念だった。

公演は22日まで。

| | コメント (0)

2017/09/21

Oh! 懐かしの浅草オペラ

「田谷力三物語」(2017/9/20)
日時:2017年9月20日(水)19時
会場:浅草・花やしき座

台本・作曲家:清島(佐々)利典
音楽監督・アレンジ:榊原徹
<   キャスト   >
田谷力三:杉潤一郎  テノール
ローシー 口上:中村憲司  バリトン
戸山英二郎(藤原義江):安保克則  テノール
小林愛雄、杉寛、木佐野 :上田誠司   バリトン
堀田金星、熊公:李昇哲    バリトン
安藤文子、おてく:佐藤智恵 ソプラノ
天野喜久代、登志子、八重吉:二宮望美 ソプラノ
木村時子、おかん:栗田真帆 アルト

ヴァイオリニスト:横山久梨子
電子ピアノ 内海清佳
テアトルアカデミー・Musica Celeste合唱団 ダンサー・合唱・アンサンブル

幕前解説:小針侑起
休憩トークショー:笹山敬輔

【演奏曲目】
〇浅草オペラ「カッフェーの夜」全編(コロッケの歌、おてくさんの歌、飲ん兵衛の歌、喧嘩の歌)
〇浅草オペラ人気曲より 大勝利の歌、ブン大将の歌、波をけり、お寺の壁に、リバプリック賛歌
〇オペレッタより ホフマン物語より舟歌、
ボッカチオよりベアトリ姐ちゃん、恋はやさし野辺の花よ、優しい手紙
〇歌劇 カルメンより序曲、闘牛士の歌、ハバネラ
リゴレットより女心の歌、椿姫よりアリア一部

浅草オペラが花開いたのは大正7年で、大正12年の関東大震災でその幕を閉じる。5年間という短い期間だったにもかかわらず、そしてその舞台を観たという人は皆無かと思われるが、未だにある種の郷愁を感じるのは何故だろう。
私自身も、この舞台で歌われた曲の歌詞のいくつかは朧気ながら諳んじているのだ。
その浅草オペラが生んだダイスター、田谷力三の活躍を中心に、当時の浅草オペラの隆盛と衰退を短いエピソードでつないだ作品だ。

開演前と休憩時に、浅草オペラに関する解説やトリビアの紹介があったが、当時の熱狂的ファン(男性)はお目当ての女優の舞台に通いつめ、入り待ち、出待ちをしていた。
また女優の人気投票もあって、雑誌のハガキを投票用紙にしていたため、ファンの女優が上位に選ばれるように雑誌を100冊も買い占める男もいたとか。
そうか、AKB総選挙はそのパクリだったのか。

観客にとっての楽しみは何と言っても劇中で、あるいは第2部のガラコンサートで歌われる曲の数々だ。
当時の日本語の歌詞のつけ方のセンスに驚く。
例えば、「ベアトリーチェ」は「ベアトリ姐ちゃん」になる。
♪歌はトチチリチン トチチリチンツン
なんて粋な歌詞ではないか。
♪恋はやさし、野辺の花よ 明日の日のもとに 尽きぬ花よ
ロマンチックですね。
(以上「ボッカッチョ」より)
♪風の中の羽のように いつも変わる女心
(以上「リゴレット」より「女心の歌」)
♪恋は気ままなもの 誰の言うことも聞かぬ
(以上「カルメン」より「ハバネラ」)
こうした歌詞は、一度は耳にしたことがあるだろう。
舞台で繰り広げられる歌と踊りに、満員の観客席からは拍手、手拍子、掛け声がかかり、時には合唱になり、ご当地浅草の大正の時代を蘇えられさせていた。

| | コメント (2)

2017/09/08

「ワーニャ伯父さん」(2017/9/7マチネ)

SIS Company,Kera meets CHEKHOV vol.3/4「ワーニャ伯父さん」
日時:2017年9月7日(木)13時30分
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
<  キャスト  >
セレブリャコーフ(元大学教授):山崎一
エレーナ(若い後妻):宮沢りえ
ワーニャ(先妻の兄):段田安則
ソーニャ(先妻の娘):黒木華
ヴォイニーツカヤ夫人(ワーニャの母):立石涼子
テレーギン(隣人の没落貴族):小野武彦
アーストロフ(村の唯一の医師):横田栄司
マリーナ(乳母):水野あや
下男:遠山俊也
(ギター演奏:伏見蛍)

KERAさんのチェーホフ四大戯曲に挑戦するシリーズの第3作は「ワーニャ伯父さん」。
【あらすじ】
大学教授を引退したセレブリャコーフは、妻を亡くした後、年の離れた若い後妻エレーナを娶る。夫妻は都会暮らしに別れを告げ、先妻の親から受け継いだ田舎の屋敷に戻ってきた。
先妻の兄であるワーニャは、学者としてのセレブリャコーフ を長年崇拝し、彼の支えとなるために、25年にもわたって領地を切り盛りしながら、先妻の娘ソーニャ、 母ヴォイニーツカヤ夫人、隣人であった没落貴族テレーギンと共につましく暮らしてきた。
その一方、教授には毎年多額なお金を送金してきた。
しかし、ワーニャの目の前に現れたセレブリャコーフは、いつも体調も機嫌も悪く、尊大で身勝手な態度で人を困らせるただの年寄りだった。
その妻エレーナも、夫への不満と義理の娘との折り合いの悪さも手伝い、田舎暮らしに不安で憂鬱な日々を送っている。
屋敷には常に重苦しい空気が立ち込めるようになっていた。何よりもワーニャは、 人生の大半を捧げきた相手が、単なる俗物だった事実に虚しさと絶望を感じ、勤勉だった彼の生活は激変してしまう。事ある毎にセレブリャコーフに毒づき、母にたしなめられるが、その憤りは収まらない。
セレブリャコーフの具合が良くないと往診に来る医師アーストロフは、この村の唯一の医師として貧しい 農民への医療に従事する傍ら、森林の環境保護を訴えて、献身的な活動を続けてきた。
しかし彼もまた田舎暮らしに鬱積した思いを抱き、診療を放り出して屋敷に入り浸り、ワーニャと酒を酌み交わすことも多くなる。彼が屋敷に入り浸るもう一つの理由は、若い人妻エレーナへの恋慕だ。エレーナの方も彼には満更でない様子。
そしてワーニャもまたエレーナに対し熱い思いを抱いていた。しかし、エレーナに相手にされるはずもない。
一方、アーストロフを、ソーニャの熱い眼差しが追いかけるのだが、これもまた相手にもされない。
互いの心はすれ違い、それぞれの虚しい恋心だけが募っていく。
そんな中、セレブリャコーフが突然皆に、この領地の売却をしたいと告げた。
激怒したワーニャはセレブリャコーフにつかみかかり、発砲までするが幸い弾は外れる。
この騒動で夫妻はここを去る決心をし、医師のアーストロフも屋敷を出て行く。
元の生活に戻った形となったが、ワーニャは元教授への失望と、その妻エレーナへの失恋という二重の痛手の中で苦しむ。
彼の心情を察したソーニャは、ワーニャにそっと優しく「生きてゆきましょう、ワーニャ伯父さん・・・」と語りかけるのだ。

何か大きな事柄が起きるわけでもなく。物語としては淡々と進行する。
しかし、その時々の登場人物たちの心の動き、揺れ、そういった物が観客に静かに伝わる、そんな芝居だ。
特に幕切れの傷心のワーニャに対するソーニャの優しい言葉は素晴らしい。自らも傷ついていながら、叔父の心情に寄り添うソーニャの純真さには心が洗われる思いだ。
他の演出を見てないので何とも比較のしようがないのだが、KERAさんの手になるこの舞台はとても面白く出来ていた。

出演者では、やはり圧倒的にワーニャを演じた段田安則の演技が素晴らしい。この人は何を演らしても上手い。
純真で一途なソーニャを演じた黒木華の演技も良かった。器量が悪い娘という役柄だが、十分に美しい。
ワキでは、乳母役の水野あやの演技が目立った。いかにも19世紀末のロシアの地方に住む老女らしい雰囲気を醸し出していた。

公演は26日まで。

| | コメント (2)

2017/09/06

必見!文楽「玉藻前曦袂」(2017/9/5)

9月文楽公演第二部「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」
 清水寺の段
 道春館の段
 神泉苑の段
 廊下の段
 訴訟の段
 祈りの段
 化粧殺生石
日時:2017年9月5日(火)16時
会場:国立劇場 小劇場

落語の8代目春風亭柳枝が『王子の狐』のマクラでこの物語に触れているが、そのくらい良く知られた芝居なんだろう。
9月の文楽公演第二部は、「玉藻前曦袂」。
近松梅枝軒・佐川藤太の合作で、1806年(文化3)初演。
原作は天竺、唐土、日本にまたがるスケールの大きなものらしいが、今回はそのうちの日本編を上演。
ストーリー。
三国伝来の金毛九尾の狐伝説に、鳥羽院の兄・薄雲王子(うすぐものおうじ)の反逆を絡ませた構成になっている。
薄雲王子は弟から何とか帝位を奪おうと画策する一方、右大臣藤原道春の姉娘桂姫を妻に望むが退けられる。それに逆恨みして道春亡き後、鷲塚金藤次に命じて姫を討たせようとする。道春の後室萩の方は拾い子の桂姫に義理をたて、妹娘初花姫を差し出そうとするが、金藤次は桂姫の首を打ち、桂姫が自分の実の娘だったことを告げ、王子の悪計を白状して死ぬ。進んで犠牲になることを競って双六で勝負する桂姫・初花姫の哀れさ、萩の方の複雑な母性愛の表現、金藤次の「もどり」(悪から善に立ち返る表現)などが見どころの「道春館の段」が物語のクライマックスで、単独でも上演されている。
この後、初花姫は玉藻前となって入内し帝の寵愛を受けるが、金毛九尾の狐に殺され狐が玉藻前に化ける。
病気がちの帝に代わって薄雲王子が政務をとるが、愛妾の遊女への女色に溺れ政務に身が入らない。
そこに帝の病の平癒を祈祷するために訪れた安倍泰成によって玉藻前の正体が妖狐であることが暴かれ、同時に薄雲王子の悪事も露見してしまう。
那須野が原に逃げた妖狐は追手に討たれ、殺生石となる。

以上があらすじだが、舞台は愁嘆場あり口説きありチャリ場面ありに加えて、早替りから変身、おまけに宙乗りまであるという見所満載なのだ。
正に、ザッツ・エンターテイメント。
特に「化粧殺生石」では、座頭→在所娘→雷→いなせな男→夜鷹→女郎→奴に早替りで踊りを見せ、最後には玉藻前に変身した妖狐が十二単の姿で幕切れとなる。
それぞれの役の細かな動きが見もので、ここは人形遣いの桐竹勘十郎の奮闘公演の趣きだ。

4時間半を超える舞台は飽きることなく、私のような文楽のビギナーにはピッタリだった。
ということは、文楽が初めてという方にもきっと楽しんで貰えると思う。
見なきゃ損ですよ。

公演は18日まで。

一つ言い忘れていた。
玉藻前の正体が妖狐であることが暴かれる場面で、ふと小池百合子の顔が思い浮かんだ。
何故だろう?

| | コメント (2)

2017/08/31

テアトル・エコー「八月の人魚たち」(2017/8/30)

テアトル・エコー公演153「八月の人魚たち」
日時:2017年8月30日(水)14時
会場:恵比寿エコー劇場
作:J・ジョーンズ、N・ホープ、J・ウーテン
翻訳:鈴木小百合 
演出:酒井洋子
<  キャスト  >
森澤早苗:シェリー/永遠のチーム・キャプテン
杉村理加:レクシー/男漁りのイヴェントプランナー
薬師寺種子:ダイナ/男勝りの弁護士
重田千穂子:バーナデット/家族問題を抱える公立小学校教師
渡辺真砂子:ジェリー・ニール/天真爛漫な元修道女

毎回、肩の凝らないコメディで楽しませてくれるテアトル・エコーの芝居。
今回は米国のトリオ作家(珍しい!)の作品の舞台化で、劇団の看板女優たちが顔を揃えた。

かつて大学の水泳部のチームメイトだった5人の女性。卒業後はそれぞれの道、それぞれの人生を歩んでいるが、毎年8月には海辺にあるコテージに集まることにしている。
水泳部の監督の息子と結婚し、今でも仲間のキャプテンであるシェリー
男性より仕事の敏腕弁護士でリッチな生活を送るダイナ
3年周期で夫を取り換えては美容整形で若さを保つレクシー
家族に深刻な問題を抱えながらいつも明るくふるまう教員のバーナデット
修道女だったがシングルマザーになって皆を驚かせる天真爛漫なジェリー・ニール
彼女たちの44歳から77歳までの再会を通して、互いが抱える様々な人生の問題を、互いの友情とチームワークで乗り越えて行くという人生賛歌の物語。

舞台の小気味よい会話の応酬で客席は笑いに包まれるが、中年から老年にかけて女性たちが抱える問題の普遍性も明らかにされてゆき、とても良く出来た作品に仕上がっている。
いまトランプ政権で顕在化しているエスタブリッシュメントに対する南部の人々の反発も、チラッと顔をのぞかせていて興味深い。

何より5人の女優たちの個性溢れる演技に注目。
特に我々男性(私だけか?)にとっては、杉村理加のダイナマイト・バディに目が離せない。

公演は9月5日まで。

| | コメント (0)

より以前の記事一覧